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魔法の記憶  作者:
9/13

勇者の剣

「魔王様、プロメテウスが死にました。」

ツクヨミは魔王に跪き、答えた。

「そうか、プロメテウスが死んだか…」

「奴らを葬れず申し訳ありません。」

「いや、それよりもプロメテウスはなぜ死んだ?何のために俺は水晶を与えたと思っている。」

「プロメテウスは胸の水晶を砕かれ死にました。」

「…なるほどな」

魔王はため息をついた。

「魔王様?」

「なあ、ツクヨミ」

「いかがしましたか?」

「お前も、いつか死ぬ。他の幹部も例外ではない。この世界の人間は、いつか必ず死ぬ。」

「え、ええ」

「教えてくれ、なぜ、お前たちは死ぬのだ?」

「っ、い、一体どういうことでしょうか?」

「まあいい、早く俺の邪魔になるあいつらを殺してくれ」

「…承知いたしました。」


ディア達はバニレアの城下町で宿に泊まっていた。

そこの一室でディアはベッドの上で悩んでいた。

「みんな、超級魔法以上を扱える。なのに俺は…」

ディアは拳を握りしめた。

ツクヨミとの戦いの時を、思い出した。

自分の魔法が大した威力が出なかったこと、自分がどれだけ未熟であるかを…

「くそっ、俺はどうしたらいいんだ…!」

ディアはベッドから降りた。

そして、レイの部屋に行こうとした。

レイに自分だけじゃどうにもできない気持ちをなんとかしてもらおうとした。


レイの部屋の前に行き、ノックをしようとすると、何か歌っている声に気づいた。

ディアは耳を澄まして聞いてみた。

「神様は世界を知らず   神様は人を知らず

 神様は君を知らず    君は最後を知らず

 何も知らない愚かな子供達

 神よどうか祈りを…」

「一体何の歌だ?…聞いたことがない」

「どうかしましたか?ディア」

「!」

「ドア越しでも分かりますよ。足音が聞こえましたから」

ディアはドアを開けて、部屋に入った。

「何の曲なんだ?」

「私のいた教会の子守唄ですよ」

「へぇ、知らなかった」

「で、どうかしたんでしょ?話してください」

「これもバレてたか。俺は上級魔法、いや、超級魔法とか打てるようになりたいんだ。やっぱこれじゃ足りない究極魔法も…」

その時不意にレイはディアの頭を撫でた。

そして、微笑みながらこう言った。

「ディアはよく頑張っていますよ、私はずっと見てきましたからね。焦ってはいけませんよ。」

「それでも足りない。俺は魔王にたどり着くまでに、究極魔法を習得すればいいと思ってた。でも、プロメテウス、ツクヨミと戦って、これじゃ足りないって思った。きっと他にも魔王は戦力を蓄えている。そいつらだって間違いなく究極魔法を使える。そんなんじゃこっちも仲間がいるからって無理かもしれない。だから俺が強くならないと…」

