#6『悪戯の大フィナーレ』
暫くは連続投稿続きます。
朝が来るたびに、私は自分の限界が試されてる気がする。
聖奈姉ちゃんの「もっとすごいから」という言葉が現実になるたび、私の羞恥心は更新され、でもどこかで楽しんでる自分もいることに気づき始めていた。
目覚めた瞬間、まず異変に気づいた。部屋が暗い。カーテンを閉めて寝た覚えはないのに、真っ暗だ。
「停電?」
恐る恐るカーテンを開けると、外がーー光ってる。
「何!?」
窓の外一面に、色とりどりのイルミネーションが広がっていた。
家の周囲が、まるでテーマパークみたいに電飾で埋め尽くされている。
木にはLEDライト、庭には光るサンタとトナカイのオブジェ。
そして、家の屋根には巨大な電光掲示板。そこにはこう書かれていた。
『那奈ちゃん、今日が最高の1日になりますように! ~姉ちゃんより愛を込めて~』
「……聖那奈姉ちゃん!!!」
私の叫びが響き渡る中、リビングから聖奈姉がニコニコしながら出てきた。
「おはよー、那奈ちゃん。びっくりしたでしょ? 姉ちゃん、夜通し頑張って飾り付けたんだよ!」
「夜通し!? 何!? これ!?」
「那奈の応援イルミネーションだよ! 近所のみんなにも見てもらって、那奈のこと忘れないでほしいなって!」
「……近所迷惑すぎるよ!」
私が叫ぶと、聖奈姉は肩をすくめて笑った。
「大丈夫だよ。お隣のおばちゃんたち、協力してくれたから。ほら、外見てみて?」
窓から覗くと、近所の人たちが集まってきて、イルミネーションを写真に撮ったり手を振ったりしてる。
「那奈ちゃんのお姉ちゃん、すごいね!」
「クリスマスみたいで綺麗だよ!」
「……私の家が観光地になってる」
私は頭を抱えたが、確かに綺麗だった。認めちゃいけないけど。
学校に着くと、さらに衝撃が待っていた。
校門に着いた瞬間、空から何か大きなものが降ってきた。
パラシュートに吊られた巨大な箱だ。
「何!?」
箱が地面に着地すると、中からド派手なマーチングバンドが飛び出してきた。
ドラム、トランペット、サックス。
そして、その先頭に立つのは——聖奈姉ちゃん。
「みんなおはよう! 今日は聖奈ちゃんの応援フィナーレだよー!」
聖那奈姉がバトンを振ると、バンドが一斉に演奏を始めた。
しかも、曲は私の大好きなアニメの主題歌。
「……え?」
一瞬、心が揺れた。恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。
生徒たちが校庭に集まり、拍手と歓声が響く。
友達の岬が駆け寄ってくる。
「那奈、姞ちゃんすごいね! マーチングバンドとか映画超えてるよ!」
「映画じゃないよ! 私の羞恥心の限界だよ!」
私が叫ぶ中、バンドが校庭を一周し、最後に私の前に停止した。
聖那奈姉がマイクで叫ぶ。
「那奈ちゃん、いつもありがとう! お姉ちゃん、那奈が大好きだよー!」
「……何!?」
突然の告白に、私は顔を真っ赤にした。
生徒たちが「おー!」と盛り上がり、私は頭を抱えた。
「恥ずかしいからやめてくれー!」
でも、聖那奈姉はニヤリと笑ってこう言った。
「これで終わりじゃないよ。昼休みも期待しててね!」
「まだ続くの!?」
昼休み、校舎の屋上で姉と対峙した。
「ねえ、あ姉ちゃん。もういいでしょ? イルミネーションにマーチングバンドって、私の心臓持たないよ」
聖奈姉ちゃんは、少しだけ真剣な顔で私を見た。
「那奈、怒ってる?」
全然と言ったら嘘になる。
「……怒ってるよ。恥ずかしいし、疲れるし。でも……」
私は言葉を詰まらせた。
聖那奈姉が寂しそうな目をしたからだ。
「でも、ちょっと楽しかった。イルミネーション綺麗だったし、バンドも私の好きな曲だったし」
「……那奈」
聖奈姉の目がキラリと光った。
「私さ、来年家出るから、那奈との時間減っちゃうじゃん。だから、今のうちにいっぱいバカやって、那奈に忘れられない姉でいたいんだ」
「……姉ちゃん」
胸が締め付けられた。
姉の悪戯が、ただのいたずらじゃないって気づいてた。
でも、こうやって言葉にされると、泣きそうになる。
「でもさ、こんな派手なことしなくても、姉ちゃんのこと忘れないよ。私、姉ちゃん大好きだから」
「……那奈!」
姉が目を潤ませて、私に抱きついてきた。
私は照れながらも、そっと抱き返した。
「でも、もう少し控えめにしてもらえると嬉しいかな……」
「ふふ、分かった。じゃあ、昼休みのサプライズは控えめにしとくね」
「……まだ何かあるの?」
聖那奈姉がニヤリと笑った瞬間、屋上のスピーカーから音楽が流れ始めた。
「おっと、始まっちゃった。那奈、楽しんでね!」
「何!?」
屋上から見下ろすと、校庭に巨大なスクリーンが設置され、私と聖奈姉の子供時代の写真がスライドショーで流れ始めた。
「うわああああ!!!」
私の叫びが校庭に響き、生徒たちの笑い声がこだました。
放課後、家に帰ると、私はソファに倒れ込んだ。聖奈姉が隣に座って笑う。
「ねえ、那奈。今日楽しかったでしょ?」
「……疲れたけど、楽しかったよ。姉ちゃん、ほんとバカだけど、最高だね」
「ふふ、那奈にそう言ってもらえるなら、お姉ちゃん頑張った甲斐あったよ」
姉が私の頭を撫でて、私は初めて素直に笑った。
「でも、明日からは普通にしてね?」
「分かった。普通のお姉ちゃんに戻るよ」
「……信じないけど」
私たちは笑い合った。
姉の悪戯は、確かにエスカレートした。でも、その先にあったのは、姉妹の絆だったのかもしれない。
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