#4『悪戯の街角パレード』
暫くは連続投稿続きます。
朝が来るたびに、私は自分の人生がコントみたいになってることを実感する。
聖奈姉ちゃんの「今日よりずっとすごいから」という言葉が頭にこびりついて、昨夜はろくに眠れなかった。
目覚めた瞬間、まず異変に気づいた。静かすぎる。
いつもならカエルのおもちゃとか紙吹雪とか、なんらかの「仕掛け」が待ってるはずなのに、何もない。
「まさか……姉ちゃん、風邪でも引いた?」
一瞬、心配がよぎったが、すぐに思い直した。聖奈姉ちゃんがそんな簡単に休むわけない。
むしろ、この静けさが不気味すぎる。
リビングに行くと、姉が普通に朝ごはんを食べていた。
トーストをかじりながら、私を見てニッコリ。
「おはよー、那奈ちゃん。よく眠れた?」
「……何? その普通さ。逆に怖いんだけど」
「ふふ、那奈ってほんと疑り深いね。お姉ちゃん、今日は普通に優しいお姉さんでいるつもりだよ?」
「……信じない」
私は目を細めて姉を睨んだが、彼女は涼しい顔で紅茶を飲み干し、立ち上がった。
「ほら、早く準備して。学校行こ?」
この普通さが、逆に最大の罠な気がして仕方ない。
学校までの道すがら、私は姉の後ろを歩きながら目を光らせていた。
いつもならここで何か仕掛けてくるはず。
紙飛行機とか風船とか。
でも、今日は何もない。
普通に住宅街を抜けて、商店街に差し掛かったときだ。
「……何この音?」
遠くから、太鼓と笛の音が聞こえてきた。
祭りでもやってるのかな、と首をかしげた瞬間、商店街の角からド派手なパレードが現れた。
「え!?」
色とりどりの旗を振る人々、花飾りをつけたトラック、そしてその中心に——巨大な山車。
その上に立つのは、ドレスアップした彩花姉ちゃんだった。
「おはよー、那奈ちゃん! 姉ちゃんからのスペシャルパレードだよー!」
メガホンを手に持った聖奈姉が叫ぶと同時に、山車から大量の紙テープがバサバサと降ってきた。
私は呆然と立ち尽くす。
「何!? これ!?」
商店街の人々が集まり始め、拍手と歓声が響く。山車の上には「那奈ちゃん応援団」と書かれた横断幕。
さらに、聖奈姉の周りには学友らしき数人がいて、太鼓を叩いたり笛を吹いたりしてる。
「聖奈先輩、マジすごいね!」
「那奈ちゃんのためにパレードとか最高!」
見覚えのある三年生たちが楽しそうに騒いでる中、私は頭を抱えた。
「応援団!? 何!?」
姉がメガホンで続ける。
「みんな! 那奈ちゃんが今日も元気に登校できるように、応援よろしくね! 商店街のみんなも協力してくれてるよー!」
商店街のおじさんやおばさんたちが「那奈ちゃん頑張れー!」と手を振ってくる。
私は顔を覆った。
「恥ずかしい……死にたい……」
でも、聖奈姉は止まらない。
山車がゆっくり動き出し、私を追いかけるように商店街を進む。
紙テープに加えて、今度は花びらが降ってきた。しかも、私の名前入りの旗まで振られてる。
「那奈ちゃん、大好きだよー!」
聖奈姉の声が響き渡り、商店街がカオスに包まれた。
学校に着いたとき、私はすでに魂が抜けていた。
パレードは校門で終わり、聖奈姉は「じゃあね、那奈ちゃん!」と手を振って三年生棟に消えた。
教室で岬に会うと、彼女は目を輝かせて言った。
「那奈、朝からすごかったね! 商店街のパレード、SNSでバズってるよ!」
「……何?」
岬が見せてきたスマホには、パレードの動画がアップされていて、すでに数百いいねがついてる。
コメント欄には「聖奈先輩天才!」「那奈ちゃん可愛い!」とか書かれてて、私はさらに頭を抱えた。
それ以前に、なんでこんなにも聖奈姉の名前がネット社会にまで広く知れ渡っているのだろうか。
「私の人生、終わった……」
「いやいや、始まったんだよ! 那奈、お姉ちゃんのおかげで有名人じゃん!」
岬の言葉に、私はため息をついた。
確かに、聖奈姉の悪戯は「分かりやすい」。
隠さないし、遠慮しない。
でも、これがエスカレートの終わりとは思えない。
放課後、家に帰ると、聖奈姉がリビングでテレビを見ながら笑っていた。
「ねえ、那奈。今日のパレード、どうだった?」
「……恥ずかしすぎて死にそうだったよ」
「ふふ、そう言いつつ、商店街のおばちゃんたちに笑顔で手を振ってたじゃん。那奈ってほんと可愛いね」
「……振ってないよ! あれは照れ隠しだよ!」
私は反論したが、聖奈姉はニヤリと笑って立ち上がった。
「ねえ、那奈。今日のはまだ序盤だからね。明日からはもっとすごいよ?」
「待って! これ以上何!?」
私の叫びを無視して、聖奈はスキップしながら部屋に戻った。
その夜、私はベッドで考えた。
聖奈姉の悪戯、確かに恥ずかしいけど、どこかで嫌いじゃない自分がいる。
商店街の人たちが笑ってくれたり、友達が楽しそうにしてたり。
でも、この気持ちを認めちゃったら、聖奈姉の思うつぼだ。
「明日、どうなるんだろう……」
不安と、ほんの少しの期待を抱えながら、私は眠りに落ちた。
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