【アリッサ】
理解が追いつかない。
ミナは......ミナはレンだった......?
そんなことってある?
「一体、どういうこと。
どうやってレンはミナに......女の子になっていたの?」
あたしが震える声で聞くと、レンは答えた。
「エルフにもらった薬で.....女体に変化していたんだ」
「女体に変化......そんな薬草......聞いたこと無い」
「偶然に作り出した薬なんだよ。
貴重な成分をつかっているので市場にも出回っていない」
レンは大きな手で、あたしの頬を包み込むようにした。
「アリッサ、ごめん......ほんとに」
でもそう言われてみれば、違和感はない。
ミナはレンにそっくりだったのだ。
口調も雰囲気も、表情も......。
ミナに会うたびに......彼女の面影から、あたしはレンを思い出していた。
「レン、あたしは、あなたに会いたかったの」
彼の首に腕を巻き付けて、再びあたしは泣きじゃくった。
レンがそっと、あたしの耳元で囁いた。
「フィリップは心が読めるから......だからどうしても正体を明かせなかったんだ」
「......でもあたしは心を読まれないように出来ると言ったでしょう?
教えてほしかった。
レンは死んでしまったのかと思って毎日泣いていたの」
あたしは涙をぬぐいながら、彼の顔をじっと見つめる。
「アリッサ......、アリッサ、怒らないで」
「怒ってなんかないわ。
混乱してるの」
レンも指であたしの涙をぬぐう。
「言いたかったんだよ?俺だって。
アリッサ、俺だ。
俺がそばにいるよって」
じっと見つめるレンの目は心配そうにあたしの顔をのぞきこむ。
なぜだろう。
彼の手に熱を感じる。
前は、保護者のように暖かく、守ってくれる大きな手だった。
でも今は......まるで恋人のように......熱くて情熱的で。
それに見つめてくる視線にも特別な愛情を感じた。
レンに会えた喜びで、おかしくなっているのかもしれない。
恋人のようだなんて。
そんなはずないもの。
彼はあたしのこと......いつも「娘」のように愛してるって......そう言ってた。
「レン......ほんとに会いたかったの」
あたしはまた、彼にしっかりと抱きついた。
はしたないのかもしれないけれど、止められなかった。
レンもあたしの背中に腕を回して、髪を撫でてくれた。
「アリッサ。あんまり時間がないんだ。
この城から抜け出さないといけない」
あたしは黙って、彼の顔を見上げるとうなずいた。
-------------------------------
レンはバルコニーで倒した兵士の服を脱がせて、着替えた。
「この制服を着ていれば、パッと見、城の兵士に見えるからな」
兵士の死体をベッドの下に隠す。
(まずは部屋から出ないといけない)
あたしはレンと打ち合わせた通り、部屋のドアを静かに開けた。
「お嬢さま......どうなさいましたか」
廊下に立っている兵士が、部屋から出てきたあたしの顔を見てたずねる。
「手伝ってほしいことがあるの......部屋に入ってくださらない?」
「しかし......」
「すぐ済むわ。
そこの書棚の後ろに大事なイヤリングを落としてしまって。
書棚を少し移動してほしいのよ」
そう言って、一人の兵士を部屋に招き入れた。
物陰に隠れていたレンが、兵士に近づき素早く首を絞める。
兵士は倒れた。
「死んでしまったの......?」
あたしはレンに小声で聞く。
「ううん。気を失ってる」
レンは足元に転がる兵士を見た。
「殺したほうが安全なんだろうけど......」
そう言いながら、クローゼットを開くと、ドレスを一着取り出した。
「これ......切り裂いても良い?」
「いいわ」
フィリップに与えられた、けばけばしいドレスだった。
レンはそのドレスを切り裂くと、兵士の手足を縛り、猿ぐつわをかませた。
もう一人の兵士にも声を掛ける。
「あなたも手伝ってくださらない?」
そして一人目の兵士と同じように、無力化したのだった。
あたしとレンは、手を繋ぐと部屋から出た。
「俺はもう二度とアリッサを離さない」
レンはそう言うとあたしの手をギュッと握りしめた。




