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【レン(ミナ)】


ウィリアム公爵の部屋。


「......公爵。ウィリアム公爵」

俺は公爵の耳元で懸命に声を掛け続けていた。


「お加減はいかがですか......」


「う......あぁ.......」

目には光がなく、ワケのわからないことを呟いている。


(やっぱりまだ、ダメか......)


アリッサがもう限界に来ている。

それに「女体化」の薬も残り少なくなってきていた。


だから、反乱計画をすぐにでも実行にうつしたい。

そう思っていたのだが......


(ウィリアム公爵がこの状態だと......反乱を起こすのはまだまだ厳しい)

俺は、公爵の目をのぞき込んで考え込んだ。


「うぅ......」


(もうすこしだけ、時間が必要か)

俺はそう判断してその場を立ち去ろうと、ウィリアム公爵に背を向けた。


......そのとき。


ガシッと力強い手で、腕をつかまれる。


「フィリップは......あいつはどこに......あいつはどこだ」

公爵の口からはっきりと、言葉が出てきたのだ。


しかも俺の腕をにぎる手は力強い。


「公爵!?」


あわてて振り返ると、椅子に座る公爵の目をのぞき込んだ。


「フィリップ......あ、あいつを連れてくるんだ。

......そうだ......あいつが俺を裏切った......ヤツは邪悪だ」

公爵は俺の両腕を力強くつかむと、さらにそんなことを口にする。


「ウィリアム公爵」

俺は彼の前にひざまずき、頭を下げる。


「すべて承知しております。

ただの神官だったはずのフィリップ・フォン・トリノ......。

やつは、今、このタダール城をのっとり、領主としてふるまっています」


「やはりか。

ところで.......お前は何者なんだ......若い娘のようだが」


公爵は俺の姿を、あらためて確認するかのように見つめなおした。

その瞳には、相手の力量を推し量るような力があった。


「ただの娘のように見えるでしょうが、これでも修羅場を経験しております。

今は俺のことを信用してもらうしかありません。

俺は、フィリップからこのタダール城を取り戻したい。

タダール城はあなたのものだ」


「......うむ。私は孤立無援だ。

お前に賭けるしかない身だということも理解している」


だんだんと喋る言葉もクリアになってきた。

頭の中が整理できてきたのだろう。


「おまえに頼みがある」

さすがは、近隣諸侯をとりまとめてきた勇敢な獅子とたたえられるウィリアム公爵だった。

その判断はすばやかった。


「ハンス......。ハンスを呼んできてほしい。

彼は私の一番信頼の置ける家臣なのだ」


「ハンス......?」

俺はひざまずいたまま、公爵にオウム返しにたずねた。


「そうだ。

ハンス・シュトラウス

百戦錬磨の兵士だ。

まだ生きていればいいが......」


「わかりました。ここに連れて参りましょう」


ディルに頼めば、すぐにハンスの生死も、ここに連れてくることも可能だろう。


(さぁ......。いよいよ前進だ)


手駒が動き出した。




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