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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第64話

「会談の日時の段取りは、こちらで決めさせて頂きますね。財団がどのように行動してくるかわからない以上、なるべく急ぎでの開催が良いと朱宮さまはお考えです」

 たまかはちら、と扉へと目を向けた。今この瞬間だって、財団がいつ乗り込んでくるかわからない。急にそのことを思い出して、思わず不安気な顔を見せる。

「それまでの急務は目下、たまかさんの安全の確保ですね。三組織の会談まではどこの組織も抜けがけはなし、したくてもたまかさんの意思に背くので出来ないでしょう。基本財団の動きにだけ注意していればいい。……たまかさん、会談までどのように過ごしますか?」

 今回は本人の意見を尊重してくれるらしい。たまかはしばし悩む素振りをした。

「えっと……そうですね、『ラビット』にいようかと思います。この部屋への『ラビット』の皆さんの立ち入りを禁止して頂ければ、ここにいることで安全が確保できるかと」

 『不可侵の医師団』へ帰って、『不可侵の医師団』へ迷惑を掛けることは避けたい。すでに一度襲撃され、その時の患者の治療もまだ終わっていないのだ。加えて、一人で外に出るわけにもいかない。守ってくれる人がいない状態で、財団にいつ襲われるかわからないのはあまりにもリスクが高い。必然的に、三組織のどこかに匿って貰う必要がある。

「『ラビット』みたいな弱いやつらの集まりじゃ、頼りなくない?」

 ソラが心底理解出来ないという顔をして疑問を呈した。アカリがたまかの代わりに横から口を挟む。

「きっと、たまかさんは『ラビット』で何かやりたいことがあるから、ここに残ることを選んだんじゃないかしら?」

「はい。……姫月さんに会談の参加の可否をきく役、私にやらせて頂けないかな、と」

「え、どうして?」

 ナナがぱちくりと瞬いた。ノアも不思議そうに答えを待つ。

「私なら、参加するよう姫月さんを説得出来るかなと思ったんです。御三方には、ぜひ会談に参加して頂きたいので」

 ナナやノアなら『レッド』の提案を伝え、参加の可否を尋ねるだけで終わるだろう。その役をたまかが担えば、迷ったり万一参加しないと言われた場合でも、粘り強く説得することが出来る。そう思っての提案だった。

 ソラがこれ見よがしに肩を竦めた。

「あー、これ、朱宮の思惑通りなんじゃない? こいつがこんなにこの案に積極的なら、そりゃどこのリーダーも出席せざるを得ないんじゃ?」

「何を今更。一から十まで、ぜーんぶ朱宮さまの御心通りですよ」

 サクラがふんと鼻を鳴らす。たまかが今まで見た中で、一番得意気な顔だった。

「とにかく……今日中には返事は出揃いそうね。開催は明日とかになるのかしら」

 アカリはあくびを堪えつつ、「明日に備えて帰ったら沢山寝ないと」とぼやいた。たまかは今更ながらアカリとミナミが二日徹夜をしていることを思い出した。

「あと、バウムクーヘンが食べたいわ。チョコレートがたっぷり掛かったやつ……」

「そういうのは、帰ってからにしましょう。……では、我々は失礼します。次に会うのは会議の会場になるでしょう。楽しみにしております」

 サクラは部屋の皆に軽く頭を下げて会釈をし、扉へと向かった。アカリも続けて会釈をし、その後についていく。『レッド』の二人はそうして部屋を去っていった。部屋に残った『ブルー』の二人は、顔を見合わせた。

