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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第93話

「つまり……あんたのことを殺すことが出来ない理由があったってことだな」

 アカネは腕を解いて、その顔を少し真面目なものに変えてそう続けた。先程の軽口は、彼女にとっても切り捨てるべき説らしかった。横で桃色の髪が揺れる。

「もしくは朱宮さまの殺害で目的が達成された、とか……? 財団にとって、たまかさんから猫の情報が洩れて欲しくない相手は朱宮さまだった、とか」

「こいつはフェイクで、本当に狙っていたのは朱宮さまだったってことか?」

 説を唱えたアカリではなく、サクラが首を振って口を挟む。

「いえ、財団は異様にたまかさんに執着しておりましたので……やはりたまかさんが目的なのは間違いないと思われます。財団にとって、朱宮さまがあの場に現れるなど想像もしていなかったでしょうし、狙っていたにしては非効率的すぎます」

「そうですね……。少なくとも、財団は林檎さんの殺害を意図的に計画していたわけではないと思います。林檎さんがたまたま怪我をして動けない状態になったから、狙いを私から林檎さんに変えた……そうみるのが自然です。そう考えると、その後どうして私を殺さなかったのかという問題が残りますが……アカネさんの言う通り、殺すことが出来ない理由が何かあったのかもしれません」

「弾の残りがなかったとか、時間が限られていた、とかかしら。その後、『ブルー』の方に発見されたと言っていましたよね? 『ブルー』の方が現場に近づいてくるのが見えたから、朱宮さまの殺害後すぐに撤退せざるを得なかったんじゃないでしょうか」

「……そう。わたくしの抱いていた疑問点の一つはそれです」

 サクラが怪訝な顔で割って入る。

「少し話は逸れますが……、ずっと疑問に思っていたことがあるのでよろしいでしょうか。なぜたまかさんの護衛役としてついていたはずの『ブルー』の者は、その場を離れていたのでしょうか?」

「ああ、それは……その、……私のせいです」

「たまかさんの?」

 意味がわからない、というように、不思議そうな顔でサクラは小さくおかっぱを揺らした。

「私が、林檎さんと二人で話がしたいと言ったんです。それでカイさんには席を外して貰っていて……先に『ブルー』所有の車に戻って貰っていました」

「ああ……なるほど? つまり、たまかさんの望んだ状況だったと?」

「……はい」

 サクラの言葉の端々は刺刺しく、言外に『そんなことを頼むなんて』『不敬すぎる』という不満が滲んでいた。責めるような瞳も隠せていない。しかし『感情を隠す必要はない』と言ったのはたまかである。たまかは抑えきれていない憤怒に、甘んじて身を縮めた。

「なら、『ブルー』の奴が意図的に作り出した状況ではないってことか。そいつが殺した……ってわけでもなさそうだ」

 前の二人を意にも介さず、アカネが冷静にそう言った。

「そうね。朱宮さまが殺されてたまかさんが生きているって状況だけ見れば、一番この結果を理想に思いそうな組織は『ブルー』だけれど……そもそも朱宮さまが現れるなんて縹は予想していなかったでしょうし、朱宮さまが負傷したのも偶然だったし、縹が命じていたとはとても思えないわね」

「『ブルー』の奴が縹の命なしで勝手なことをやるとも思えないしな」

 アカネとアカリが推察し合う声に、たまかはたまらず声をあげた。

「あの! ……今回の林檎さん殺害の件は、『ブルー』の思惑は絡んでいないと思います」

「言い切りますね。どうしてですか?」

「……」

 たまかは何も言えず、口を噤み、視線を落とした。

「えっと、その……水面さんを見ていて、そう思った、というか。彼女は……その、堂々と敵対するタイプであって、こんな、自分のいないところで林檎さんを殺すことを良しとしないタイプというか……その」

「今度はやけにしどろもどろだな」

 アカネが困惑とともにたまかを窺う。

「と、とにかく」

 三つの視線にいたたまれず、たまかは勢い良く顔をあげた。

「林檎さんを殺したことは、水面さんの指示では絶対にありません。信じてください」

 たまかは訴えるように真摯な目を三人へ向けた。曇り一つない、透き通るような瞳を。

「縹と接する機会が一番多かったのは、この場ではたまかさんですからね。……信じましょう」

 サクラはきちんとたまかの心中を受け止め、冷静なまま頷いた。他の二人も同じ気持ちらしく、異論は出なかった。

「つまり、付き添った『ブルー』の者に特別不審な点はなかったのですね」

「はい。離れたのは私がお願いしたからですし、戻ってきたのも『すぐ行く』と言っていた私達がなかなか来なくて様子を見に来たという彼女の言い分で筋は通っています。猫探し中も、不審な動きはありませんでした」

「ふむ……」

 サクラが手を顎に当て、その重い瞼を閉じた。

「まとめますと……一番自然な流れは、こうでしょうか。財団の手掛かりを探すために朱宮さまと『ブルー』の護衛役、そしてたまかさんは猫探しに赴いた。財団の者達は猫の行方を追うため、こっそりとその様子を窺っていた。たまかさんが朱宮さまと二人きりになった際、猫が姿を現し、財団側はその猫を始末しようとして発砲した。しかし朱宮さまが身を挺して庇い、逆に撃った相手を撃ち殺した。財団の仲間がそれを見て、手負いとなった朱宮さまを殺害した。たまかさんも殺そうとした時、『ブルー』の護衛役が戻ってきた。財団側は撤退、猫はそのまま逃げていった……」

 サクラは緩慢に瞳を開いた。漆黒の前髪の間で揺れる。

「つまり……やはり朱宮さまを殺したのは財団で間違いないようですね」

 その手は顎を離れ、強く握られた。アカリもいつもの穏やかさが完全に消え、唇を固く結んでいた。『レッド』の一室は、静かに渦巻く怒りに支配された。

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