第一話 仲間その4
「ああ、いいよ。もう慣れたからね、あんたの無茶振りには。で、今度はどこへ行くんだ?」スリングは肩をすくめながら言った。
「A.1355――異世界座標の一つだ。フェーデル・アバーテ国王がいる城付近まで頼む。」
「A.1355か。また厄介そうな場所を指定するな。気を付けて行けよ。これ、緊急離脱用の転移符だ。万が一の時に使いな、忘れるなよ。」
「はいはい」と軽口を叩きながら受け取ると、スリングが術式を起動し、俺の体は光に包まれ、すぐにその場所へ転移された。足元には青々とした草原が広がり、風が草を揺らす音が聞こえる。視線の先には、天を突くかのような巨大な外壁がそびえ立っていた。そのさらに奥には、白亜の堂々とした城の姿がはっきりと見える。
「ここが、例の勇者……いや、今は堕ちた王のいる所か。しかし、何があったにせよ、この仕事は一筋縄ではいかないだろう。まあ、いつも通りに出たとこ勝負でいくか。」
悠長に潜入経路を探っている時間はない。そう判断し、城へ真正面からの強行突破を決意した。俺は全身に魔力と気力を練り上げ、地面を思い切り蹴り上げる。長距離の空間転移能力こそ持たないが、極限まで高めた身体能力による短距離の飛翔じみた跳躍は得意技の一つだ。砲弾のような勢いで一直線に空を駆け、分厚い城壁を紙切れのように軽々と越え、目星をつけていた玉座の間へ、壁を突き破ってなだれ込んだ。玉座の間は、激しい衝突の衝撃で土煙に包まれていた。咳き込む家臣たちの中で、王も呆然とその場に立ち尽くしている。
「何事だ⁉」
段々と土煙が晴れていったとき、俺はそれを手で振り払った。
「けほっ……。いや、驚かせて申し訳ない。ああ、勇者じゃない。国王フェーデル・アバーテ……を殺しに来た者だ。よろしくな。」
周囲の者たちは一瞬、何が起こったのか理解できず呆然としていた。しかし、すぐに我に返った屈強な護衛騎士たちが、抜剣しつつ、即座に王の前に立ちはだかる。俺は彼らの殺気と動きを冷静に見極めると、最小限の動作で剣戟をいなし、人垣の僅かな隙間をすり抜けるようにして王の懐へ踏み込む。そして、がら空きになった王の胴体に、全身の体重と練り上げた破壊力を込めた拳を容赦なく叩き込んだ。確かな手応えがあり、肋骨の数本は砕け、内臓にも損傷が及んだのは間違いない。
王の体は「く」の字に折れ曲がり、そのまま凄まじい衝撃で玉座の間の城壁を再び破り、すぐ近くにあった中庭の大きな湖へと派手に吹き飛ばされた。さすがは元勇者と言ったところか。今の全力の一撃は、常人ならば即死か、それに近いダメージを与えたはずだ。その身体は衝撃で内からも外からも傷つき、血も滲んでいるはずなのに、王は早くも湖面から自力で岸辺に這い上がり、よろめきながらも、憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけながら立ち上がっていた。




