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【レン(ミナ)】


「ディル、言っとかないといけないことがある」

「......なんだ?」


ディルは俺の前髪を優しくなでつけると、じっと目を見つめてきた。


「俺はディルのこと......好きじゃない。

それにディルと結ばれることは絶対にないんだ

それだけは、言い切れる。

だから、もう俺に対してそんなふうにするのは止めろ」


はっきりと伝えたつもりだった。

ディルがミナに惚れているのが、会うたびにヒシヒシと伝わってくる。

このままいくと、ディルは完全にミナの虜になってしまう。

......いや、もうなっているのか。


もっと早くにきちんと伝えるべきだったんだが。


ディルはしばらく黙ったあと口を開いた。


「......そんなこと言われても。

俺がミナを好きだって気持ちは止められない」


そう言うと、またキスをしてこようとしたので俺は顔を背けた。

これ以上、こんなことをするのは間違っている......そう思った。


「俺はあきらめない」

ディルはそう言い残すと、馬小屋から去っていった。


--------------------------------


「アリッサ!!」


北の塔でのいつもの時間。

アリッサの両親の部屋で俺たちは、ギュッと抱き合った。


「ミナ......大丈夫だった?

記憶は戻ったのよね?」


「大丈夫だ。

記憶を無くした間のことは、ぜんぜん覚えていないんだけどな」


「心配だったわ、ミナ。

もしも薬草が手に入らなかったら、どうなるかと思って」


「ギリギリで間に合った。

でも実際、危なかったんだ」


アリッサのお付きの兵士は「女同士の会話があるから」と言って、部屋の外に出てもらうことにした。

ドアも締め切っているし、小声で話せば聞かれないだろう。


----------------------------


「ほんとにギリギリだった。

フィリップのやつと目が合う直前まで、薬草の効き目が現れなくってヤバかった」


両親の髪を梳かしながら、アリッサはうなずいた。


「でもギリギリだったお陰で分かったことが、ひとつあるんだよ」

俺は部屋の隅っこをホウキで掃きながらアリッサに報告する。


「分かったこと?

なんなの?」

アリッサが目を丸くして興味深そうに俺を見た。


「フィリップは目が合ったときにしか、相手の心を読めないんじゃないかと思うんだ」


謁見の間で.......。

俺はアリッサを抱き寄せるフィリップを見て、頭に血が上った。

ヤツを殺すことで頭の中が、いっぱいになった。


だがフィリップはそんな俺の考えを読めなかった。


それは、ヤツと俺の目が合っていなかったからじゃないか?

あいつは、目が合ってはじめて、相手の心が読めるんじゃないのか?

......そう考えたのだ。


ところがアリッサは

「......違うと思うわ」

と言うと、静かに首を振った。


「違う?どうして」


「だって、あたしはいつも、彼と目が合っていなくても心を読まれているのよ。

例えば、ミナのことを考えていたとき......彼はあたしの背後にいたわ。

私は彼がいることに気づかずに、ミナのことを考えてしまったの」

アリッサはそういうと、少し震えて下唇をギュッと噛んだ。


「そうか......」


「ねぇ、ミナ。

あたしもう、耐えられない。

父と母がこんな部屋に閉じ込められ、ひどい扱いを受けているのがツライ。

あの男に触られるのもキスされるのもゾッとする。

しかも、もうすぐ結婚しなければならないなんて」

アリッサは涙を流し始めた。


「アリッサ!!」

「ごめんなさい。ミナにこんなこと言っても、困らせるだけなのに」


俺はアリッサの側にいくと、彼女をまた抱きしめた。

「結婚なんかさせない。

きっとその前になんとかするから」


震える彼女の肩をそっとなでて、落ち着かせる。

アリッサはまた少し痩せたみたいだった。

顔色も悪く、思い詰めた雰囲気がする。


「アリッサ、お願いだ。

絶対にあきらめないで」

彼女の頬に手を触れ、涙を指でぬぐう。


「ミナ......ありがとう」


-------------------------


彼女を椅子に座らせた。

アリッサはだいぶ弱っているみたいだった。

あの邪悪な男の側にいるだけで、生気を吸い取られるのかもしれない。


このままではアリッサがおかしくなってしまう。


「さっきの話の続きだけど」

アリッサが口を開いた。


「さっきの......?」

「えぇ。

フィリップは目が合った相手の心しか読めないっていう話」


「でもそれは、違うんだよな。

アリッサはヤツと目が合って無くても、心を読まれている」


「うん。

もしかしたら、彼の視界に入らなければ、心を読まれないのかもしれない。

フィリップは自分の視界に入った人間の心を読む力があるのかも」


「......なるほど。

アリッサ、すごいぞ。きっとそうだ」



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