「どう思う、ミナミ? 朱宮の術中に陥ってそうじゃない?」

「ろくでもないこと考えてそうだが、縹様に任せるしかないな。それに何か小賢しいことを考えていたとしても、会議の席で朱宮諸共殴り殺せばいい。心配する必要はないだろ」

 ミナミは伸びを挟み、「帰るか」とソラへ声をかけた。ソラはサイドテールを揺らして頷いた。

「んじゃ。逃げるなよ」

 ミナミはたまかに向かって片手をあげ、背を向けた。ソラは挨拶も特にせず、その背中についていった。やがて扉が乱暴に開けられ、二人の姿はその奥へと消えていった。

 残ったナナとノア、そしてたまかは静かになった部屋でしばし呆けた。この二日間過ごしてきたはずの『ラビット』の空部屋が、なんだかだだっ広く感じた。

「えっと……たまかちゃんはこの部屋を使うんだっけ? 立ち入り禁止だって、皆に言っておいた方がいいの?」

 ナナはレモン色の髪を揺らし、たまかへと振り返った。たまかは頷く。

「はい。お願いしてもよろしいでしょうか」

「いいけど、今までは『レッド』や『ブルー』の奴らがいたのが圧力になってたけど、今はたまかちゃん一人だからね。皆が言う通りにしてくれるか……」

「皆で言いつけを破って遊んだほうが、絶対楽しいからね。あれだ、修学旅行の夜だ!」

「しゅ、修学旅行……?」

 本か何かで昔読んだことがあるような、ないような。そんな古臭いノアの言葉に、たまかは思わずおうむ返しをしてしまった。

「まあ、腕や足が一本なくなったって、会議の仲介役は出来るよね」

 ナナの晴れ晴れとした口調での言葉に、たまかは苦い顔をした。『ラビット』に残ることを選んだのは、最悪の選択だったかもしれない。今更ながらに、少し後悔し始めた。

「ところでナナさん……新しいお友達は増やせそうでしたか?」

「え? 本気で言ってる? 『ブルー』の奴も『レッド』の奴も、ぜーったい友達になれない! 楽しい事何一つとして一緒にやってくれなそうだし、『ブルー』の奴は『頭おかしい』って言ってくるし、『レッド』の奴は屁理屈こねくり回して難しいことばっか言うし……」

 ナナはそこで一度言葉を区切った。声量を下げる。

「……やっぱり、たまかちゃんが友達でいてくれれば、それだけでいいよ」

「えーっ!?」

 少し照れ交じりの言葉に、大袈裟リアクションで返したのはノアだった。口に当てたレースの両手を握りしめ、ずい、とナナへと身を乗り出す。

「ボ……ボクは? ボクはナナちゃんの友達じゃないの!?」

「え……? まあ……友達、かな」

「友達かな、じゃなくて友達だよ! 絶対!」

 たまかはこれまで二人を見てきて、なんとなく察して来たことがあった。恐らく、ナナはノアのことが少し苦手だ。二人は『ラビット』らしい狂気を孕んでおり、殺戮を楽しむところがあるが、ナナはそれが悪いことだと自覚しており、ノアは無自覚なところがある。無邪気に心から純粋に狂ったことをするノアに、ナナは恐怖を覚えているのではないか。同じ『ラビット』の人間であるはずなのに、本物と偽物の差を見せつけられて、彼女はノアを本能で拒否しているのではないか。たまかはそんなことをぼんやりと感じていた。たまかは医療従事者とはいえ、メンタル面は専門ではない。そのあたりは勉強熱心なすずが詳しいはずであり、今度関連する本を借りようかと思案した。新しい友達のことを詳しく知る、一歩となるはずである。

「……では、私は姫月さんに会いに行かないといけません。この二日間、ありがとうございました」

 たまかは二人へとぺこりとお辞儀をした。ナナとノアは言い合うのをやめ、笑みを浮かべて見送ってくれた。

「ばいばい! また遊ぼうね。今夜『ラビット』の子が首吊りショーするから、時間があったらぜひ来てね! きっと楽しいから!」

 椅子の上でにこにこと両手を振るノアと、特に言葉はなく片手を振るナナに、たまかも笑みを浮かべて手を振り返した。背を向け、たまかはこの二日間を戦い抜いた部屋を後にした。




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