【レン】
タダール兵との戦いが始まった。
「うぉぉぉ!」
叫び声。
怒号が飛び交い、土煙が濛々と舞い上がる。
剣と剣が激しく打ち合わされる音が響く。
「レン!右からくる奴らを頼む!」
ディルが叫んだ。
「まかせろ!」
俺も答える。
ディルと俺は、かなりの数を倒した。
敵の武器を奪い仲間に渡していく。
「移動して敵の背後にまわろう」
パトリックが俺に耳打ちし、背後にある裏門に目配せする。
「そうだな」
俺はパトリックに向かってうなずいた。
裏門から密かに城外に出てまわり込み、城付近の敵を挟み撃ちする作戦だった。
北の塔の側には、ディルとほかの男たち。
そして敵の背後から俺とパトリックが攻め立てる。
背後から襲われると思っていなかった敵兵たちは、驚愕し、隊列を乱した。
じりじりと、敵兵を追い詰めていく。
「隊長の首をとった。
指揮系統がなくなり、奴らはグダグダだ」
ディルが敵と剣のつば競り合いをしながら、俺に向かって叫んだ。
俺はディルが手こずっている相手の背中を串ざしにする。
「優勢だな。敵の半分が殲滅。
こちらは5名がやられただけだ」
ディルはずば抜けて強かった。
素早さ、腕力、持久力、どれを取っても抜きん出ている。
奴が味方について良かったと心底思う。
だが俺もディルに負けてない。
数々の戦いを潜り抜けてきた経験があるので、この程度の戦で命を落とすつもりはなかった。
(しかし……フィリップが現れない)
俺は視線を走らせ、フィリップの姿を探した。
(いずれにせよ兵士を殲滅すればフィリップは孤立無援になる。
もう少しだ)
勝てる……。
そう感じた瞬間。
ドーンという大きな爆発音。
俺には馴染みある音だった。
「火の魔法だ!
空を飛んでくる火の玉の軌跡を見極めて避けるしかない!
体に燃えうつれば命はないぞ」
仲間に向かって叫ぶ。
城の入り口に、とうとう大蛇フィリップが現れたのだ。
フィリップが手を振り上げるたびに、火の魔法の爆発が起こる。
飛んでくる火の玉を避けようと味方は散り散りに逃げ惑う。
そこに畳み掛けるように、生き残りの兵士たちが剣を振りかざした。
(くそっ、あと少しで敵を潰せたところだったのに)
「爆発は連続して起こせない!
次の爆発までは30秒はほど間があく。
その間に態勢を整えるんだ」
フィリップは、様子を見るように爆発を起こしている。
おそらくアリッサのことを気にしているのだろう。
万が一にも彼女を傷つけたくなくて、攻撃を手加減しているように思えた。
「次は右に落ちる!!」
自分がかつて操っていた魔法だ。
火の爆弾がどこに落ちるかは、フィリップの腕の動きである程度読めた。
仲間たちは俺の声を聞いて左に避けた。
火の玉は右側の噴水に落ち、爆発した。
だが、つぎつぎと向けられる火の魔法に俺たちは追い詰められていった。
やがて北の塔の真下まで、後退を余儀なくされる。
(くそ、背後は北の塔だ。
追い詰められたか)
やがてフィリップが口を開いた。
「レン・ウォーカー......。
なぜお前がここにいる?」
俺はヤツの問いかけに答えなかった。
ヤツは俺の方をじっと見ると言った。
「ミナ......。あの記憶を無くした女......。
そうか......あの女の正体はお前だったのか!!」
どうやら俺の心を読んだらしい。
だがミナの正体がバレたところで、今更どうでもいいことだった。
フィリップは続ける。
「まぁ......いい。
お前たちは終わりだ。火の魔法には勝てない。
アリッサはどこにいる?
彼女を引き渡し降伏すれば、命だけは助けてやろう。
降伏するんだ」
ヤツはそんなことを言い出した。
「くそっ!
さっきの爆発で一気に3人やられた」
ディルが俺に叫ぶ。
「降伏などしない。
戦って名誉ある死を迎えるのみだ」
パトリックが大声で叫んだ。
「パトリック・ベルナルド。
なぜ、モルタナの中毒から蘇ったのだ?
フン、よほど死にたいと見える。バカめ……」
フィリップは勢いよく手を振り上げた。
「もう、容赦はしない!!」
(まずい......。
次の爆発をまともに喰らえば、味方の数が激減してしまう)