「…なるほど。そこまで悩んでいたのですか。あなたの覚悟に私も答えないといけませんね。」

「レイ!」

ディアは期待に満ちた顔をレイに見せた。

「しかし、生半可なものではありませんよ。」

「大丈夫さ。俺だって生半可な気持ちで言ってない。」

「なら、信じます。これから私たちは2人で勇者の剣が眠る洞窟に向かいます。」

「勇者の剣?魔法と関係あるの…?」

「まあ、着いてきてください。あと、今回はフレアさんとシャナさんは連れていきません。あくまであなたのためのものですから。」

「分かった。」

「決まりですね。」


あの戦いのあと、フレアはミュンゼルにプロメテウスの死を伝えた。

ミュンゼルはそれを聞いて泣き崩れてしまった。

フレアも、少し辛そうな表情でそれを見ていた。


「戻ったぞ」

部屋の前でフレアがみんなを呼んだ。

「あ、フレア」

シャナが部屋から出てきた。

「ミュンゼルは俺の旅が終わるまで、バニレアの国王代理を務めるらしい。」

「そう、じゃあまだ旅を続けられるね」

「ああ、そういえばディアとレイは?」

「なんか2人でどっか行くって。」

「そうか」

「ねぇフレア」

「ん?」

「2人を尾行しない?」

「はぁ?何言ってんだよ」

「だって、2人でどっか行くなんてただ事じゃないでしょ、気にならない?」

「まぁ、気になりはするけど、それとこれとは…」

「じゃあ決まり!」

「ちょっと、待っ…」

「こっち!」

シャナはフレアの手首を強引に掴んで連れて行った。


ディア達はバニレアからかなり外れた森にある洞窟に向かっていた。

「分かってはいたけど、遠いな」

「これも修行の一環ということで」

「ははは…」

しばらく歩くと、崖に不自然に被せられている枯葉を見つけた。

「なんだこれ?」

「ここが洞窟です。」

「これが?」

「ええ、風初級魔法ウィンド」

枯葉は風に吹き飛ばされ、洞窟が露わになった。

「おお!これが勇者の剣の祠か」

「では、行きましょう」


草むらからフレアとシャナがのぞいている。

「ふーん、洞窟デートですかー」

「おいおい…」

「あ!2人入って行った」

「なぁ、シャナ…」

「これは行くしかない!」

シャナは急いでディア達のあとを追った。

「はぁ、勘弁してくれ」

フレアもそれに続くが、フレアは何かの気配を察知した。

「誰だ?」

「おや、バレてしまったようですね」

声がした方を見ると、緑色の髪をした、どこか神秘的な雰囲気のする女性が現れた。

「この洞窟を行くのならお勧めはしません。あなたはおそらく奥まで行けません。」

「どういう事だ?」

「行けば分かりますよ」

「…分かった。なぁ、あんたは誰だ?」

「私はアウラ、この森の管理者みたいなものです」

「なるほどね、ありがとう。じゃあな」

アウラは微笑みながら手を振った。

「さあ、私は早く遠くに行かねば、あの子達を巻き込んでしまいます」 

「アウラ、あなたを任務忘れたの?」

「ツクヨミ…」

アウラの声色が少し固くなった。

「私たちは彼らを殺せと魔王様から命令を受けたのにあなたは…」

「どちらにしろ、それを遂行するのは私ではありません。それに今、目の前の命を刈り取ることなど私は許してはいませんよ」

「あなたのそういうところが嫌いだ。あなたがなんと言おうが私は任務を手放すつもりはない」

「はぁ、かわいそうな子達」

アウラはどこか行ってしまった。


レイとディアは洞窟を進んでいく。

「なんだこの洞窟、中が真っ暗じゃない。これは、中にランプがついてるのか。」

「着きました。」

「え、もう?」

そして、見たのは鉄の壁のようなものだった。

「何これ?」

「ちょっと待ってください」

レイは壁に何かを探るようにして、手を滑らせている。

「あ、ここだ。えーと

G9x!T2b#Qw

っと。開きました。」

「あ、ああ。」

頑強な鉄の扉が開いた。

「勇者の剣はもう少しです。」

「分かった。いよいよか」

「さあ、しっかり閉めないと」

鉄の扉が閉まっていく。


「え!あんな鉄の扉が開いたの?」

「一体どんな力を加えたんだ?」

シャナ達は鉄の扉の方へ近づいた。

そして力いっぱい押し込んでみる。

「っ!開かない…」

「任せろ。ふっ!…はぁダメだびくともしない」

「ど、どうやって開けたの?はっまさか魔法で?」

「そんな訳あるか。なんも音しなかったぞ」

「えーじゃあどうやって?」

「仕方ない、大人しく戻ろう。…にしてもやけに寒いな」


ディア達は奥に進み、通路を抜けると広い空間に出た。

「やけに、広いな。」

「ディア、あれが勇者の剣ですよ」

レイが指差した方向には剣が地面に刺さっている。

「おお、あれが。にしても、剣にしては派手だな。まあいいや。じゃあ早速…」

ディアは剣の持ち手を両手で掴み、力一杯引っ張った。

しかし、抜けない。

「それ、抜けませんよ」

「え?」

「それは正式名称

勇者をしごくための剣型の装置

略して勇者の剣です。」

「ん?」

「つまり、こう使うんです」

レイは装置を操作し始めた。

「ではディア、後ろ」

「?」

ディアは後ろを振り返った。

するとレッドスライムが襲いかかってきた。

「うわっ!なんだこいつ」

「それを倒してみてください」

「聖中級魔法メガホーリー!」

光線がレッドスライムを貫いた。

「お見事です」

「なあ、レイこれってまさか…」

「ええ、この世界のモンスターを記録して呼び出すことができる装置です。さっきのレッドスライムは中級魔法で倒せましたが…」

レイがビッグレッドスライムを呼び出した。

「これは上級魔法じゃないと倒せませんよ」

「…上等!やってやる」

(もっと、大きな光線をこの手から放つ。より大きく押し出すイメージで…)

