【レン(ミナ)】・【アリッサ】
(あそこがアリッサの部屋......)
アリッサの部屋は2階。
ディルの説明では、部屋の出入り口には最低でも2名の兵士が見張っているという。
(バルコニーに人影がある!あれも見張りか。
ずいぶん厳重なんだな)
バルコニーを目指して壁をよじ登っても、登っている最中に見張りの兵士に見つかってしまいそうだ。
どこから侵入しようか。
ふとアリッサの隣の部屋のバルコニーをみる。
そこには見張りもおらず、ガラ空きだった。
(いいぞ。あそこを目指して登ろう)
隣のバルコニーからアリッサの部屋のバルコニーまでは、なんとか飛び移れそうな距離だった。
アリッサの部屋のバルコニーに着いたら、見張りの兵士1名を仕留めるんだ。
一人なら倒せる。
腰に付けた短剣を確かめる。
俺は深呼吸すると、城の煉瓦の壁を登り始めた。
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煉瓦のわずかな出っ張りに手と足をかけてバランスを取る。
足が外れて、あやうく落ちそうになった。
「はぁっ、はぁっ」
ミナは筋力がないということを忘れていた。
手がしびれ腕がプルプルと震える。
背中には汗をびっしょりかいていた。
城は一階部分に、謁見の間やパーティに使われる大広間があるので天井が高い。
つまり2階までは、かなりの高さがある。
上まで登りきれるか不安になってきた。
爪が割れて、血が吹き出してきたが構わずしっかりと煉瓦をつかんだ。
下を見ると、結構な高さまで来ていて、今落ちたら骨折するだろうくらいまで登っていた。
(もう後戻りはできない)
そう思うと足がすくみ心臓がドクンドクンと高鳴る。
(集中だ......集中)
瞑想状態に入った。
不思議と手や腕の痛みが消える。
すぅっと深呼吸して、俺はまた一歩、一歩と登りはじめた。
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【アリッサ】
涙が止まらない。
自分が情けなくて仕方なかった。
もっと上手に、フィリップの不意をつけばよかったんだわ。
例えば、自分から彼に抱きついて誘惑する。
......そして彼が油断したころに......喉元にナイフを突き刺す。
そんなことも出来たはずなのに。
どうしてもっとうまく出来なかったの。
後悔の念が押し寄せてくる。
ミナ......。
今頃きっと、ひどい目にあっているのだろう。
あたしが変わってあげたい。
あの子は、いつも一生懸命で......ひたむきで.......。
ミナに会っていると、いつも気持ちが明るくなった。
足に力が入らない。
ベッドに座り込んだ。
明日には、結婚しなければならない。
あたしは、フィリップの子どもを身ごもることになる。
ベッドに隠しているナイフに手を伸ばす。
フィリップを殺せなかった......。
もう自分の命を断つしかない......。
だって、このまま彼と結婚なんて出来るはずがない。
逃げ出すようで、とても苦しいけど。
でも楽になりたい。
レンのもとへ......彼のいる死後の世界へ行きたい。
お父さま、お母さま......許してください。
ミナ......ごめんね。
ほんとうにごめんなさい。
震える手でナイフの切っ先を胸に当てた。




