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抗争の狭間に揺れる白  作者: 小屋隅 南斎


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第102話

「縹様!」

 たまかの言葉は、一際大きい叫び声にかき消された。同時にたまかの首へ腕が伸びてきて、強く締めて固定される。右側のこめかみに、冷たく硬いものが突き付けられた。たまかの背中に、人の温かさがじんわりと広がる。視線だけ動かせば、その制服は薄群青色をしていた。水面を呼ぶ声からたまかにも察せられた。廊下から部屋に飛び込んできた、カイだった。

 カイはたまかの頭へ銃口を突き付けたまま、怪我をして項垂れている水面へと沈痛な面持ちを向けた。直前のたまかと同じ顔で、真実を訴えるように、叫ぶ。

「こいつが——朱宮を殺しました。こいつは、財団の人間です!」

 カイの言葉が部屋に木霊した。先刻より強くなった雨の音と風の音が、部屋に冷たく響き渡った。部屋の者は、一様に戸惑いと困惑を滲ませていた。水面は肩で荒く息をしたまま、カイへと身体の向きを変えた。その動きはゆっくりとしていて、併せて血が流れて床へと零れ落ちた。彼女はカイの懸命な訴えに口を挟むことなく、黙って耳を傾けていた。

「そこの桜卯を庇っていることからしても、明白です」

 カイは倒れている男を一瞥した。

「こいつは朱宮と二人で話がしたいと言って、自然な形で二人きりになりました。朱宮が断るはずがないと算段を付けていたのでしょう。私は従うしかありませんでした。そして忍ばせていた仲間を使って、彼女を殺した。九十九たまかは銃を持つ必要はありませんでした。ただ、仲間が狙いやすいように、朱宮の位置を調整してやるだけでよかった」

 雨が部屋の床を打ち付ける。資料は雨に濡れて、その白を溶かしていく。

「彼女は最初から三組織の長を潰すことを目的として動いていました。仲間に『不可侵の医師団』を襲わせ、その後わざと『ブルー』に捕まりました。彼女の目的は『ブルー』の内部を探り、長と接触することでした。そして賞金首を取られて他の組織が黙っているはずがないことを、彼女は知っていました。彼女の予想通りに、今度は『レッド』が彼女を捕らえました」

 たまかの頭に食い込む勢いで突き付けられた銃口は、その黒を鈍く光らせていた。

「彼女は、『レッド』の内部情報も手に入れました。その後わざと『ラビット』に捕まり、三組織すべての情報を手に入れました。そうして彼女は、財団の借金催促に対する三組織の出方を知りました。三組織が金を巡って九十九たまかを争奪し合い、共倒れるはずという財団の目論見は、残念ながらあまり功を奏していませんでした。ですから彼女は方向性を変え、再び『ブルー』の縹様へと接触しました。偶然を装って。そうすれば他二組織も動き始めます」

 ミナミも、ソラも、姫月も、そして水面も、ノイズを立てることはなかった。カイの水面へ訴えかけるような言葉だけが、独奏を奏でていた。

「また同時に彼女は、『不可侵の医師団』の者を『ラビット』の餌にし、三組織の者を一ヵ所に集めました。駆け付けたどの組織の者も、組織の腹心となるような顔ぶれでした。誘い出した者達を部屋に集め、待機させていた財団の者に襲撃させました。組織の要となるような者達を排除し、その威力を削ぐことにしたのです。しかし、結果としてそれは失敗に終わりました。そのため彼女は、長を直接殺すことへと、その目的を変えました」

 カイは一字一字全てを水面の心に届けようとするかのように、口を動かし続けた。その瞳は、水面から逸らされることはなかった。

「三組織による三者会議において、彼女はターゲットを朱宮へと絞りました。そして銀行強盗の作戦の企画を一手に担い、それを利用することで、殺害の機会を作り出しました。最初から、財団にとって猫など意味がありませんでした。しかしそれすらも利用して、朱宮を誘き出す餌にしたんです。そして計画通りに、『レッド』の長を殺すことに成功した」

 水面も目を逸らさなかった。荒く苦し気に息をしながら、それでもじっと、カイを見つめ返していた。

「こいつの次のターゲットは——縹様、あなたです。怪我を負っているあなたならば、戦闘に不慣れな九十九たまかでも殺せます。こいつはこの状況を待っていたんです。……こいつの行動の裏には、すべて意味があった。——朱宮のように」

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