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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第68話

 二人は再び部屋へと戻った。予想に反して、水面と林檎は口論することなく静かに二人を待っていた。たまかは席に着きがてら、隣に座る林檎へとコーヒー飲料を差し出した。林檎の手が伸びかけたところで、横から「違う」と姫月の声が横やりを入れた。

「それは水面の。林檎のはこっち」

 姫月の席から林檎へと、ペットボトルが弧を描いて宙を飛んだ。林檎がキャッチしたペットボトルは、いちごミルクのファンシーなラベルがついていた。

「何か仕込んでないよな?」

 水面が身を乗り出して、対角線上のたまかの持つコーヒーを貰っていった。水面は一度訝し気な顔でペットボトルを見下ろした。

「うちは何もしてないよ。それは立会人さんが保障してくれるはず。まあ、自販機の飲み物ごと既に細工されてたんならお手上げだけど?」

 姫月はオレンジジュースのキャップを開けながら、林檎の方へとこれ見よがしに顔を向けた。口ではそう言ったものの、間髪入れずに飲み口に口をつけ、オレンジジュースを喉に流し込んだ。

「していませんよ、そんな非効率的なこと」

 林檎は静かにそう反論した。身を以って証明しようと思ったのか、自身の持ついちごミルクのキャップを開け、一口だけ飲んだ。言い出しっぺの水面も本気で言ったわけではなかったようで、林檎が飲む前に既にコーヒーで喉を潤していた。

「えっと……結局、私が進行していいのでしょうか?」

 たまかはおずおずと片手を挙げ、三人の長達へ尋ねた。

「いいんじゃない?」

 姫月が軽い調子で答える。水面は不満有り気な表情をしていたものの止めようとはしてこなかったため、たまかは進行役としての仕事をすることにした。

「主な課題は三つあると思います。一つ目に、不肖私の身をどうするか。二つ目に、財団の動きについて。三つ目に、借金返済に充てるお金をどうするか」

「借金?」

 水面が訝し気に訊き返す。

「んなもんこっちは勝手に回収してるから、議論するまでもないけどなあ」

「莫大な金額ですよ? ……そんな方法で返せるんですか?」

「なんとかなるだろ」

 林檎は水面を呆れ果てたように見つめたが、それ以上は何も言わなかった。そして少し間を空けて、再度口を開いた。

「……ずっと思っていたのですが、急に借金返済を迫ってきたことといい、株が暴落したことといい、たまかさんを賞金首としたことといい、どうも財団の動きがきな臭すぎます」

「だけど全部の元凶って株の大暴落でしょ? それは財団関係なくない?」

「それはそう、なのですが……タイミングが良すぎて、暴落も作為的としか考えられなくありませんか? そう言う桜卯は財団の怪しい動きの情報を何か掴んではいないのですか?」

「そういうのは特にあがってはいないね。だから借金の取り立ては状況に乗じてたまたまって感じなんじゃない?」

「……嘘はついてなさそうね」

 林檎はじっと姫月の顔を見つめてそう言った。顔を突き合せたことで視覚的な情報が増えたお陰で、お互いを知っているからこそわかることがあるのだろう。

「ただ、例え株の暴落は偶然だとしても、このタイミングで借金の返済を要求したり、たまかさんに懸賞金をかけたりしたのは意図的でしょう。こちらに金を工面する当てがないことはわかっているのだから、恐らく資金難で三組織を潰そうと企んだに違いありません」

「確かに、正攻法であたし達を潰そうったって無理だからな」

「そう、三組織は力をつけすぎて、襲撃程度じゃ崩すことが出来なくなっていました。ですので財団は借金返済という形で潰しにかかったと見ています」

 たまかは、「証拠はあるんですか?」と訊いてみた。林檎は小さく首を横に振った。

「証拠はありません。ただ、確信を持ってはいます」

「でも、姫……桜卯は財団にそんな動きはなさそうだって言ってるぞ?」

「そうですね。極秘案件として処理されているか、或いは桜卯の目の届かないところでやっているのでしょう。桜卯主導ではなさそうで、安心しました」

 たまかはふむ、と考え込む。

「ではなぜ……私に莫大な懸賞金をかけたんでしょう? せっかく資金難で潰す予定だったのに」

「それは三組織を潰す以上に、三組織を使ってたまかさんを捕まえる方が利があったためだと思います。三組織は喉から手が出る程お金が欲しい状況、そこにお金をあげると言えばどこも食い付いてくるのは明白です。それ程財団はたまかさんが欲しかった、ということではないでしょうか。たまかさんを追いたかったから借金返済を強いたのか、三組織を潰そうとしていたところにたまたまたまかさんが必要になったのか、どちらが先かは定かではありませんが」

「うーん……。私、なんでそうまでして追われているんでしょう?」

「心当たりは本当にないのか?」

「財団との接点は一切ありません。心当たりも、何も……」

 たまかにとって、財団から狙われたのは本当に突然だった。いきなり蘇生の話が飛び出して、気付いたら勝手に賞金首にされていたような状態だ。

 会話が途切れた中、姫月はオレンジジュースの入ったペットボトルを再び傾け、喉を潤して口を開いた。見た目は変わらないが、三人の顔が軽口を叩いていた時の雰囲気から長の顔に変わっているようにたまかには感じられた。

「んじゃさ、その件は後で話すとして、とりあえず課題って言ってた三つを順番に議論して、仮でもいいから結論出していこうよ。で、最初に借金の件について話したいんだけど、いいかな?」

「わかりました」

 どちらかといえばたまかの件と財団の件がメインのはずだが、姫月は最初に借金の件を取り上げた。

「もしかして……何か策があるのですか?」

 少し意外そうに林檎が言う。姫月はその言葉に、にやりと笑みを浮かべた。

「ある。……銀行強盗、しない?」

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