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世界には魔界がある。
そこには魔王がいた。
魔界の恐怖、魔王への恐怖。
人々は魔王を撃ち倒す勇者を探していた。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「ああ、気をつけて」
「頑張ってこいよ」
村の人々の応援を受け、ディアは旅に出た。
ディアは王国の街に向けて足を運んでいた。
しばらくして街に着いた。仲間を探すため、ギルドで雇っている人を一人引き取ることにした。
「申し訳ありません。ただ今、一人しかギルドに居ないんですよ。」
「なるほど、その人は一体どんな人なんだ?」
ギルドのオーナーは書類を持ち出して来た。
この書類には、ギルドで雇っている人の情報が書かれている。
「この子です」
「レイ、僧侶、か」
「この子使うアビリティはいいんですが、スキルが使えないんですよ。」
「スキルが使えないって?」
この世界の人間には一人一つのスキルが与えられる。
人によって違うが、スキルによっては強力な効果を出すことができる。
「ええ、何度やっても何も起きないんです。だからあまり注目されなくて。可哀想ですが、冒険者たちはアビリティではなくスキルを見ます。鍛えさえすれば大抵のアビリティは身につけますからね。」
「まあ、いいよ。この子で」
「よろしいのですか?」
「ああ、一人しかいないし、僧侶は今すぐにでも欲しいからね。それに俺は強いからね。」
「そうですか、あの子もこれで少しは前に進めそうですね。呼んでまいります。」
しばらくして、オーナーと僧侶と見られる女性が来た。
「この子が、レイです。では、旅路の祝福を願っております。」
「ああ」
一晩宿に泊まって、またディア達は旅に出かけた。
「ディアって言いましたよね?」
「ああ、そうだよ」
「どうして、私を仲間に入れたのですか?」
「...俺もなんだよ」
「え?」
「俺もスキルがはっきりしなくて、なんか起きてるような気がするけど」
「そうなのですか、じゃあ私たち、お揃いですね」
「ああ、そうだ...!」
敵の気配を感じ、ディア達は戦闘体制に入る。
敵の正体はレッドスライムだったようだ。
「まずいな、レッドスライムは相当強いぞ。」
レッドスライムは通常のグリーンスライムよりも格段に強く、数々の冒険者達を葬る最初の壁として有名である。
「物理攻撃は効きそうにないな、俺の魔法を試してみるか。ホーリー!」
白い光線が放たれ、レッドスライムに命中こそしたが、多少効いた程度である。
「くそっ」
「あなたは聖属性魔法を使うのですか、ならば白の領域をはって聖属性強化をします。もう一度聖属性魔法を放ってください。」
「了解!ホーリー!」
先程より力強い光を放つ光線は、レッドスライムに大きなダメージを与えたようだ。
「よし、これなら...」
しかしレッドスライムは仲間を呼び、合体してビッグレッドスライムになった。
「嘘だろ?なんでこんな所にここまでレッドスライムがいるんだ!」
ビッグレッドスライムが体当たりを仕掛けてきた、
ディアの冒険はここで終わったかのように思われた。
しかし、攻撃はバリアで防がれている。
「...何が起こったんだ?まさか」
ディアはレイの方に目をやる。
「流石にここまでのものが出たら仕方がありませんね。終わりです。ギガホーリー!」
レイの出す光線はディアの出す光線よりも二回りほど大きかった。その光線は敵の大半を抉り取った。
「ギガホーリーなんてホーリーの2段階上の魔法だぞ、それを会得している、そして援護魔法も使える。まさか、レイは...」
「ええ、私は賢者です。」
道中で野営地を決め、焚き火を起こし2人はその前に座っている。
「それにしても驚いた。まさか賢者だったなんて。」
「驚きました?」
「そりゃ、驚くさ。賢者になった人間なんて、この世界で一握りなんだから。」
「でも、聖属性を扱えるなんてあなたもかなり珍しいですよ。この世界の4つの属性である、火、氷、風、雷これらに属さない魔法ですから。」
「あんただって使っていたじゃないか。」
「当然!賢者ですからね。でも、賢者の使える魔法は上級魔法までで止まっています。援護魔法は上級までしかありませんが、攻撃魔法は超級魔法まであります。そして究極魔法も」
「魔王を倒すなら、究極魔法を使えるようにならなければ」
「やはり、ディアの目的はそれでしたか。聖属性のみが魔王の闇属性魔法に有効打を与えられる。」
「そうだ」
「どうして、魔王を?」
「当然だ、女神様もおっしゃっている。魔王が災いをもたらすと、みんな明るく見えてどこか魔王に怯えてる。」
「そうですね、ま、初陣を華々しく勝ちましたし何かの記念に祝杯をあげましょう!」
「まあ、大半はあんたの手柄だけどな。確か村から持ってきたお酒があったはず。」
ディアは手持ちのポーチからお酒を取り出して小さなコップに注いだ。
「ほら、あんたの分だ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、俺の村の伝統的な乾杯の仕方で」
「知ってます、こうでしょ?」
彼女はコップを高く掲げた。
「へぇ、よく知ってるな。俺の村かなり辺境にあるのに」
「こう見えても賢者ですから」
星空の下、二つのコップが高く掲げられている。
「じゃあ、乾杯!」
コップは軽快な音を立てた。