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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第62話

 ナナによって部屋へと通されたあと、ソラは部屋を見渡してぱちくりと瞬き、それから思い切り顔を歪めた。

「何これ? どういう状況?」

 サクラも続いて部屋の状況を確認し、一瞬だけ狐につままれたような顔をした。

「よし、これでてめえの言っていたルールも解除だな」

 ソラやサクラへ説明することなく、ミナミはたまかへと念を押した。たまかは頷いた。

「そうですね。二組織のリーダーからの伝言が伝わるまで、と期間を設定していましたから。ただいまを以って解除、ということになりますね」

「……よくわからんけど、縹様からの伝言、言っていい?」

 ソラはたまか達の話にさして興味もなさそうに、急かす。たまかは頷いた。

「はい、どうぞ」

 部屋の中央へとみんなが集まる。ノアがなんとか体重をかけて椅子を引く音が、ずぞぞ、と響いた。木材同士の摩擦音が収まると、再び静寂が訪れた。ソラはサイドに結んだくるくるの髪を揺らし、皆が移動を終え自身へと注目しているのを確認すると、口を開いた。

「まず……九十九たまかの身柄は『ブルー』のもの。返して貰うわ」

「いや何それ、それを言うならたまかちゃんは自分の意思で『ラビット』に来たんだから、たまかちゃんは『ラビット』のものじゃない!? そもそも最初から『ブルー』のものじゃないし!」

「そーだそーだ!」

 すかさず『ラビット』の抗議が挟まる。ソラは五月蠅い、という顔をし、取り合わずに話を続けた。

「財団側が九十九たまかのことを蘇生以外の理由で追っている、という話も縹様の耳に入れてきた。……で、『ブルー』としての結論は、『そんなのは関係ない』」

「だよな」

 ミナミがにやりと笑う。ソラも同じ表情を作り、続けた。

「『ブルー』には『ブルー』なりの目的がある。九十九たまかは『ブルー』なりに活用させて貰う」

「それは……財団に渡す意思はない、ということですか?」

 アカリの疑問に、ソラは頷いた。それに浮かない顔をしたのは、他でもないたまか本人だ。

(現段階では他の組織の出方はわからないわけですから、私の身の確保によって他組織を出し抜くことが目的ではないはず。つまり……目的として考えられるのは、『レッド』と『ラビット』の情報が欲しい、ってやつですよね? そんな利用価値一瞬で使い果たされてしまいますし、順当に考えればその後財団に渡されることになりそうですが)

 財団を敵に回すリスクを取る程の価値をたまかに見出しているとは思えないし、たまかを差し出すことによって財団から貰える見返りだって欲しいはずだ。金の工面も塵も積もれば山となる方式だったし、借金を帳消しに出来るなら『ブルー』にとって願ったり叶ったりのはず。

(財団に狙われているというなら自由に動きづらいですし、今後『レッド』と『ラビット』のさらなる情報を求めに動くのはほぼ不可能です。……やっぱり、他の組織の情報を全部吐いたらそのままポイされる未来しかなさそうですねえ)

