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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第60話

 しばしの間があった。しんと静まり返った部屋に、やがて同じタイミングで大きな声が響いた。

「はあ!?」

「ええ!?」

 ミナミとナナの素っ頓狂な声をきいても、たまかは自信たっぷりの笑みを崩さなかった。声さえあげなかったものの、アカリはびっくりしたように口に手をあてていたし、ノアも理解が追いつかないかのようにぱちくりと瞬きを挟んだ。それからナナがはっとしたように呟く。

「まさか『新しい友達』って、こいつらのこと……!?」

 信じられない、とばかりにナナがたまかに胡乱な視線を送るのと同時に、ミナミが口を開いた。諭すような口調で続ける。

「待て待て、さっきも言ったが状況だけ見ればあっしと『レッド』のこいつは圧倒的不利な環境にいるんだ。この部屋に『ラビット』が数揃えて突撃したら多少面倒だし、何より『ラビット』のことだ、『パーティだ』とか言って普通にやる可能性がある」

「それは、普通に否定は出来ないけど」

「……だから、『レッド』の奴はともかく、『ラビット』の奴と共には過ごせない。いつ襲われるかわからない状況なんだ。突撃のタイミングを計られたら困るし、こちらの動きを見られるのは都合が悪い」

「そうですね。そこは、『ブルー』の方に全面的に同意します」

 アカリも賛同して頷いた。それを受けて、たまかはゆっくりと首を振った。

「でもそれでは、『ラビット』側の希望にそぐわないことになります。ナナさんは『レッド』に情報を抜かれることを恐れています、アカリさんの傍に『ラビット』側の人間が必要です」

「それはあっしがいるから、監視しておけば大丈夫だろ」

「いやいや、『ブルー』と『レッド』が手を組む可能性は普通にあるでしょ。そんなんじゃだめだよ」

 ナナがすかさず却下の声を上げた。

「……とまあ、こういうわけなので、『ラビット』側の方も傍にいる必要があります。三組織でまとまるしか、全員の希望を通す道はないと思いませんか?」

 なおも言いかけたミナミを、片手で制す。

「ただし、条件を設けましょう。一、単独行動は禁止。どの組織の方も、必ず別の組織の方を傍に連れる必要があるということです。これはこの部屋の外も含め、『ラビット』の敷地内ならどこでも適用されることとします。もちろん他組織の方を傍に連れる必要があるので、ナナさんとノアさんが一緒にいても条件を満たしていないことになります。お二人の場合は、必ずミナミさんかアカリさんを傍につれてください」

 ミナミは片眉をあげたまま、腕を組んだ。その横で、アカリはたまかの言葉を吟味するかのように目を細めた。それでも誰も何も言わない。たまかは話を続けた。

「条件二、期間内は、この部屋へは今いる五人以外の立ち入りは禁止。ノアさんやナナさんのお友達だとしても、入れないようにしてください。不必要な争いを避けるためです」

 四人は、たまかの提案する条件に黙って耳を傾けていた。たまかは最後に、「どうでしょう?」と全員の顔を見渡してから尋ねた。

「それを守ったところで、あっし達に何のメリットが?」

 ミナミは跳ねた群青色のショートカットを一度掻き上げて、言った。

「まず、『ブルー』側の『私の監視をしたい』という希望が通ります。そしてこの条件に従えば、『ラビット』から襲撃を受けるリスクも減ります」

「『ラビット』が馬鹿正直にこの条件を守ると思うか?」

「それでも、形だけでもあるのとないのとでは変わりませんか? それに『ラビット』が不審な動きをしても、傍にいればミナミさんだって気付くことが出来るでしょう? 『レッド』に出し抜かれるのだって、傍にいれば監視して防ぐことが出来ます。全員でいることは、『ブルー』にとってもメリットは沢山ありますよ」

 ミナミは眉を寄せた。若干困惑を滲ませた渋い顔だった。たまかの言葉にも一理あると思ったのか、どうやら反論出来ないらしかった。

「ボクはたまかちゃんの案に大賛成だよ! みんなでいれば、きっと楽しいよ~!」

 わあと両手を広げ、ノアが嬉しそうにほくほくと頬を紅潮させた。その横で、ナナが苦い顔をしながらぶつぶつと零す。

「『友達』なんて絶対に無理だけど……でも『レッド』の奴をこの部屋に閉じ込めておけるんでしょう? ありなんじゃないかな……。怪我を負わして転がしておく方が個人的には好みなんだけど……たまかちゃんは嫌がるだろうし……」

