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冬の扇風機

少し切ない、冬の扇風機を主人公にしたお話を前から書きたいと思っていました。

この度サクッと書くことができて良かったです。

物置部屋の中は埃くさい。

あと寒いし、静かで、暗い。


うう、寂しいよ……。



ぼくは扇風機だ。


辺りの気温がすごく下がって、今は冬と呼ばれる季節だね。冬の間はぼくは必要とされないから、こうして寂しく閉じ込められている。


冬がなんなのかは、よく知らない。だけど寒いことだけは分かるんだ。

ぼくのこんな体にもちゃんと、ツーンとした寒さが染み込むんだ。きっと今ぼくを触ると冷たいと思うよ。


いつだったか。

誰が言っていたのか忘れたけど、冬には「ゆき」っていうのがあると聞いた。

それがいったいどんなものなのか、ぼくは知らない。

だって見たことがないんだ。ここから想像するしかできない。


もしかすれば、寒いことに関係する、少し怖いものかもしれない。なんだかそんな気がしてる。

だって、ぼくにとって冬は寒くてちょっと怖いものだから。




……ああ、そうだった。

ぼくは急に思い出した。


前にゆきを教えてくれたのは、掃除機だった。

ここに、少しの間一緒にいたんだ。

忘れてた。大切な思い出だったのに。


掃除機は、ちょっとおもしろかった。

なんだか自信に溢れていた。

いろいろな所へ言ったという話を、聞かせてくれた。

すごいよね。掃除機はぼくと違って、一年中活躍するんだってさ。


いろいろな所へ行って、いろいろなものを見てきたんだぞって、楽しげに話した。

「かいだん」っていうところを通って、上にある場所によく行っていたらしい。

すごいなあ。そんなのぼくの全く知らない世界だ。


ベッドの下もよく見ていたんだって。

ぼくはベッドはいつも見ていたけど、下は覗いたことはない。


一回、びっくりする目にあったんだって。

いつもより大きなものを吸い込んじゃったんだ。

吸う時に、痛かったんだって。

その後も体がゴロゴロするし、ガラガラって音もしてきて苦しかったけど、使っていた人が掃除機の体をパカッて開けると、そこにはちゃんと吸い込んだ「ネックレス」があったんだ。それを取ったら、掃除機は大丈夫になったんだって。

ぼくは怖くて、聞いているだけで泣きそうになった。


「あのときゃちょいと焦ったなあ」


そう言って笑っていた。もう過去のことだから笑い話らしかった。


「大変だったね。大丈夫になって良かったね」ってぼくは言ったんだ。泣きそうになったけど、最後はホッとした。


ああ、ぼくもこの間、ぼくの動いている近くに、ほそーい糸がやってきたもんだから、ぐるぐるぐるってなって、絡まっちゃったことがあったなあ。だけどそれも、最後は上手くやってくれて、大丈夫になった。


ぼくもあのときは焦ったよ。でも最後は良かったって思ってホッとした。





それで、それで……。




……はあ、寂しいなあ。






あれはきっと去年。


掃除機は、急にしゃべらなくなった。



いつもみたいに話しかけたんだ。「おはよう」って。だけど「おはよっ! うしっ、今日も頑張るぞ」って元気なあいさつ、返ってはこなかった。


その時は、きっと掃除機はたくさん働いて活躍してるから、まだ眠いんだと思った。だから、もうしばらくしてから話しかけようって思ったんだ。


だけど、また話しかけても、シーンとして。

また同じくらい時間をおいてから話しかけても、何も返ってこなかった。お昼のチャイムがして、夕方のチャイムがした。そして、次の日になっちゃった。

ずうっと静かで、寂しくて……。




ある日掃除機は持っていかれた。どこかへ、行くんだ。



ぼくは何も知らないけど、少しは分かるんだ。



掃除機は死んじゃった。

なんとなく、それが分かった。

いつかぼくにも、その時が来ることだって。



う、うう……。

ぼくは悲しくて泣いた。


うわあああああああ!












そんなことが、あった。

そして今、思った。

掃除機が、何も知らないぼくにいろいろ話をしてくれたみたいに、今度はぼくが、だれかにいろいろ話をする存在になりたいって。


ああやって話をしてくれたから、暗くて退屈な物置部屋の中でも、楽しかったから。






それから何日か経ったある日、ダンボールが運ばれてきた。

ずいずいって押されて、ぼくの定位置が少し変わったんだ。



そしたら、見えた。


「わあっ」


部屋の上の方の小さな窓を、冬になってからは始めて見た。窓の外に目を奪われた。


ゆきだ!

しろくて、小さい、ふわふわ!

上から来てる。不思議だ。


きっとあれがゆきだよね? 間違ってないよね!?

冷たくて、怖いものかもしれないけど、でも、なんだか……キレイだね。


やったあ。これで、ぼくもゆきについてだれかに話せるよ。





あの掃除機も、もしかすれば昔いた誰かにいろいろ教えてもらって、ぼくみたいな過去があったのかもしれない。きっとずうっと使われていた掃除機だったんだ。いろんな経験をしてきたんだ。


胸がぎゅっとなって、泣きそうになった。

だけどこらえた。



これからは、誰かが寂しくて泣いていたら、「大丈夫だよ」って言って、ぼくが話をするんだ。

今まであったいろんなことを話す。


大丈夫、今は寂しくても、時間が経ってその時期が来たら、また活躍できるようになるよって。

寂しかったこととか、怖かったことは、いつか誰かに話せるよって。笑い話にできるかもしれないよって。


寂しくて怖くて震えていたとき、話しかけてくれて、元気づけてくれたりしたら、すごく良いよね。カッコイイよね。ぼくもそんな存在になるよ!


よーし! また夏が来たら活躍するぞー!

楽しみだなあー!

読んでくれてありがとうございます。

知らなかったのですが、扇風機って冬でも暖房と併用して使うことがあるみたいですね。

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