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【レン(ミナ)】・【アリッサ】


ディルはいきなり俺にキスしてきた。

きっと寝ぼけてるんだろう。

まったく、どうかしてる。


気を取り直して、もう一度、ディルに質問をした。


「ディル。

頼むから俺の質問に答えてくれ。

ハンス・シュトラウスって名前のやつが兵士の中にいないか?」


「ハンス......?」

ディルは首を傾げている。


「そんなヤツ......兵士の中に、いないな」


「えっ!?いない!?本当か?

それじゃ、フィリップがこの城を乗っ取ったときに、殺された可能性もあるな......」


ウィリアム公爵は、ハンスのことを「百戦錬磨の兵士」と言っていた。

ハンスに対し、かなり信頼をおいていたのだ。

そんな貴重な戦力がすでに死んでいるとなると、残念すぎる。


しかし考えてみれば死んでいると考えるのはあたり前なのかも。

ハンスがウィリアム公爵の腹心の部下でツワモノだとしたら、危険人物として、処刑されていて当然だ。

今、生かされている兵士は、ウィリアム公爵の言う事を聞かないような連中ばかりなのだろう。

反乱はひと筋縄じゃいかないかもしれない。

俺は考え込んだ。


「いけない。そろそろ北の塔へ行かないと」

女体化の薬を飲み込む。


「いま、女体化の薬を飲んだのか!?」

ディルが驚いて俺にたずねる。


「そうだ。これでもうすぐミナになる」


ディルは俺が変化していく様子をじっと眺めていた。


「ミナの姿のほうが、そりゃ可愛いけど......。

俺はレンのままでも大丈夫な気がしてきた」

ディルは意味不明なことをつぶやいている。


「何を言ってんだ?

それよりお前も早く、訓練に行け」


---------------------


【アリッサ】


「お嬢さま......とてもお似合いです。

次はこちらをお召しになってみてください」


アンナが水色のドレスを手に持って、あたしの側にきた。


「もういいわ。

どれでもいいから、アンナの好きなものを選んでおいて......」

あたしは首を横に振る。


ズラッと並べられているドレスは、結婚式に着るドレスだった。

サイズを合わせるために試着をしなくてはいけないのだけど......どうでも良かった。

結婚式なんて来なければいいって、心の底から思っていた。


「いけません。

ドレスに合う宝石やリボンなど装飾品も選ばなければいけませんし。

きちんと選ばないといけないのです」

アンナは小さな声でそう答えた。


そうか。

ちゃんと選ばないと、フィリップに叱られるのはアンナなのだ。


「......分かったわ」


あたしは並べられているドレスや装飾品に目を移した。


「その、白いドレスにはピンク色の真珠を......。

クリーム色のイヤリングが良いと思うわ。

水色のドレスも保守的なデザインだから、アクセサリーは控えめが合うと思うわ。

靴はこれがいいかしら」


アンナはうなずくと、あたしが指示したドレスやアクセサリーを並べた。

街の洋裁店から来た女の店員もメモを取っている。


「念の為、お袖を通していただきたいです」

アンナがドレスをあたしに差し出す。

「サイズが合っていないと、当日大変なことになりますから」


「......分かったわ」

あたしは仕方なく、ドレスに袖を通す。

着替えが終わり、鏡の前に立つ。


「お美しいです」

「もう脱いでもいいかしら」


そのとき突然、部屋のドアが開いた。

ドレスを選んでいる最中に、ノックもなしに部屋に入ってくるなんて......。

驚いてドアの方に視線をやると、そこにいるのはフィリップだった。


「アリッサ......とてもキレイだ」

フィリップはあたしをみると、嬉しそうに目を細める。


そして、あたしを抱き寄せた。

「結婚式が楽しみだ」

「......」


「俺はこのドレスが良いな」

フィリップは毒々しい真っ赤なドレスを指さした。


「アリッサの白い肌に合う」

そう言うと、フィリップはあたしが来ている水色のドレスを脱がせ始めた。


「お止めください。

着替えは私がお手伝いしますので」

アンナが慌てて止めに入るが、フィリップは言うことを聞かない。


スルスルとドレスを脱がされて、薄い下着一枚にされてしまう。

フィリップは、あたしの両手をつかむと身体を隠そうとするのを阻止した。


両手をつかまれて、身体を見られる屈辱にあたしは顔をそむける。

「アリッサ......また痩せたみたいだな」


「結婚式のドレスが似合うように、痩せようと思ってるのです」

あたしが痩せたことで、アンナが叱られないように言い訳をした。


「そのドレスを貸してください。

着てみますから」

そう言って、赤いドレスに視線を向けたが、フィリップはドレスをあたしから遠ざける。


「肩も、背中も、痩せてしまっている。

腰も細いじゃないか」

「あっ......やめて」

冷たい手で、あたしの身体のあちこちを触り始めた。


「いや......やめて。

服を着たい。恥ずかしいわ」

あたしはフィリップに懇願した。


「恥ずかしがることはない。将来の夫なんだから」

フィリップはそう言うと、あたしにキスをした。


結婚式まであと一ヶ月もない。

結婚式の日に、あたしは自害するつもりだった。

フィリップにその考えを読まれたらおしまいだ。

頭から締め出すために、あたしは、いつものようにレンのことを......思い浮かべた。


彼の輝くような笑顔。

低くて優しい声。

ふざけたときの表情や笑い声。

レン......。もうすぐあなたのもとへいきます。


あたしは懸命に涙をこらえていた。






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