表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

#2『悪戯の波状攻撃』

 朝が怖い。

 昨日、聖奈姉ちゃんが「明日からはもっとすごいよ」と不敵な笑みを浮かべた時から、私の平穏な学生生活は完全に終わった気がする。

 目を覚ます前から、すでに何かがおかしい予感がするのだ。

 案の定、今朝もその予感は的中した。


「う……何!?」


 目を開けた瞬間、視界がピンク一色。

 顔に何かが貼りついている。

 慌てて剥がすと、それはポストイットだった。そこには姉の達筆な字でこう書かれている。


『おはよう、那奈ちゃん。今日も姉ちゃんの愛をたっぷり感じてね♡』


「……愛?」


 疑問に思った瞬間、異変に気づいた。

 部屋中がポストイットだらけだ。

 壁、机、本棚、天井まで、ピンクと黄色の付箋がびっしり貼られている。

 しかも全部にメッセージ付き。


『那奈は寝顔がブサイクだよ』


『宿題やってないよね? 姉ちゃん知ってるよ』


『今日の朝ごはんはパンケーキだよ(嘘)』


「……何!? この労力!?」


 私は絶叫しながらベッドから飛び降りた。

 すると、足元でカサカサ音が。

 見下ろすと、床一面に散らばる大量の紙吹雪。

 よく見ると、私の昨日の数学のノートを細かく裁断したものだ。


「聖奈姉ちゃん!!!」


 私の叫び声が家中に響き渡った瞬間、リビングから姉の声がのんびり返ってきた。


「起きた? おはよー、那奈ちゃん。朝から元気だね!」


 元気なのはお前だよ、と心の中で毒づきながらリビングに駆け込むと、聖奈姉ちゃんはソファに座ってコーヒーを飲んでいた。

 制服姿のまま、まるで何もしていないかのような涼しい顔。


「私のノートを切り刻んだの!? あれ、今日提出なんだから!」


「えー? あんな殴り書きみたいなノート、先生に見せられないでしょ。姉ちゃんが那奈の恥を防いであげたんだよ。感謝してね?」


「感謝!? 殺意しかないわ!」


 私は拳を握り潰しそうになったが、姉はニヤリと笑って立ち上がった。


「ま、ノートは私がコピーして学校に持ってくから安心して。ほら、早く準備して。遅刻するよ?」


「……え?」


 一瞬、姉の優しさに戸惑ったが、すぐに思い直した。

 こいつに素直な親切なんてあるわけない。

 絶対何か裏がある。


 学校に着いた時点で、私の疲労度はすでにMAXだった。

 姉の「ノート持ってくから」という言葉を信じてしまったのが間違いだったのだ。


 教室に入ると、友達の岬が目を丸くして私に近づいてきた。


「那奈、見た!? 廊下の掲示板!」


「何? またテストの結果でも貼られたの?」


「違うよ! とにかく見に行って!」


 嫌な予感に駆られながら廊下に出ると、そこには巨大な模造紙が掲示板に貼られていた。タイトルはこうだ。


『那奈ちゃんの数学ノート大公開! ~姉が愛を込めて編纂~』


 そして、そこには私のノートのコピーが拡大されて貼られ、至るところに姉の赤ペンでコメントが書き込まれている。


『ここ、計算ミスだよ。那奈バカすぎ♡』


『この字、読めないよ。字汚い妹に愛を込めて』


『先生、これでも那奈をよろしくね!』


 さらに、ノートの余白には私の似顔絵まで描かれていて、しかもブタ鼻でデフォルメされてる。


「うわああああああ!!!」


私の絶叫が廊下に響き渡り、周囲の生徒たちが笑い始めた。美咲が肩を叩いてくる。


「那奈の姉ちゃん、ほんとすごいね。朝からこれ仕込むとか天才すぎるよ」


「天才じゃない! 悪魔だよ!」


 私は頭を抱えたが、内心、姉の行動力に少しだけ感心していた。

 いや、感心してる場合じゃない。

 昼休み。

 私は彩花姉ちゃんを捕まえて文句を言うつもりで、三年生の教室に向かった。

 だが、教室に着いた瞬間、異変に気づく。


「……何この匂い?」


 教室のドアを開けると、そこには巨大なピザが机の上にドーンと置かれていた。

 直径1メートルはあろうかという特大サイズ。

 しかも、チーズがとろけて美味しそうな香りが漂っている。


「優奈ちゃん、お待たせー!」


 聖奈姉ちゃんが教室の奥から笑顔で手を振ってきた。


「何!? これ!?」


「昼休みのサプライズだよ。那奈が朝怒ってたから、お詫びにピザパーティー開いてあげる。ほら、みんなで食べよう!」


 三年生のクラスメイトたちが拍手しながら集まってきて、私は呆然とした。


「え、ちょっと待って……これ、私のため?」


「もちろん! 那奈が主役だよ。ほら、座って座って!」


 姉に押し切られるまま席に座ると、みんなが「那奈、いい姉ちゃん持ってるね!」とか「聖奈先輩最高!」とか言いながらピザを切り分けてくれた。

 怖えよ、何かの宗教団体かよ。

 ーーと思いつつも一口。


「……美味しい」


 一口食べて、確かに美味しかった。姉の悪戯にしては珍しく、純粋に嬉しいサプライズ。

 でも、油断は禁物だ。

 案の定、ピザを食べ終えた瞬間、姉がニヤリと笑った。


「ねえ、那奈。ピザの代金、優奈のお小遣いから出してもらったから。よろしくね?」


「は!?」


 私の叫びが教室に響き、三年生たちが爆笑した。

 放課後、家に帰ると、私はソファに倒れ込んだ。

 朝のポストイット、ノートの公開、ピザの代金請求。

 今日だけで悪戯の波状攻撃が3回。

 隣に座った聖奈姉ちゃんが、私の頭を撫でながら言った。


「ねえ、那奈。今日も楽しかったでしょ?」


「……疲れただけだよ」


「ふふ、そう言いつつ、ピザ食べてるとき笑ってたじゃん。那奈ってほんと可愛いね」


 姉の言葉に、私は一瞬ドキッとした。

 確かに、ピザをみんなで食べたとき、ちょっと楽しかった。

 でも、そんな気持ちは認められない。


「明日も期待しててね。もっとすごいから」


 姉がウインクしながら立ち去った瞬間、私は背筋が凍った。

 この悪戯、どこまでエスカレートするんだろう……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