火の跡
「うっ」
ディアは少しずつ目を開いた。目覚めるとそこはベッドの上だった。
「ディア!大丈夫ですか。」
「レイ?ああ...もう大丈夫」
「よかった...」
レイはとても安心したように胸を撫で下ろした。
「お、目覚めたか!」
「ええ、ありがとうございました。あ、ディアこの人があなたの治療をしてくれたお医者さんです」
「そうですか、ありがとうございました。」
「いえいえ、それにしても火傷がそれほど酷くなくてよかった。」
「そういえば、ここはどこ?」
「ここは、炎の王国バニレアです。」
「!それってフレアの...」
「ええ、ここがバニレアにそこそこ近かったようで騒ぎを聞きつけて来た、バニレアの兵たちに助けられました。」
「そうか、みんなは?」
「シャナさんは買い物、フレアさんは事情を説明しに行きました」
「そうか」
「ただいまー…あ!ディア君起きたんだ。大丈夫?何ともない?」
「ああ、大丈夫。てか、あんた外に出て大丈夫だったの?」
「まあ力見せなきゃ大丈夫。てか、実はそんなにも属性差別って酷くは無いと思うけど。最近は戦争とかもほとんどないし、誰も気にしないよ」
「そんなもんかね」
「さ、まだディアは怪我人なんですから寝てて下さい!」
「えー、退屈」
「ワガママ言うんじゃありません!」
「うう…」
その頃フレアは…
「ミュンゼル、今回の件は親父が俺たちを襲ったんだ。」
「そんな、信じられません!まさか、あなた嘘をついてるのでは無いのですか?そこまで陛下が嫌いとは…」
フレアはミュンゼルの胸ぐらを掴んで
「ふざけるな!こっちは仲間が一人怪我させられたんだぞ、そんなくだらない嘘をつくかよ!」
と、怒鳴った。
「…申し訳ありません。フレア様。しかし、陛下どうして…」
「それは、まだ分からない。」
「これからどうするのでございますか?」
「俺は親父を探す」
「そんな!陛下もいらっしゃらないのに、フレア様まで…」
「…頼む!」
「…はあ、全く貴方と言うお人は…分かりました。貴方様がいない間私が王の代わりを務めましょう。」
「本当か!?」
「自信はありませんが、皆と協力してやってまいります。」
「ありがとう、ミュンゼル!」
「…陛下がなぜ、このようなことをしたのかわかりませんが、陛下は貴方様の事を大事に思っている事に変わりはないと思います。どうか、お忘れなきようお願いいたします。」
「分かった」
「しばらく国はお任せくださいませ」
「頼んだ」
フレアは部屋を出ていった。
「あー退屈だ。」
ベッドの上のディアはそう呟く。
太陽が少しずつ山に隠されていく。
「あいつら、俺をほったらかしにして出かけやがって。あー退屈。」
そんな時、城からフレアが戻ってきた。
「おっ、起きたか、ディア!」
「フレア!」
「どうした?そんなに俺に会いたかったか?」
「そうだよ、もう退屈で死にそうだったんだよ」
「そういえば、シャナとレイは?」
「2人で出かけた。だから、俺一人でずっと退屈だったんだよ。」
「なるほど、そういうことか。まあそんな怒んなって。」
「別に怒ってはないけど…」
「あいつらなりの気遣いだろう。お前に早く元気になってほしいのさ」
「…分かったよ」
「そうそう、分かれば良いんだよ。…」
フレアはそう言った後、少し考え込むような顔をした。
「どうしたんだよ、フレア。急にそんな考え込んで」
「…なぁ、ディア」
「?」
「レイのスキルって一体なんなんだ?」
「レイはスキルは持ってないよ」
「なんだって!?」
「ほんとにどうしたんだよ」
「ディアは気絶していて見てなかったが、あの後…」
フレアはあの時起こったことを話した。
「!…そんな馬鹿な。上級魔法をそんな連発したら、周囲の魔力が尽きて、魔法を使えないはずなのに…」
「レイは魔法を使えた…なぁレイって一体何者なんだ。本当にただの賢者なのか?」
「分からない」
「もしかしたら、俺たちの脅威に…」
「そんな事はない!レイは、俺たちの仲間だ」
フレアはその言葉を聞いて微笑んだ。
「そうだな、余計なことを言ったみたいだ。でも、俺たちは想像以上にレイのことを知らない。短い付き合いなこともあるだろうが、それとは違う何か別の何かがある。」
「…それても、受け入れてみせるさ」
「そうか…なら、この話はこれでお終いだ。もう夜になるおやすみ…」
「フレア、2人から聞いたぞ。仮面の男がお前の親父さんだったって。」
「!」
「これから、どうするんだ?」
「俺は、親父を探す」
「俺もついてく」
「…俺はもう、お前たちを仲間だと思ってる。だから、お前達についてきてほしい。でも、もし親父に会ったら手は出さないでくれ。これは俺たちの問題だ」
「倒せるのか?」
「やってみせるさ」
その言葉は少し弱々しかった。
「さて、長話になってしまったな。俺は少し街を歩いていくよ。おやすみ」
そんな様子を隠すように、フレアは出て行った。
「フレア…」
「ねぇ」
フレアは部屋から出ると、シャナに呼び止められた。
後ろにはレイもいる。
「お前ら、帰ってきたのか」
「ねぇ、フレア。こっちに来て」
「なんだよ、シャナ」
「いいから」
フレアはシャナに連れられるようにしてどっかに行ってしまった。
レイはディアのある部屋に戻っていった。
「フレア、私達が最初にあったとこ覚えてる?」
「ああ、街の外れの森だろ?」
「ちょっと行こっか」
「はぁ?もう夜だぞ」
「今は満月だから、きっと大丈夫」
「?」
しばらくして、2人はその場所に着いた。
「ね、綺麗でしょ?」
その場所は、月光が木の隙間から降り注いていて、幻想的な風景を作り出していた。
「ああ、すごい。満月になると、こんなに…」
「でもね、フレア。この風景も貴方と最初に会ったあの時には全然勝てない。」
「シャナ…」
「貴方と会ったあの時は、私にとって本当に大切な時間だった。フレアは私にとって本当に大切な人なの。
だから、1人で戦うなんて言わないで」
「聞いてたのか」
「お願い、もっと私達を頼って!貴方は1人じゃない」
「…分かってる。でも、あいつは俺の親父なんだよ。俺だけの問題って訳じゃない。親父なんだよ…なんで親父があんな事をしたのか、知りたい。知って、そして俺が親父を止めてみせる」
「フレア…」
「だから、俺がもし負けそうになったら頼むわ」
「!…分かった。私達がいる事を忘れないでね」
「ああ」
「なら、帰りましょ」
シャナは微笑んでみせた。