覚醒
「氷究極魔法ダイヤモンドダスト!」
魔王の放った火の玉をレイが全て相殺させた。
「まあ、こんなので倒せるわけないよね」
「何をしにきたの?」
「何ってお前達を捕まえるために決まってるだろ?」
「目的は鍵ですか…」
「その通り、さあ魔王城に来てもらうぞ」
「…」
「ここら一帯を更地にしてもいいんだぞ?」
「…分かりました。」
「レイ…」
「大丈夫です、ディア。私が何とかします」
「レイ?ああ、まだその名前を使ってるの。さっさと自分の本当の名前を使えよ。」
「うるさい」
「まぁいいや。ツクヨミ、魔王城まで頼む」
「承知いたしました。」
ツクヨミの氷によってディア達は魔王城へと運ばれた。
魔王城は明らかに異質な雰囲気を放っていた。
夕日に晒される古びた屋敷のようで、月光しか捉えられない漆黒の森の中のようでもある。その前に立っているディア達を威圧している。
ディアは内部を冷たい何かで掻き回されるように感じた。
「ここが、魔王城だ、入れ。ただし…」
ツクヨミはディア達の両手首を凍らせて固定した。
「手錠付きだ」
魔王はディア達を鉄格子で閉ざされている牢屋の中に入れた。
「お前達はしばらくここで過ごせ」
牢屋の扉は閉められた。
「シャナ、肩大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫そう」
「良かった。にしても、魔王は俺たちをどうするつもりなんだ?殺すならまだしも、捕えるなんて。」
「恐らく、狙いは私でしょう」
「レイがか?」
「私があの洞窟で彼が求めているものを手に入れたからでしょうね」
「彼が求めるもの?」
「すべての始まりの場所への鍵」
「なんだ、それ」
「今はそれだけです」
「…なんだよそれ」
「ごめんなさい、今はまだ話すのは…」
「そうはいかない、シャナもディアもみんなそれのせいで今ここで捕まってるんだ」
「…」
レイは俯いて黙ってしまった。
「フレア、そのくらいにしてよ」
「…分かった」
シャナはずっと蹲っているディアに気づいた。
「ディア大丈夫?ずっと蹲ったままだけど」
レイとフレアもディアの方を向いた。
「ディア?」
レイがディアの様子を伺ってみると、ディアは少し震えている。
「ディア、どうしたんですか?」
「…怖いんだ」
「ディア…」
「別にここが怖いとか、いや怖いけど、それだけでこんなにも震えているわけじゃないんだ」
「じゃあ、何が…」
「ツクヨミとの戦いの時にフレアが炎魔法を制限されたから、俺は急いでツクヨミの周りの魔力の流れを切ろうとしてスキルを使ったんだ。そしたら…」
「レイ、来い」
檻の外から、魔王がレイを呼び出した。
「魔王…!」
「今は、まだ話しているのに空気が読めませんね」
「黙れ、俺はお前達にここで話をさせに来たんじゃない。分かるだろ?さっさと俺に鍵を渡せ」
「嫌だ」
魔王は檻を思い切り叩いた。
「お前に選択肢なんてねぇんだよ、鍵を渡せ!」
「…ここは2階で、下には広間がある。」
「だから、どうした?」
「いい戦いの場所だと言いたいのです。
聖超級魔法テラホーリー!」
「何!?」
レイは鉄格子、床、魔王すべてを巻き込むように魔法を放った。
巨大な光線は鉄格子を破壊し、床に穴を開け、魔王を階下に落とした。
「ここから、下に行って城に入った入り口の反対に向かえば裏口があります!そこから逃げて!」
「レイは?」
「ディア、私は大丈夫だから早く!」
「ディア、行くぞ!」
フレアは、ディアを強引に引っ張って下に行ける階段を目指した。
「これで、大丈夫。あとは…」
レイは床の穴から飛び降りて魔王のいる広間に降りた。
「あとはあなたを止めさえすれば!」
「なるほど、考えたな。いや、苦し紛れの咄嗟の策か?いずれにせよ俺を足止めするか」
「ええ!」
「やってみろよ、出来るならな!」
フレア達が走っている最中に大きな音が鳴り始めた。
「始まったな」
「レイ…」
「大丈夫さ、あれだけレイは強いだろ?負けるはずないって」
「…レイの力は奥が見えないけど、魔王の力はもっと奥が見えないんだ。」
「ディア、一体…それは」
「少し見えるんだ、ツクヨミとの戦いの時から」
「怖かったってそういうことか…それでも、きっとレイなら…」
「…」
階段を降りて、正門とは逆の裏口に向かって走った。
しばらく走ると出口らしきものが見えた。
「あれだ!」
しかし、ディアは立ち止まってしまった。
「おい、ディア!?」
「やっぱり、レイが心配だ」
「ダメだ、なんでレイが俺たちを逃したか考えろ!俺たちじゃ魔王に勝てないんだよ!」
「…分かってる、だけど今このまま逃げたら、絶対後悔する」
「自分が死んでも行きたいの?」
「…死にに行くなんて思ってないさ」
「まあ、あなたの気持ちは分からなくはないわ、私だって今レイの立場がフレアだったらそう言うもの。でも、そうなればディアは私に行くな、と言うでしょうねでしょうね」
「…多分、そうだと思う」
「だから、私もあなたに行くなって言う。…でも、止めはしない。」
「え…」
「いい?絶対死んじゃダメよ。生きて、帰ってきて」
「分かった!」
ディアはレイの方へ走り出した。
「これで良かったのかよ…」
「人の気持ちは必ずしも合理的ではないかもしれない、でもそれでも間違ってない時もあるかもしれない」
「はぁ、これが、正しかったと祈るよ」
フレアとシャナは出口へ走り出した。
「はぁ、はぁ」
「なんだ、もう終わりか?俺を足止めするんじゃ無かったのかよ」
「…っ」
「まあそうだろうな、俺の闇属性の魔法のおかげで俺はお前が攻撃してくるのを待てばいい、聖属性魔法を放ってきても適当な属性魔法を放てばいい。お前に勝ち目なんて無いんだよ」
「ま、まだです」
「もう、究極魔法なんて放てねえほど消耗してるだろ?大人しく…」
その時魔王は自身の体を抉り取られる様な感覚を覚えた。すぐに魔王は自分の立っているところから離れた。
「なんだ!?」
魔王が辺りを見回すと、ディアの姿があった。
「ディア!」
「テメェ、あいつと一緒にいたガキか。この死に損ないが!」
「ダメ、ディア!」
「炎究極魔法、フレイムレイン!」
無数の火の玉がディアに襲いかかった。
俺が怖かったのは、魔王城でも魔王の力の底知れなさでも無い。俺が怖かったのは…
「聖上級魔法ギガホーリー・流星!」
ディアが魔法を唱えると、いくつもの光線が火の玉をすべて相殺させた。
「!」
「馬鹿な、あのガキに俺たちと同じ力が…!」
「いや、違う。私達と一緒じゃ無い」
レイと魔王による魔法の連打は魔法の発動者から放たれている。
しかし、ディアはあらゆる場所から放たれていた。
「なるほど、分かってきた。
聖究極魔法、クエーサー!」
ディアは眩い光を放った。
「っ!」
レイは思わず目を覆い隠した。
「何が…!」
光が収まって視界がはっきりしてくるとレイは気づいた、ディアの放った光線が魔王の体を貫いていたことに。