レンとの再会
「お願いです。
お父さま、お母さま」
あたしは両親のもとへと駆け寄った。
両親は広間の上座、一段高い席にふたり並んで座っていた。
「5年まえ、あたしの命を救ってくれたレン・ウォーカー。
彼が来ているの。
きっと、あたしに用があるんだわ。
攻撃しないよう、兵士に命令して」
「しかし.....事前に文書のやり取りもせずに、いきなり来るとは」
あたしの父であるパトリック・ベルナルドは眉をしかめている。
「あなた......」
母のメアリは不安そうにオロオロしていた。
外では、剣のぶつかり合う音まで聞こえ始めた。
このままではレンが殺されてしまう。
「レンのところへ行くわ」
広間から飛び出そうとするあたしを、隊長のシュウが引き止める。
「はなして、シュウ!
お父さま、娘の命の恩人を無碍にあつかうつもりなの?」
「......わかった、アリッサ。
火の魔法使い、レン・ウォーカーの話を聞いてみよう」
父はあたしの目を見て深くうなずいた。
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「レン!」
「アリッサ、久しぶりだな」
久々に会ったレンは、あたしと同じように成長しているように見えた。
出会ったころは、あたしと同じ13歳くらいにみえたのに、今は青年に成長している。
魔法使いは年をとるのが遅いはずなのに......。
ふとそんな疑問がわいたけど、再会の嬉しさにすぐに忘れてしまった。
彼の漆黒の髪も瞳も、それに優しそうな笑顔も.....変わっていなかった。
レンは、喉もとにヤリをつきつけられたまま大広間に連行されてきた。
おまけに肩から血を流している。
「ひどい。怪我してる!
レンは、あたしの命の恩人なのに」
広間はざわざわし始めた。
「火の魔法使いじゃないか。
ヤツの力は、街ひとつを壊滅させるというウワサだ。
北部を支配しに来たのか」
「そんな......恐ろしい」
「禍々しい。
闇の森から何十年も出てきていなかったのに、なぜ姿を現した」
「これは戦争の前触れだろうな」
「わたくしどもは、そろそろ失礼いたします」
「ご招待いただきありがとうございました」
幾人かの招待客が、恐れをなして逃げ出した。
「首をはねろ!!」
とつぜん招待客の一人、ぷっくりと太った男がレンを指さしながら大声で怒鳴った。
「そいつは10年くらい前にうちの兵士、数百人に火傷をおわせたんだ。
いまだに、傷の後遺症に悩む兵士もいるんだぞ!!」
わめいているのは確かヘレンが、「南部の大地主シュタイン家の長男、ケント」だと言っていた男だ。
ケントはレンに向かってツバを吐いた。
レンはケントをにらみつける。
「俺は闇の森の主にして火の使い手。
お前たちは、俺の森に勝手に侵入し、森の動植物を荒らした。
やけどを負うのは当然のむくいだ。
命を奪わなかっただけ、ありがたく思え」
あたしはレンの顔を見てびっくりした。
その表情は、あたしには見せたことのない激しいものだった。
「なんだと!!」
ケントは自分の腰に下げている剣を抜いた。
「成敗してくれる」
レンは自分の喉につきつけられているヤリに素早く手を伸ばした。
そして兵士のみぞおちに蹴りを入れながら、あっという間にヤリを奪った。
そしてそのヤリをケントに向ける。
わずか1秒もかからなかったと思う。
「ひッ!!」
ヤリを向けられたケントは、腰を抜かすと持っていた剣を床に投げ出した。
「だ、だれか、助けて」
シュウが飛んできて、自分の剣をレンに向けた。
レンとシュウはしばらく睨み合っていたが、やがてレンのほうが、ヤリから手を離す。
カラン!
と音を立てて、レンが持っていたヤリが床に落ちた。
「そのデブに挑発されて、つい、カッとなった。
知ってると思うが、俺はカッとなりやすいんだ。
すまない」
レンは、父の方に向きなおった。
「......我々に攻撃しに来たわけではないようだな」
父は静かな声でレンに向かって言った。
「なぜ、とつぜん来た。
今日は娘アリッサの誕生日だというのに」
「俺をここの兵士として雇って欲しい」
レンは、ひざまずき頭を垂れるとそう言った。
「な......なんとっ!!
火の魔法使いが、ベルナルド家の当主に頭を垂れている!!」
招待客の誰かが叫んだ。
「さきの大戦でも、どの領主にもつかずにいたのに。
彼が誰かに頭を下げるなんてありえないことだ」
「なんだと......?当家の兵士に?」
レンの言葉に父は目を丸くする。
大広間にいる人間、誰もが驚いて息を飲んでいた。