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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第59話

 半壊したポポの部屋にいるわけにもいかず、一行はノアが案内してくれたらしい空き部屋へと移動していた。ノアやポポの部屋より広く、応接室よりは狭い部屋だった。飾りっ気はなく、誰かが普段使っているような印象も受けない。たまかとナナが部屋へ足を踏み入れると、なぜか悲しそうな顔のノア、腕を組んで仏頂面のミナミ、眉間に皺を寄せて苦い顔をしているアカリの姿があった。

「……どういう状況ですか?」

 困惑したままたまかが注意深く部屋を見渡すと、その原因はすぐに判明した。お盆の皿の上にのせられたガラス玉の数々には、見覚えがあった。

「夕飯だって言ってガラス玉を出して食べろって強要された。馬鹿にしているにも程があるだろ」

 ミナミはそう吐き捨て、状況を説明してくれた。たまかにも覚えがある展開だった。

「たまかちゃん……『ブルー』の人、『何言ってんだ』『頭おかしいんじゃないのか』って言って食べてくれないのお……」

 めそめそとした様子でたまかに泣きつこうとしたノアは、その奥のナナに気が付いた。その手に応急処置が施されていることを見つけ、「あ!」と声をあげた。

「ナナちゃん! たまかちゃんに治療して貰えたんだね。よかったよ!」

 手を合わせ、嬉しそうに身体を揺らす。ナナは居心地悪そうに身体をもじもじとさせた。

「まあ……うん」

 ぎこちない返事だった。にこにこと安心した笑みを浮かべているノアに対し、ナナは目を合わせようとしなかった。代わりに、包帯で巻かれた足へと目線が移動する。立っている他二人とは違い、ノアだけは椅子に座っていた。

「ノアも無事に治療して貰ったんだね」

「そうだよ~。たまかちゃんって、やっぱり治療が上手いね! 蘇生の力がなくても、ある程度修復して貰うことは可能なんじゃないかなあ?」

 ナナがポポの部屋を出ていった時のような剣呑な雰囲気はなかった。幾分ぎこちない会話だったが、お互いに怒ったり喧嘩をしているという雰囲気はなさそうだ。たまかは密かにほっとした。『ラビット』の二人には、二人なりの関係性があるのだろう。

「てめえが帰ってきたら面倒臭いことになると思って、手は出さないでおいた。感謝して欲しいくらいだ」

 ミナミがたまかの横へやってきて、ため息を漏らしながらぼやく。顔をあげ、ここからが本題だ、と言わんばかりに「で」、と一際大きな声を張り上げた。

「これからはてめえはあっしと一緒にいな。てめえは縹様のものなんだから、あっしが責任もって逃げないように監視しないと」

 いつ水面さんのものになったんですか、とたまかが口を挟む前に、横から「いけません」と声が割って入った。アカリはその優し気な声色からのんびりさを消して、断固抗議という顔で続けた。

「たまかさんの身は『ブルー』のものではありません。今は完全中立です、そうでしょう? 先程桜ちゃんが言っていたように、たまかさんには依然多くの謎が残っています。彼女は財団絡みで何かしらのキーマンになっている可能性が高い。どこか一つの組織が出し抜いてその身を確保するのはよくありません。……そこで提案なのですが、たまかさんの過ごす部屋を一つ作り、我々三組織が交代制で護衛につくのはどうでしょう?」

 一見バランスのとれたように見えるその提案に異議を申し立てたのは、『ブルー』ではなく『ラビット』だった。

「は……反対反対! それってたまかちゃんの護衛につく以外の時間、『ブルー』と『レッド』の奴を野放しにするってことでしょ。こいつを一人にしたら、絶対『ラビット』の中を探りまわる!」

 ナナは無遠慮にアカリに指を突き付けた。アカリは心外だとばかりに僅かに口を曲げた。

「意外と『ラビット』の方って疑い深いのですね。ここは敵陣の中、周りに『ラビット』の方が大勢いらっしゃいます。それに対して、うちは一人だけ……そんなこと出来ませんよ。うちが不審な動きを少しでもすれば、絶対に目撃されてしまうわ」

 たまかはアカリの言うことにも一理あると納得しかけたのだが、ナナはそうではなかったらしい。ぶんぶんと首を振って、「駄目駄目!」と主張を曲げることはなかった。

「じゃあさ、たまかちゃんの護衛をしていない間は、『ブルー』の子と『レッド』の子と『ラビット』の暇な子達で、一緒に遊んでいればいいんじゃないかな? そうすれば、みんな楽しいよ!」

 ノアは無邪気な喜びに溢れた声で、新たな提案をした。『ラビット』の言う『遊び』とは、要は殺戮のことである。流石に口を挟もうとしたたまかだったが、ミナミのよく通る声が否定の言葉を放つ方が先だった。

「そもそも敵陣ど真ん中にいるあっしらの方が圧倒的に不利な状況なんだ。あっしは別に『ラビット』が全員束になって掛かってこようが全く構わないが、『レッド』のてめえにとってはそうじゃないだろ? とても遊びに付き合える力も体力もあるとは思えない。というか、それなのにてめえ自ら『一人になります』って言うのは圧倒的に怪しくないか? 普通全部の組織共通で欲しがっているこいつの身を盾にして、自分の安全を確保する場面だよな?」

 ミナミは雑にたまかを指差した。盾扱いされたたまかは、無言ながらも複雑な顔をした。

「それはもちろん、警戒はしていますよ? 周りは敵だらけですから。ただ、ストレートにそう言うのはちょっと失礼かな、と思って……」

「ええー? 怖がらなくていいよ。『ラビット』の子達は皆素敵なお友達ばかり! 絶対みんなで遊べば楽しいよ。この前新しい銃を買った子がいて、一緒に試し撃ちを……」

 ノアのチョコレート色の髪を、ナナが横から軽く押しのけた。ノアが話すと話がややこしくなるから黙っていて、と顔に書いてあった。

 三組織の主張する提案は大方出揃った。静観していたたまかがわざとらしく咳払いをし、「つまり」と口を開いた。四人の注目を浴びる。

「ミナミさんは私が逃げないか直に監視がしたい。アカリさんは三組織の公平性を重要視したい。ナナさんは『レッド』に『ラビット』の情報を持ち逃げされたくない。ノアさんはみんなで楽しく過ごしたい。そうですね?」

 四人は頷いたり、賛同の目線を送ったりした。異論はないらしい。それを受けて、たまかは口角をあげた。そう、この時を待っていたのだ。

「ならば、私から提案があります。——これから各組織のリーダーの次の指令が出るまでの間、全員で一緒にこの部屋で過ごしませんか?」

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