【レン(ミナ)】
(反逆の疑いって、どういうことだ......)
モルタナをモルデンに変えたことがバレたのだろうか。
それとも北の塔の回復した人間が、「狂人のフリ」をしているのがバレたとか?
もしや、女に変化して潜り込んでいることがバレたとか.......。
瞬時にいろいろなことが頭に浮かんだ。
「ミナを連れて行かないで!
ミナはなにもしてないわ」
アリッサが兵士の腕にしがみついて、懇願する。
「お嬢さま、申し訳ありませんが」
兵士の一人がアリッサの腕と肩を抑える。
「アリッサにさわるな」
俺は怒鳴ったが、兵士に乱暴に引っ張られ、部屋から出されてしまう。
「ミナ!!
なんとかするからね、大丈夫よ」
部屋からアリッサの叫ぶ声が聞こえた。
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俺は兵士に両脇をかためられ、北の塔の螺旋階段を降りていく。
「どこに連れて行かれるんだ?」
先頭を歩く兵士に尋ねた。
「......」
兵士は黙り込んで返事をしない。
厨房の前を歩くと、マーガレットをはじめとした使用人たちが、作業の手を止めてこちらを見ていた。
みんな何ごとかと驚いている。
「ちょっと!ミナをどこに連れてくんだい」
マーガレットが兵士の腕をつかんだ。
兵士は
「邪魔だ!」
と怒鳴ると、マーガレットを突き飛ばす。
「てめぇ!女相手に何すんだよ」
俺はマーガレットを突き飛ばした兵士のスネを、思い切り蹴り飛ばした。
「このアマ!」
兵士は俺の横っ面をひっぱたきやがった。
「マーガレット、大丈夫か」
「大丈夫だよ......。あんたこそ、大丈夫なのかい」
マーガレットは心配そうに俺の顔を見つめていた。
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やがて北の塔から出て、外を歩かされる。
タダール城の庭の隅にある、古びた建物に連れて行かれた。
「ここは、何なんだ」
連れて行かれるのは、モルタナを隠した地下牢獄かと思ったが、どうやら別の建物だった。
城の本体と、回廊でつながっているオレンジ色の小さな低い建物だった。
兵士が、大きなかんぬきの掛かったドアを開け、建物の内部に入る。
内部は薄暗く、絵画などの装飾品も無い。
ドアが左右にズラッと並んでいるところから、やはり牢獄と言って間違いなさそうだった。
ドアのひとつが開けられ、俺は背中を乱暴に押される。
「中に入って大人しくしてるんだ」
「出せよ!こんなところにいられない」
俺は兵士に向かって怒鳴ったが、奴らは俺を無視するとスタスタと去って行った。
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(くそっ)
俺は部屋の隅に座り込んだ。
部屋はヒンヤリとした石造りで、上部に小さな鉄格子の入った窓がある。
室内には、小さなベッドとスミに汚物をいれる容器があるのみだった。
「一体、どうなんてんだ......」
ぼそっと呟く。
「新しいお客さん」
突然声がして、俺はビクッと肩を震わせた。
「誰だ!?」
「隣の部屋の住人だよ」
隣の牢屋から男の低い声が聞こえる。
「......お前も反逆罪で捕らえられているのか?」
俺は部屋の壁に向かって叫んだ。
「違う。俺はだいぶまえからここに入れられてるんだ。
神官のフィリップがこの城を牛耳ったときから。
お前......女だな?......名前は?」
男の声がたずねる。
「お前から名乗れ」
俺は言い返した。
「ハハハ。元気なお嬢さんだ。
俺の名前は、ハンス・シュトラウス」
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(ハンス・シュトラウス......
ウィリアム公爵の腹心で百戦錬磨の騎士じゃないか......。
ここに閉じ込められていたとは。
だが.......なにかがおかしい)
「どうして、お前はここに閉じ込められてるんだ?
普通、危険人物は処刑されるか北の塔に閉じ込められるんじゃないのか?」
そういえば、俺も北の塔ではなくここに連れてこられたんだよな。
ここは一体、なんなんだ......。
「この建物は一体何なんだ?」
「ここは、ある意味、北の塔なんかよりも厳しい場所だよ」
ハンスは呟いた。
「名前を教えてくれないんだね?
用心深いお嬢さんだ」
ハンスはぼそっと呟いた。
そのとき、足音がして、俺の牢屋の前で止まった。
ドアが軋むような音を立てて開かれる。
筋肉隆々の兵士が二人、立っていた。
「何のようだ?メシか?」
俺は兵士二人をにらみつける。
「なんだ......。女じゃないか、それも可愛いな」
兵士の一人がもう一人に話しかける。
「可愛い。俺たちの好きにしていいんだよな?」
もう一人の兵士はニヤニヤ笑いながら、舌なめずりしてやがる。
「失せろ」
俺は奴らに向かって怒鳴った。
だが奴らに両手を押さえつけられる。
男の丸太のように太く筋肉が発達した腕にくらべれば、ミナの腕は細い小枝のようなものだった。
シャツを破かれる。
「......お前は何者なんだ?
どこからきた?何が狙いだ?」
男の一人が、俺の身体に触りながら言う。
気色が悪いゴワゴワの手で、胸をつかまれた。
「ペッ」
と顔につばを吐いてやると、頬を思い切り殴られた。
「お前の尊厳も人間性もすべてズタズタにしてやる。
今日から毎日、毎日、俺たちはお前を、拷問し続けてやる」
「なんのために、そんなことする!?」
俺は奴らに怒鳴った。
「お前の本性を知るためだ」
男が冷たい声で言う。
「くそっ!!本性など無い。
俺は極貧の田舎町から来た、ただの女だ」
「お嬢さん......早めに観念して、言うことを聞いたほうが良い」
隣の牢屋からハンスの声がする。
「そいつらは、情け容赦ない。
お嬢さんは毎日、いたぶられることになる。
早いところ、降参したほうが身のためだ」
「くそ!!俺は負けない」
男の一人に頭を床に押さえつけられ、服を脱がされる。
「やめろ!」
必死に抵抗したが、ミナの身体ではどうにもならなかった。