 独り言を続けるだけで、反論の声はあがらなかった。たまかは残るアカリへと顔を向けた。たまかの目線に気が付くと、アカリは微笑みを浮かべて真正面から受け止めた。

「細かい事、と思われるかもしれませんが……確認は大事なので、いくつか質問してもいいですか?」

「は、はいどうぞ」

 アカリはいつものゆるゆるふわふわとした雰囲気を崩さず、しかし少しも隙を見せない話ぶりだった。彼女も策略を主軸とする『レッド』の一員なのだ。たまかは思わず唾を呑んだ。

「まず前提として、たまかさんがどうも『ラビット』側に寄っている感が否めません。今、敵陣にいるのはうち、そしてそちらの『ブルー』の方です。立場として弱者なのは、うちらのはず。状況が危機的な分、うちらに譲歩する形で何かがあってもいいと思うのですが、それがなかった。たまかさんは『ラビット』の特定の方に肩入れしているんじゃないか、といらぬ不安に襲われるのも無理はないと思うのですが、いかがでしょう? 少なくともそちらの『ブルー』の方は、心の中で少なからずそのように思ってしまっていると思いますよ。それを払拭する案があれば、御聞かせ願いたいのですが」

 痛いところを突かれた。自覚はなかったが、確かにこの案を思いついたのは、ナナに『レッド』の暗躍の件をきいたのがきっかけだ。無意識に、ナナ有利の案になっていたかもしれない。たまかは思わずナナをちらりと一瞥した。ナナと目が合った。

「そ、そもそもさ……『ラビット』にたまかちゃんを残したいって言いだしたの、『レッド』じゃん。今更弱者だ、とか言われてもさ……自分で言ったんでしょ」

 助け舟を出そうとしたのか、ナナがおずおずと反論する。アカリは柔らかな笑みのままだったが、毅然とした口調は崩れることはなかった。

「あの場ではそうするしかなかった、というだけです。『ブルー』や『レッド』にたまかさんを連れていく進行になった場合、『ラビット』は賛成していましたか?」

「う……し、していたかもしれないじゃん」

「なるほど、では今から『レッド』か『ブルー』に移動しましょう」

「だ、駄目だよー! たまかちゃんを連れてかないでよ!」

 ノアがナナの代わりに慌てて止めに入った。ナナは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「たまかさんが『ラビット』に肩入れするというなら、止めません。ただその場合、うちも『ブルー』の方も黙っているわけにはいきません。それは、たまかさんなら痛いほどよくおわかりですよね?」

(これ……たぶん応接室での会話、本当に全部盗聴されてましたね)

 的確に痛い所を突き続けるアカリに、たまかは苦笑いで応じるのが精いっぱいだった。あれは、ナナの杞憂でもなんでもなかった。『レッド』の主力武器は情報である、確実に自身の武器を蓄えていて、そして必要な時にその刃をさらけ出す。『レッド』は『ラビット』の情報を一つ足りとも見逃したりしない。きっとだからこそ、アカリはたまかの言うような『レッド』の活動に不都合となる案に従うわけにはいかないのだ。

「というのも、条件一が『ラビット』有利なものとしか思えないことが発端となっています。部屋の外に出るのに他の組織の方と連れ出ることが条件となっていますが……この部屋の外には、『ラビット』の方が沢山いらっしゃるのですよ? 例えば『ラビット』の方とうちが二人で部屋の外に出た場合、『ラビット』の方々に袋叩きにされて殺される可能性は充分高いです。『ブルー』の方と一緒にいればまだ二人で抵抗出来るはずですが、一人ずつ誘い出されてはうちらにはどうしようもありません」

 敵陣の中にいるというのはそういうことです、とアカリは加えた。

「どうしても、『ラビット』の襲撃の機会をたまかさんがサポートしているようにしか見えないのです」

「そ、そんなことはありませんよ」

「そうですか? でもうち、条件一の適用範囲の”『ラビット』の敷地内なら”という言い方が、とても引っかかっています。部屋の外全体で、という意味合いならそのように言いますよね? これは保険なんじゃないですか? 『ラビット』の敷地の外にわざと誘導して——」

(そんな捉え方があるなんて、全く考えていませんでした。うう、知略面で『レッド』に敵うわけがないんですよ。アカリさんが反対側にまわったら、私に勝てるわけがありません。ど……どうしましょう)

 しかし、『ラビット』側につこうと思っているわけではないのは本心だ。あくまでも、たまかは中立の立場。『不可侵の医師団』の者であり、どの組織にだって肩入れしない。そしてそのスタンスは、アカリだって内心わかっているはずだ。そこをきちんと伝えて、説得するしかない。

「…………。なーんて」

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