氷の魔女
その街は、吹雪に覆われている。しかし、特別寒い地域でもなく、特別標高の高い山に位置するわけでもない。しかし、そこだけに雪が積もっているのである。
「長老、この吹雪何年続いてるのでしょうか?」
「知らん、5年くらいじゃろ」
「もうそろそろ引っ越しませんか?」
「ふむ、後一年くらい待たんかの」
「それ五回目です...」
「それにあの子も、可哀想じゃし」
「...」
この街で一番目立つのは街の中央にある時計塔である。そして、そこの最も高い部屋に氷の魔女がいる。
その魔女は常に泣いていた...
「やっと、着いた...」
「ここが例の村ですね」
ディアは辺りを見回し、
「本当だ、本当にここだけ吹雪いている」
と言った。
「そうです。ここには氷の魔女がいるそうで、それが原因でこんなことになっているようですね。ま、何はともあれまずは入りましょうか?」
「そうだな」
ディア達は村に入って行ったが、フレアは村の入り口で立ち止まっている。
「フレア、行きますよ」
「あ、ああ、すまん...」
フレアは慌ててディア達について行った。
村を歩いていると長老がディア達を見つけて、話しかけた。
「おやおや、旅の方々とはこれまた珍しい。何年振りじゃろなぁ。今日はもう遅いから、村の宿に泊まると良い。」
「ありがとう、お爺さん」
「少年よ、わしは長老じゃよ。ただのジジイとは違うわい。まあ、変わらないけどな」
「ハハっ、ありがとうございます。長老様」
「フォフォ、では達者で旅の人」
長老は去っていった。
「さあ、宿屋に泊まろうか」
「ええ」
「...」
「フレア、どうした?」
「い、いや、なんでもない」
「そうか?」
「先程から様子が変ですよ。本当になんでもないんですか?」
「本当になんでもないんだ」
「そうですか」
それから、ディア達は村の宿に泊まった。
彼らはそれぞれの個室で一晩を過ごす。
そこで、ディアは1人考え事をしていた。
「それにしても、俺の旅がこんな方向に進むなんて思いもしなかった。そして、魔王を倒す、か。一体どれだけの時間がかかるのだろうか。そもそも倒せるのだろうか。今じゃ、まだ分からないな。まずは俺が聖属性の究極魔法を習得しないといけない、まだ先は長い。」
考え事の最中に、誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「ん、誰だ?」
ディアはドアを開けた。
そして、そこにはレイがこじんまりと立っていた。
「レイ?どうしたんだい?」
「少し...話がしたくて」
「?ここじゃなんだし座って話そうか」
レイは何も言わず、ただ頷いた。
「それでどうしたの?」
「えっと、まずはお礼を」
「お礼?」
「ええ、あの時私を選んでくれたことです」
「なんだ、そんなことか、君がいなかったら俺はあの平原も越えられずに死んでただろう。お互い様だよ」
「ありがとう、ディア」
「おいおい、だからやめろ...」
ディアの話を遮るように、大きな爆発音がした。
「何の音だ?」
「外からです!」
「外に行ってみるか」
「わかりました。行きましょう!」
ディア達が宿の外に出ると、街の時計塔から火が出ている。
「爆発したのはあそこか...」
長老も騒ぎを聞きつけ出てきた。
「いかん!あそこは...」
「どうしたんだよ、お爺さん」
「あそこにはあの子が、氷の魔女が、あの子がいるのじゃ!」
「何だって!?」
「あの子はこの吹雪を起こしているのだが...悪い子ではないんじゃ助けてくれんか?」
「ディア、行きましょう!」
「ああ!」
ディア達が時計塔を登るとそこには2人いた。
1人は傷を負って蹲っている。
もう1人は仮面を被っていて、顔が見えない。
「爆発を起こしたのはこいつか?」
手負の方がディア達を見た。
「君たち、誰?」
「助けに来ました。氷の魔女ですね?」
「まあ、そう呼ばれてるけど...」
「よそ見をするな、炎上級魔法トリプルファイア」
仮面の男はそう言って魔法を放った。
「氷上級魔法トリプルフリーズ!」
氷の魔女は仮面の男の炎魔法に対して氷魔法を打ち返し、相殺させた。
「なるほど、ならば炎超級魔法6ファイア」
