第一話 仲間その6
俺は小屋からでて、城を目指して駆け抜けた。フェーデル曰く、今日は月終わりで、早めに仕事を終了するので、警備の数が少なく穴を突きやすいらしい。まずは貴族どもの支配の源である《《支配の宝玉》》を壊し、その後に貴族を殺すという段取りだ。
その宝玉は貴族たちが住まう城下の一等地、その中心にある記念公園に隠されているという。警備の穴をついいて近くの時計塔に入った。上から見下ろすと、掲げている銅像を中心に建物が立っており、あからさまに「ここに何かあります」と言わんばかりの不自然な配置だった。
銅像の内部に《《支配の宝玉》》が隠されているのか、あるいは地下深くに埋まっているのか、詳細は定かではないが、その周辺だけが明らかに異様な魔力の残滓を放ち、空気が歪んでいるように感じられた。迅速に破壊しなければ、すぐに多数の警備や魔術師に囲まれることは間違いない。俺はすぐさま時計塔の頂上から、例の銅像目掛けて猛禽のように飛び降りた。銅像の頭部を戦斧で粉砕し、そのまま内部に埋め込まれていたであろう《《支配の宝玉》》もろとも、地面が大きくえぐれるほどの渾身の一撃を叩き込む。砕け散った銅像の残骸と、えぐれた地面を見渡すと、禍々しい紫色を放つガラス質の破片が粉々に砕け散っていた。「これで貴族どもの支配の呪いか、それに類するものは解けたはずだ」俺は直感的にそう判断した。
打ち合わせ通り、その直後、爆発が起きた。これで計画通りにことが進んでいる。支配がなくなったことは確実である。
俺はすぐさま屋根を蹴って跳躍を繰り返し、城の本丸へと急いだ。眼下の広場では、呪縛から解放されたフェーデルが、これまでの鬱憤を晴らすかのように、彼を虐げてきた腐敗貴族やその私兵である騎士たちを、凄まじい勢いで手当たり次第に斬り伏せている。積年の恨みがあったのだろう、完全にペース配分を無視した獣のような、荒々しい動き方だ。俺はフェーデルの近くに音もなく降り立ち、合流した。彼の目には、抑えきれない憎しみの炎が赤黒く燃えていた。
「これで、最後だ。覚悟はいいか?」俺は問う。
フェーデルは力強く頷き、二人は謁見の間の重厚な扉を同時に強く蹴り破って内部に躍り込んだ。中では、逃げ遅れたのか、あるいは最後まで権力に固執していたのか、多くの貴族たちが奥で一つの塊となって震えていた。普段は権力を笠に着て横柄な態度を取っていた彼らが、いざ自分たちに直接的な危機が迫ると、こうも無様に怯える小動物のようになる。なんとも滑稽な光景に見えた。
その中から、憔悴しきってはいるものの、一人だけ毅然と前に進み出てきた貴族がいた。シルク・ド・カレイン。小屋の中でフェーデルが語っていた、かつての彼の側近であり、彼を裏切って貴族側に寝返った筆頭格の男だった。カレインは恐怖に顔を引きつらせながらも、最後の威厳を保とうとして震える声で言った。
「フェーデル……いや、陛下。これは一体どういうことだ。我らがこれまでどれほどあなたを立て、贅沢な暮らしを提供してきたと思っている? なぜ我々に矛を向けるのだ! 今さらこんなことをして、全てを投げ出して……貴様のせいで死んだ仲間たちが、それで許すとでも思うのか!!」
誰に責任があるかなど、この場では問うまい。俺はあえて口出しをしないことにした。
「そんなこと分かってる。けど、あいつらの思いを背負って生きていくつもりだ。」
俺はその言葉が嘘偽りであれば、ためらわずにフェーデルの首を刎ねるつもりだったが、彼の声色と瞳の奥に宿る揺るぎない信念と血を吐くような決意を感じ取ることができたため、今は信じることにする。
俺たちは、震える貴族たちをどんどん壁に追い詰めていった。そしてフェーデルが剣を振りかぶった。しかし、その剣は振り下ろされる寸前でぴたりと止まった。一瞬、最後の最後で情でも湧いたのかと俺は思ったが、フェーデルの様子は明らかにそんな甘いものではない。
「おいどうした、怖気づいたか?」
俺は何度も呼びかけたが、フェーデルからの反応はない。まるで魂が抜けた人形のように微動だにしない。嫌な予感が俺の背筋を冷たく走る。フェーデルがゆっくりとこちらに体を向けた時、その眼には一切の生気が感じられず、ただ虚ろな光を宿しているだけだった。俺が注意深く観察すると、薄暗い謁見の間の高い天井の闇から、まるで傀儡師が使うかのような、黒く細い、魔力を帯びた何本もの糸がフェーデルの体へと不気味に垂れ下がっているのが見えた。




