【レン(ミナ)】
「下がって良い」
銀髪の冷たい目の男にそう言われて、私は部屋から外に出された。
「私はどこに行けば......?」
と、廊下を歩いている人にたずねてみた。
「元いた場所に戻れば?
北の塔で働いていたんじゃないの」
たずねた相手は冷たくそう言うと、さっさとどこかへ行ってしまった。
(北の塔......って?
だめだ。
ここがどこなのかも、自分が誰なのかも思い出せない。
どうしよう)
窓から外を眺めると、少し離れた場所に背の高い塔が見えた。
(あれが北の塔なのかもしれない。
あそこへ行けば、少しは自分のことが思い出せるかも)
私は城の建物から出るとトボトボと北の塔(と思われる場所)へ向かって歩き出した。
不安で仕方がなかった。
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歩いていると、急に誰かに腕を引っ張られた。
「きゃあ」
思わず叫び声をあげたけど、口を塞がれる。
力強い手に引っ張られて、建物の影に引き込まれた。
口を塞がれたまま、目をキョロキョロとさせると、数人の男がニヤニヤした顔で私をみていた。
「こんな可愛い女、みたことねえ」
「ほんとに、貴族じゃねえんだよな?
万が一貴族だったら、俺たち首をはねられっぞ」
「貴族じゃねえだろうよ、一人で歩いてるんだし」
「でもいい服着てるしなぁ」
男たちはヒソヒソと話し合っている。
男の一人に地面に押し倒される。
「おめえ、使用人だよな?
侍女なのか?厨房で働いてんのか?」
「やめて、離して」
私はジタバタと暴れたけど、3人の男に両手足を押さえつけられ、逃げようがなかった。
服を乱暴に破かれ、肩がまるだしになった。
男たちはものすごい形相で私をみている。
一人の男が、カチャカチャと自分のベルトを外し始めた。
(怖い!!)
私は目をつぶった。
「お前ら、なにしてんだ!!」
男の叫び声。
私の上にのしかかっていた男の重さが、急にフッと軽くなる。
目を開けてみると、男は数メートル離れたところに尻餅をついていた。
「ふ、副隊長......」
「ちょっと使用人にちょっかい出していただけです」
男たちがうわずった声で言い訳しているのが聞こえてきた。
「この女に手を出したら殺す」
副隊長と呼ばれた男は、尻餅をついている男の襟首を持ち上げて、頬を殴った。
副隊長の後から、そっと別の男が忍び寄ってきていた。
手には木刀を持っている。
だが副隊長は背中に目があるのか、素早く察知して忍び寄った男の腹に蹴りを入れた。
「うわぁぁあああ!!」
剣を持った別の一人の男が副隊長に襲いかかった。
「馬鹿め!!」
副隊長はそう言うと、身を半身にして男の剣を避け、腹に膝蹴りをする。
腹を蹴られた男はくるしそうに、身を二つ折りにして、悶えている。
副隊長はその男の手首を握ると、懐から取り出したナイフで、手の甲を勢いよく刺した。
噴水のように血が拭き出る。
「ギャアアア」
男が叫んだ。
「ミナに触ったな?
お前ら全員の指を一本一本、切り落としてやる」
顔に返り血をあびたまま、副隊長は全員を睨みつけた。
「ふ、副隊長、お許しください。もうしません」
男たちは涙を流しながら、走り去っていった。
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「ミナ、大丈夫か」
肩を震わせて涙を流す私に副隊長は手を伸ばした。
(この人も私のことをミナって呼ぶ。
どうやら、私の名前はミナなんだわ......)
「いつもの服はどうした?
そんな格好してるとミナは目立つんだよ。
これ着ろよ」
シャツを脱ぐと私の肩にそっと掛けてくれた。
そして頭をゆっくりと撫でてくれた。
「......あ、ありがとうございます」
震える声で彼にお礼を言った。
副隊長と私の目が合った。
すると彼は、驚いた顔をした。
「ミナ......。
お前はミナじゃないな。
一体、誰なんだ?」
そう言うと、それまで優しく撫でてくれていた手を急いで引っ込める。
副隊長は、あわてて私から離れようと後ずさった。
「......わ、わたし、記憶を失ってしまったみたいで。
自分が誰なのか、ここがどこなのか......分からなくて」
「えぇっ!?」
彼は大きな声を出した。