「そう来ると思ったわよ!氷超級魔法6フリーズ!」
二つの魔法は、同じく相殺して消えた。
「私の実力を舐めてもらっちゃ困るわよ!」
「超級魔法まで習得しているのか、仕方ない。出来るだけ周りの被害は出さないようにしたかったが、貴様を抹殺するという魔王様の命、果たさねば。」
「魔王だって?」
魔王という言葉にディアは反応した。
「炎究極魔法...」
「炎初級魔法ファイア!」
仮面の男の横から火の玉が直撃した。
「くっ」
仮面の男の呪文詠唱は遮られた。
火の玉を放ったのはフレアだった。時計塔のすぐ近くの建物から魔法を放ったようだ。
「フレア!」
魔女はその方を向いてそういった。
「やっぱり、氷の魔女はお前だったか。シャナ」
「フレア...」
「さあ、テメェ覚悟しろよ!」
「...」
「あ!」
仮面の男は何も喋らず、どこかへ去ってしまった。
「チッ、逃げやがったか」
フレアは屋根から降り、一息つく。すると、シャナも時計塔から降りて、フレアに駆け寄った。
「うわああああん、フレアーー!」
そのまま抱きつき、フレアを押し倒した。
「うわっ、ちょっと、落ち着け」
「ずっと会いたかった...フレア...うわあああああん」
「すまない、長く待たせすぎたよ」
ディア達も時計塔から降りてきた。
そして、その光景を見たディア達は一瞬思考が停止した。
フレアにまるで赤ん坊のようにシャナが抱きついていたのである。
...泣きながら
「あ、あんた達はどんな関係なんだ?」
「すまない、こいつが落ち着くまで待ってくれ」
彼女が落ち着いたあと、ディア達は宿屋でフレアの話を聞くことにした。
「俺たちは、幼馴染みたいなもんで小さい頃よく遊んでた。」
「待ちなよ、あんたは炎の国の王子だろ?そんなことできるのか?」
「時々城から抜け出してたんだよ。バニレアの外れにある森はいい遊び場だった。だが、あのクソ親父が」
「クソ親父ってことは、バニレアの国王か」
「そうだ、あいつがシャナをここに連れ去って俺たちを引き離したんだ。ちょうど5年前か、俺はシャナがどこに連れられたのか教えてもらえなかった。」
「シャナの家族はどうしたの?」
「私に家族はいないわ。私の住んでた村は私の幼い頃大雪が降った時の雪崩で無くなった。その時家族は死んでしまった。そして、あの森に降りてきて獲物を狩るために魔法を習得した。そして、フレアと出会ったの。」
「そうなのか」
「分かってはいるさ。俺が炎の国の王子だから、炎の使い手ではないもの、ましてや氷属性の使い手と親密になることは国民の信頼を損ねる。分かってるさ...」
「ひとまず、これからどうします?」
重苦しい空気を変えるように、レイが言った。
「これからって?」
「あなた達はこれから私たちの旅に着いて来るのですか?」
しかしレイの表情は鋭く、また、重い質問をフレア達に問いかけている。
「...」
フレアとしては国に帰らねばならない。しかし、シャナに再開した以上、そう簡単に国に帰るなんて言えない。フレアは沈黙した。
「私はあなた達に着いていきたい。」
「シャナ...」
「私はもう、あそこでずっと泣いてるのは嫌。」
「そうか、分かった。行くよ」
「国は大丈夫なのですか?」
「俺がいなくても、親父がいる。そんな大した問題にはならんよ。多分」
「分かりました。と言うことでディア、いいですね?」
「ああ、俺は別に仲間が増えるならなんでもいいよ」
「じゃあ、決まりですね!」
レイはさっきの険しい表情が和らいで笑顔を見せている。
「本当に行くんじゃな」
「ええ、5年間お世話...というか迷惑をおかけしました」
「いいんじゃよ、この街の皆あんたの事情は知っとる。誰も悪くは思っておらんよ」
「ありがとう、おじいさん」
「ほほほ、ではな」
「はい」
こうして、ディア達はフレア、シャナ、2人の新しい仲間を連れて新天地へと赴くのであった。
...仮面の男は跪き、ある男の前にいる。
「氷の魔女を仕留め損ねたか...」
「申し訳ございません。魔王様」
「仕方ない、もう1人寄越す。奴らを全員殺せ」
「!...フレアも、でございますか?」
「当然だ」
「承知、しました」
「頼んだぞ、炎の四天王」