魔法の記憶

雷鳴

「アウラの反応が消えた…。アウラが死んだか」

魔王がそう呟いた。

「こっちがもう少し早く片付けばな…」

「ディア！、ディア！」

魔王の目の前には、傷を負って倒れたディアと、それを起こそうとするレイの姿があった。

「私はトール、魔王幹部の1人」

「魔王！？この襲撃は魔王が関わっているのか？」

「そんな事言ってー、薄々気づいてたでしょ？このタイミングで襲撃する奴なんて、ね」

そう言って、トールはフレアに近づいた。

「氷究極魔法、ダイヤモンドダスト！」

「雷究極魔法、ライトニングシャワー！」

二つの究極魔法が衝突した。

「フレア、奴は敵よ。近づけないで」

「す、すまない。シャナ」

「お嬢さん怖いねー。ただ近づいただけだよ」

トールは笑いながらそう言った。

「フレア、油断しちゃダメよ」

「ああ、分かってる」

トールは2人をやたら神妙な顔つきで見ている。

「なんだ？」

「いや、やたら僕を警戒するね。君たちでしょ、プロメテウス君とツクヨミちゃんを倒したのって。」

「…ああ、そうだ」

「やっぱり！強かった？強かったよね？だってこんなにも僕を警戒してるんだもの！」

(なんだ、こいつ！？)

「ここでね、残念というか、もしかしたら嬉しいお知らせかもしれないけど…。僕ね、魔王幹部最強なんだ。」

フレアとシャナがその言葉に気押された。

「あはー。やっぱりビビっちゃうよね？」

「…」

フレアは黙ったまま俯いている。

「フレア、大丈夫。私たちならやれるわ」

「…」

「あれ？相方さん戦意喪失？期待はずれだなー」

「…この感覚」

黙っていたフレアが口を開いた。

「ん？」

(レイと初めて戦った時の感覚に似ている。そして、親父の背中をずっと追っていたあの時。強大な敵はいつも自分を高めてくれる。その高揚感が今ここにある。)

「…シャナ」

「何？」

「俺たちなら、きっと勝てるよな？」

「何よ、急に。勝てるに決まってるでしょ」

「ああ、そうだな」

トールは2人の会話を聞いていた。

「君たちの準備はいいの？」

「ああ！」

「そう、ならよかった。やる気のないやつを倒しても楽しくないもんね」

「炎究極魔法、フレイムレイン！」

「衛星展開」

トールの周囲から、光る球体が複数現れた。その球体から電撃が放たれ、火球を全て迎撃し、無力化した。

「何！？」

「これが僕の能力だよ。近づくものは全てこの衛星が倒してくれるんだ。」

「厄介な能力だな。」

「君たちは僕に攻撃を当てることができるかな？」

フレアは何もできなかった。自身から攻撃すればすぐに消耗することになるからだ。

「何もしないなら、僕から行くよ。

雷究極魔法、ライトニングシャワー！」

「フレイムレイン！」

二つの魔法が相殺された。

「ふーん、そういう感じね。でも、それじゃただの時間稼ぎだよ。」

(にしても、あの嬢ちゃんは何をしてるんだ？ずっと動かないままだ)

「まあ、いいか。だったらお嬢ちゃんから狙うだけだね。」

トールはシャナの方に近づいた。

「炎超級魔法6ファイア！」

フレアはトールを止めようと、魔法を放つが衛星がそれを阻止する。

「残念！君の攻撃は効かないよ」

するとその時衛星の一つが光を失った。

「は？」

トールは瞬時にシャナから距離をとった。

「これは…」

(冷たい。まさか、ツクヨミちゃんを葬ったやつか？デメリットもデメリットだ。もう使わないと思っていた)

「お嬢ちゃん、中々命知らずだね」

「私のスキルを知ってたんだ。でも、もうこの命を捨てる気はない！」

(まだ、こんなに喋れるのか、体の低温化が起こっていないのか？まさか…)

「なるほど、考えたね。フレアとシャナ、か。これは手強いな」

シャナのスキルは強力である一方、徐々に体温が低下するという代償があった。しかし、シャナの体温をフレアのスキルで上げることでスキルのデメリットを軽減した。

「フレア！このまま押し切るわよ！」

「ああ！」

シャナのスキルの効果範囲が広がり、トールの方まで迫っている。

トール周辺の温度が下がり、衛星の数も少なくなっていく。

「これは…効くね。ツクヨミちゃんが…倒されるわけだ…」

(今、究極魔法を打とうが、迎撃されるだけ、か)

「しょうがない。…切り札、といこうか

召喚！」

トールを紫の光が包む。

「やはり、そう来たか」

しかし、トールの姿は人の形を保っていた。

「…！？」

「驚いたでしょ。魔王様がこの召喚の技術をここまで高めてくれたのさ！

雷究極魔法、ライトニングシャワー！」

「炎究極魔法フレイムレイン！」

二つの魔法が衝突しても、まだ、トールの猛攻は続く。

「雷究極魔法、ライトニングシャワー！」

「クソッ！炎超級魔法6ファイア」

無数の雷の雨に対して、フレアの火の玉では少なすぎた。

相殺されきれなかった、電撃がフレア達を襲う。

「グハッ！」

「っ！」

この攻撃でシャナのスキルの発動が途切れた。

(右の方でうるさくしていたが、静かになった)

「さぁて、どっちが勝ったかな？」

「…なんの、話だ…？」

「君たちには関係ないよ、もう死ぬからね」

「くっ！」

温度が戻ってきて、トールの衛星が機能を回復し始めた。

「じゃあ、さよなら…」

「風究極魔法、トルネードサーカス！」

強烈な竜巻を、衛星の雷が相殺した。

「んー？」

トールが魔法の放たれた方を見ると、ファーレンとライが駆けつけていた。

「…なるほど、君たちが勝ったのか。あのアウラちゃんのスキルを突破したのか…。これは、手強そうな相手だね」

「ファーレン、ライ！」

「フレアさん、シャナさん、大丈夫ですか！？」

「私たちは大丈夫！」

「そうですか、よかった」

「ファーレン、俺はスキルで動ける。だから今は必要ない」

ライは足の怪我があり、ファーレンに肩を貸して貰っていた。

「でも、ライ…」

「あんたは少しでも魔法を使ってスキルの威力を高めてくれ。あいつを倒すんだ」

「…ええ、無理しないでよ」

「分かってるさ。あと、フレアさんもシャナさんもいる」

「そうね」

ライはスキルで一気にトールの方へ近づいた。

「ライ！一気に近づくな、衛星が…」

だが、ライに迎撃に放たれた雷は吸収された。

「これは…」

得体の知れない、現象にトールはライから遠ざかる選択をとった

「君、僕の雷を吸収した？」

「ああ、俺のスキルはただ雷に変化して移動するだけじゃなかったんだ」

「！」

(この子の体の周りに電気が走っている。)

「まさか…！」

「そうだ、僕は雷に変化している間、雷を吸収し、纏うことができる。」

「なるほど、君の能力理解した。僕も、工夫してスキルを使わないといけないね。」

トールの周りを回っていた衛星が、トールの腕の動きに合わせて移動し始めた。

「あんたの衛星、自分で動かせるのか」

「正解、戦いの第2幕開始だね」