#3『悪戯の頂上決戦』
暫くは連続投稿続きます。
朝が来るたびに、私は戦々恐々とするようになった。
聖奈姉ちゃんの「もっとすごいから」という言葉が頭から離れない。
昨日までのポストイットやピザパーティーが「序の口」なら、今日は一体何が待っているのか。
目を覚ました瞬間、まず部屋を見回した。
異常はない。
カエルのおもちゃも、風船も、紙吹雪もない。
静かすぎる。
「……逆に怖い」
恐る恐るベッドから出て、リビングに向かう。
聖奈姉の姿はない。
朝食のテーブルにはトーストとジャムが普通に置かれているだけ。
「姉ちゃん、どこ行ったの?」
私が呟いた瞬間、背後でカチッと音がした。
振り返ると、玄関のドアが開き、聖奈姉ちゃんがニヤリと笑って立っていた。
「おはよー、那奈ちゃん。今日も元気に登校しようね?」
「……何? その不気味な笑顔」
「ふふ、なんでもないよ。ほら、早く食べな。遅刻するよ?」
聖奈姉の言葉に警戒しつつも、トーストをかじった。普通に美味しい。
ジャムも甘くて、特に変な味はしない。
「本当に何もないの?」
「何かって何? 那奈、疑いすぎだよ。お姉ちゃん傷ついちゃうなー」
聖奈姉ちゃんが大げさに胸を押さえて悲しそうな顔をしたので、私は少しだけ罪悪感を覚えた。
確かに、ここ数日の悪戯で過剰反応してるのかもしれない。
でも、それは甘かった。
学校に着いた瞬間、異変が起きた。
校門をくぐった途端、頭上から大量の紙飛行機が降ってきた。
数十、いや数百もの紙飛行機が、空を埋め尽くして私に向かって飛んでくる。
「何!?」
慌ててしゃがむと、紙飛行機が地面に落ちてきた。
中を覗くと、そこには私の名前が。
『那奈ちゃんへ。姉ちゃんより愛を込めて』
「……聖奈姉ちゃん!!!」
私の叫びが校庭に響き渡る中、周囲の生徒たちが紙飛行機を拾って笑い始めた。
友達の岬が駆け寄ってくる。
「那奈、これ見た!? 校舎の屋上!」
見上げると、屋上に聖奈姉ちゃんが立っていた。
巨大なメガホンを持って、こう叫ぶ。
「みんなおはよう! 今日は那奈ちゃんのスペシャルデーだよ! 紙飛行機はプレゼント第一弾! 次はもっとすごいから楽しんでねー!」
「スペシャルデー!? 何!?」
私が呆然としていると、校舎のスピーカーから突然音楽が流れ始めた。
しかも、今回は運動会じゃない。
私の大嫌いな演歌だ。
「うわっ! やめてくれー!」
演歌に合わせて、どこからともなく風船が校庭に放たれ始めた。
風船には私の顔写真がプリントされていた。
しかも変顔のやつ。
「いつ撮ったんだよこれ!?」
岬が笑いながら言う。
「那奈のお姉ちゃん、ほんとエンターテイナーだね。全校生徒巻き込んでるよ」
確かに、校庭はすでにカオス状態。
生徒たちが風船を追いかけたり、紙飛行機を拾って読んだりして大騒ぎだ。
昼休みには、さらに事態が悪化した。
購買でパンを買おうとしたら、店員さんがニヤニヤしながらこう言った。
「優奈ちゃん、これ頼まれてたよ」
渡されたのは、でっかいケーキ。
チョコレートでコーティングされた豪華なやつだ。
「……何これ?」
ケーキの上にはメッセージカード。
『那奈へ。午後の授業頑張ってね。お姉ちゃんより』
「まさか、普通に優しいだけじゃないよね?」
疑いつつも、教室に戻ってみんなで分けて食べた。
美味しかった。
チョコも甘くて、スポンジもふわふわで、誰もが聖奈先輩最高!」と盛り上がった。
でも、次の瞬間、異変が。
「うわっ、熱っ!?」
口の中が急に熱くなった。
ケーキの中から、唐辛子ソースがじわっと滲み出てきたのだ。
「またかよ!!!」
私が水筒に飛びつく中、教室は爆笑の渦。
岬が涙を拭いながら言う。
「聖奈の姉ちゃん、ほんと天才。甘いと辛いのコンボとか芸術的だよ」
芸術じゃない。
拷問だ。
放課後、私は疲れ果てて校門で姉を待った。
聖奈姉ちゃんがニコニコしながら近づいてくる。
「ねえ、那奈。今日楽しかったでしょ?」
「……楽しかったのは姉ちゃんだけだよ。私の人生、カオスすぎるんだけど」
「ふふ、そう言いつつ、ケーキ食べるとき笑ってたじゃん。那奈ってほんと素直で可愛いね」
またその言葉。
私は一瞬ドキッとしたが、すぐに気を取り直した。
「ねえ、姉ちゃん。なんでこんなことするの? 私をからかうのがそんなに楽しい?」
聖奈姉ちゃんは少しだけ目を細めて、私を見つめた。
「楽しいよ。那奈がどんな顔しても、結局お姉ちゃんのこと嫌いにならないでくれるから」
「……え?」
一瞬、聖奈姉の声に寂しさが混じった気がした。
でも、すぐに彼女は笑顔に戻ってこう言った。
「ま、明日も期待しててね。今日よりずっとすごいから!」
「待って! もうこれ以上は無理だって!」
私の叫びを無視して、聖奈姉はスキップしながら去っていった。
この悪戯、どこまでエスカレートするんだろう……?
ブクマ、★★★★★評価等して頂けると凄く感謝感激です。
連載のモチベーションにも繋がります!
何卒どうか今後ともよろしくお願いいたします。