「聖上級魔法ギガホーリー!」

ディアはビッグレッドスライムに向けて魔法を唱えた。しかし、光線は真っ直ぐ飛ばず、バラバラになってしまった。

「クソッ!」

「まぁ、そうでしょうね」

ビッグレッドスライムは体当たりを繰り出した。

「ぐわっ!」

ディアは吹き飛ばされてしまった。

「でも、量を操ることは出来ている。後は真っ直ぐ飛ばすだけ。あまり時間はかかりそうにありませんね」

「もう一度、聖上級魔法ギガホーリー!」

しかし、先ほどと同じように四方に飛び散り、まともな威力にならなかった。


1時間ほど経ったが、光明は見えそうにない。

「むう、しかし、ああは言ったけど退屈ですね。ここは少し後押しをしてあげますか。」

「ダメだ、どうしても出来ない」

「ディア、腕を伸ばしてください」

「え?分かった」

ディアは言われるがままに腕を前に伸ばした。

レイは伸びた手の手首を掴んだ。

「いいですか?私が合図をしたら放ってください。それまでは集中して、大きな光線を放つイメージをしっかり持ってください。」

「ああ」

ビッグレッドスライムが少しずつ近づいてくる。

そして、2歩ほど離れたところまで来た。

そして、ビッグレッドスライムは体当たりをしようと流体の体を後ろに反らせた。

「今です!」

「聖上級魔法ギガホーリー!」

メガホーリーよりも強い光を放つ光線がディアの手から放たれ、ビッグレッドスライムの体に大きな円を刻んだ。

「…出来た」

「やりましたね」

「な、何したの?」

「大まかな形は最初からできてました。私はそれを整えただけですよ。これから、一人でも使えるようにしましょうね」

「ああ」

その時、この空間の外から音が響いてきた。

「…なんか音、しないか?」

「ええ、何かあったのでしょうか?」

「行ってみよう」

ディアは外に出て行った。

しかし、レイはついていかず、装置の方に向かって行った。

「これを、忘れないように…」

そして、装置から何かを取り出した。


「っと、パスワードは確か…」

記憶を頼りに扉を開け、また音の方へ走った。

すると、洞窟の入り口で、フレアとシャナを見つけた。

「お前ら!」

ディアは2人に呼びかける。

「ディア!」

「大丈夫ですか?」

後ろからレイが走ってきた。

入り口を見ると、氷が張られていて閉じ込められている。

「これは…」

「多分、ツクヨミの仕業」

「やられたな、俺のスキルで溶かしているが。溶かしても溶かしてもキリがない。これじゃいつまで経っても出られないぞ」

「魔法は?」

「ダメだ、強い魔法を使おうとすると規模が大きくなる。この洞窟も崩れるかもしれん。」

「なぁ、レイ」

「はい?」

「炎属性魔法じゃダメなら、聖属性魔法は?砕けるんじゃないか?」

「…やって見る価値はありますね。少なくとも洞窟を崩すことにはならなさそうです。ディア、修行の成果を見せる時ですよ。」

「分かった。みんな少し下がって。」

「ん?何をするんだ?」

「いいから」

フレアとシャナは首を傾げたが、ディアの言う通りにした。

「よし、聖上級魔法ギガホーリー!」

光線はわずかに拡散し、氷の壁にヒビのみを残す結果となった。

「クソ、まだ…」

「仕方ありませんね、任せてください。聖上級魔法ギガホーリー!」

レイの放つ光線は氷の壁を砕き、通れる道を作った。

「俺も、まだまだだな」

「よし、出るぞ」

道を通ってディア達は外に出た。

「敵はどこだ?」

フレアは辺りを見回した。

そして、シャナの背後から氷の棘が向かっているのに気づいた。

「危ない!」

フレアはシャナを強引に引っ張って、攻撃を避けさせた。

しかし、棘はシャナの肩を貫いた。

「あぐぁっ!」

「シャナ!」

「あら、心臓を狙ったけど外れたようですね。」

木の影から、ツクヨミが姿を現した。

「てめぇ!炎究極…」

(いや、ダメだ、ここは森だから炎属性魔法を放ったら何が起こるかわかんねぇ)

「どうした?打たないのか?打たないだろうなこんなところじゃ!」

「チッ、ヤバイぞ」

「私は今度こそ魔王様の命令を遂行してみせる!

貴様らを必ず葬る!

氷究極魔法ダイヤモンドダスト!」

「マズいぞ、今は相殺できる魔法がない!」

「聖上級魔法ギガホーリー・拡散」

レイはツクヨミの放った、冷気の結晶全てに光線をぶつけた。

「何!?この女そんな芸当もできるのか」

「…炎究極魔法フレイムレイン」

「!?」

洞窟のあった崖の上から声がした。

「この声は…」

レイは崖の上を睨みつけた。

「魔王…!」




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