 たまかの晴れない顔を、サクラとアカリがこっそりと精察する。ソラがそれに気付く様子はない。

「財団がどう考えようが何しようが関係ないね。『ブルー』は九十九たまかが欲しい、だから手に入れる。それだけ」

 いかにも単純明快、粗暴な『ブルー』らしい結論だった。

「では……財団と敵対するということですね?」

「もともと手を組んだ覚えもない。いいじゃん、戦う相手が増えればそれだけ暴れがいがある」

 アカリの強張った顔での質問を、ソラは闘志に燃えた目で一蹴した。これから起こる戦闘に胸を高鳴らせ、高揚した気分のままに嗤った。

「ボク達は大反対だよ!」

「そうだよ、たまかちゃんはナナ達と遊ぶんだから! 『ブルー』にも財団にも渡すもんか!」

 横から『ラビット』の二人の声が飛ぶ。サクラが『ブルー』の面々から『ラビット』の面々へと顔の向きを変えた。

「……では、『ラビット』も『ブルー』と同じで、財団を敵に回してもたまかさんの身柄を手に入れたい、ということですね? それが桜卯の意思、と捉えてよろしいですか?」

 ナナとノアは一瞬呆けた。それからナナが、「ああ……キャプテンのことだ」と思い出したように小声で呟き、ノアもその言葉を受けて動きを再開させた。

「……別にキツキちゃんが言ってるわけじゃないよ」

「そうそう。キャプテンがどう思ってるかはしらないけど、とにかくナナ達は絶対にたまかちゃんを守り抜くよ!」

「……茜ちゃんがこの場にいたら、『組織としてあり得ない』、って開いた口が塞がらないでしょうね」

「ええ、本当に」

 アカリとサクラは小声で囁き合う。

「まあ、それが『ラビット』という組織としての在り方、なのかもしれないわね」

「桜卯が意図してやっているかどうかはともかく、こっちはこういうのが一番やりづらいんですよね。情報が集めにくすぎて」

 二人は寄せていた身を離すと、サクラが一つ、小さく咳払いをした。

「……なるほど、二組織の方針は把握致しました。両者同じ意見であり、お互い譲るつもりはない、と」

「そういう『レッド』はどうなんだ。まだきいてないぞ」

 ソラの棘を含んだ言い方に、サクラは流し目だけで応えた。表情を変えず、淡々とした口調で続ける。

「……朱宮さまは、仰っておりました。例え財団と相対することになったとしても、『ブルー』と『ラビット』はたまかさんを手に入れたがるでしょう、と」

「なんだよ、全部お見通しってか?」

 じゃあ一々戻る必要あったか?、と付け足し、ソラはカツカツと二枚歯で床を叩いた。サクラは反応を示さなかった。

「そしてそれは大いに問題です。まず第一に、皆さんは御存じか知りませんが、我々は財団に借金をしている状態です。ただでさえ金を催促されて組織存続の危機だというのに、その上で敵対したところで勝ち目があると思いますか? 単純な力や猟奇性で上回ったところで、結局金の力で引きずり落とされることでしょう。貴女達が勝手に潰れてくれる分にはいいのですが、そちら二組がたまかさんの身柄を確保するとなると、『レッド』も借金を返すことが出来ません。結局三組織すべてが潰されて終わり、これはあまりにも馬鹿げています」

「借金……って、何?」

「じゃあ『レッド』はたまかちゃんの身を財団に引き渡すって言うの!?」

 ノアがぽわんとした調子で首を傾げる横で、ナナが身を乗り出す。サクラは「いいえ」と言って首を振った。

「『レッド』としてもたまかさんの身を差し出す気はありません。そもそも、もう財団としても受付終了といったところではないでしょうか」

 たまかは財団の襲撃に遭った時のことを思い出した。スーツ姿の少女は言っていた。『お前達には失望した』、と。言われてみると確かに、明確に敵対したような言い分だった。

「第二に」

 サクラの話が再開され、たまかは顔をあげた。目が合う。サクラは、重い瞼の奥からたまかをじっと見つめていた。

「たまかさんに残る謎を放っておくことも問題です。どちらかというと、『レッド』はこちらの問題を最重要視しています。財団はたまかさんを、『蘇生が出来る』という嘘を吹聴してまで手に入れようとしていました。そこには何かしらの意図があるはずですし、たまかさんに大きく関わっているはずなのです。それを無視して事を進めても何も解決しません。貴女達二組織の手に渡ったら、この重要な問題は放っておかれ、宙ぶらりんとなったまま財団と敵対することになってしまう。財団のような手ごわい相手への極上の武器となるような情報をみすみす逃し、さらに放置することで財団の何かしらの思惑が進んでしまうことになります。それを、朱宮さまは避けたいと思っておられるのです」

「ぐだぐだ言ってるけど……要は『レッド』も主張は同じってことだな? 謎を探るためにこいつの身を確保したいってことだろ」

 ミナミは親指を立ててたまかを示した。ソラは横ではあとこれ見よがしにため息をついてみせた。

「なーんだ、結局全員言いたいことは一緒か。いつも通り、抗争するだけじゃない」

「……いえ」

 サクラは『ブルー』の二人へ小さい掌を掲げ、制した。

「今のはまだ半分です。朱宮さまの言伝の、半分」

「半分?」

 ミナミが眉を寄せておうむ返しに尋ねる。

「ここからが重要です」

 サクラの事務的な口調に、僅かに感情が滲んだ。

「我々は主張は同じ、そしてたまかさんの身は一つしかない以上、対立するしかありません。……しかしそれはあまりにも悪手。我々がいがみ合っている間に、財団は何かしらの思惑を進めていってしまいます。金も巻き上げにくるでしょう。それは三組織すべてにとって望まない事態のはず」

 次第に言葉の端々に熱が籠っていく。話者の顔はしかし、複雑な表情をしていた。説得したい、伝えたいという使者の顔に混じって、懐疑心と僅かな嫌悪感という、サクラ個人の感情が透けて見えていた。

「つまり——」

 サクラは一度言葉を区切った。一瞬次の言葉を口にするのを躊躇うかのように口を閉じかけ、しかしそれを無かったことにする勢いで、毅然とした態度で宣言した。

「我々には話し合いが必要です。それもトップ同士の話し合いが。……『レッド』は『ブルー』と『ラビット』に、リーダー三者の会談を申し入れます。立会人はたまかさんです」

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