#1『悪戯の序曲』
3年振りに新作連載作品始めました!
※仮最終話の50話までは書き留めストックありますので暫くは連続投稿続けます。
朝だ。
目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、私は布団の中でうめき声を上げた。
「うるさい……あと5分……」
そう呟いた瞬間、異変に気づく。
音が妙だ。目覚ましの音じゃない。
まるで——カエルの合唱のような、けたたましくもリズミカルな鳴き声。
私は飛び起きた。
枕元に置いてあるはずの目覚まし時計がない。
代わりに、そこには小さなスピーカー。
コードをたどると、ベッドの下からプラスチックのカエルのおもちゃがにっこり笑っている。
「……は?」
混乱する私の耳に、さらに追い打ちをかける声が響いた。
「おはよー、那奈ちゃん! 今日も元気に起きてね!」
部屋のドアが勢いよく開き、そこには姉が立っていた。
高校三年生の聖奈姉ちゃん。
制服のスカートをひらりと揺らし、
満面の笑みで私を見下ろしている。
長い黒髪が朝日を浴びてキラキラしていて、まるで悪戯の女神みたいだ。
「何!? これ!?」
私はカエルのおもちゃを手に持って叫んだ。
姉は肩をすくめて、こともなげに答える。
「目覚ましがうるさいって昨日言ってたじゃん。だから、優しい姉心でカエルちゃんに変えてあげたの。癒されるでしょ?」
「癒されない! 心臓止まるかと思ったわ!」
私は叫びながらベッドから這い出し、制服に着替えようとクローゼットを開けた。
すると——
「うわっ!?」
中から大量の風船がドドドッと雪崩のように飛び出してきた。
赤、青、黄色、ピンク。
部屋中が風船だらけになり、私は呆然と立ち尽くす。
「聖奈姉ちゃん!!!」
「うふふ、朝からサプライズって大事だよ。眠気も吹っ飛ぶでしょ?」
姉は無邪気に笑いながら、風船の一つを指で弾いて遊んでいる。
私は頭を抱えた。
確かに眠気は吹っ飛んだ。
でも代わりに、姉への殺意が芽生えつつある。
学校までの道すがら、私は隣を歩く姉を睨みつけた。
私の名前は弥生那奈、高校一年生。
普通の生活を愛する平凡な女子高生だ。
対して姉は、学年トップの成績と裏腹に、こういう「分かりやすい悪戯」を仕掛けてくる変人だ。
「ねえ、姉ちゃん。なんで私にだけこんなことするの?」
「えー? 妹が可愛いからに決まってるじゃん。愛情表現だよ、愛情!」
「愛情ならチョコとかクッキーとかくれればいいじゃん!」
「それじゃ普通すぎるよ。私の愛はもっとダイナミックなの」
姉は胸を張ってそう言い放ち、私はため息をついた。
確かに姉の悪戯は「分かりやすい」。
隠し事とか遠回しな嫌がらせじゃない。
ド直球だ。
でも、それが逆に厄介なんだ。
逃げ場がない。
昼休み。
教室で友達の美咲と弁当を食べていると、突然、教室のスピーカーから謎の音楽が流れ始めた。
アップテンポで、どこかで聞いたことのあるメロディー。
「……これ、幼稚園の運動会で流れるやつじゃん?」
友達の岬が首をかしげる中、私は嫌な予感に駆られて立ち上がった。
すると、教室のドアがバンッと開き、姉が登場。
手に持ったマイクでこう叫んだ。
「那奈ちゃん、お姉ちゃんからのお昼のプレゼントだよー! 全校生徒に運動会の思い出を届けちゃう!」
教室がざわつき、友達たちが私を見る。
私は顔を覆った。
「やめてくれ……」
でも姉は止まらない。
音楽に合わせてスキップしながら教室を一周し、最後に私の机の上に小さな紙袋を置いて去っていった。
「……何これ?」
いやな予感しかしない。
恐る恐る開けると、中には可愛いクマの形をしたクッキーが。
「え、普通に嬉しいじゃん……」
一瞬ホッとしたのも束の間、クッキーをかじった瞬間、口の中に広がる激辛の刺激。
「うわっ! なん!? ハバネロ!?」
私は水筒に飛びつき、教室中が爆笑に包まれた。
岬が涙を拭いながら言う。
「那奈のお姉ちゃん、ほんと天才だね……」
天才じゃない。
悪魔だ。
放課後、家に帰ると、姉がリビングでテレビを見ながら笑っていた。
「ねえ、那奈。今日楽しかったでしょ?」
「……楽しかったのは姉ちゃんだけだよ」
私は疲れ果ててソファに倒れ込んだ。
姉はニヤリと笑ってこう言った。
「ふふ、でもさ。これ、まだ序の口だからね。明日からはもっとすごいよ?」
「え?」
姉の目がキラリと光った瞬間、私は背筋が凍った。
この悪戯、エスカレートするらしい。
私の望む平穏な学生生活はこれからどうなっていくんだろう……?
ブクマ、★★★★★評価等して頂けると凄く感謝感激です。
連載のモチベーションにも繋がります!
何卒どうか今後ともよろしくお願いいたします。