【レン(ミナ)】
使用人たちに、風呂に放り込まれ身体をゴシゴシと洗われた。
「馬じゃないんだから、そんなに乱暴に洗うな!」
と怒鳴ったんだが、ヤツらは無視しやがった。
泡だらけの身体に、頭から湯を「ザバァッ」と勢いよくかけられる。
「おやまぁ、見違えたね。
きれいな白い肌じゃないか。
シミだらけだと思ったのは、泥汚れだったんだ」
「人形みたいに可愛らしいじゃないか。
きっとこの服が似合うよ」
「やめろ!
元の服を着たい」
俺の要望は無視されて、新しい衣類を着せられた。
使用人たちは、テキパキと俺の髪の毛を乾かし、櫛でとかし始めた。
俺は脱ぎ捨てた自分の元の服のポケットから、アリッサの赤いリボンだけ、なんとか取り出す。
大蛇を殺すためのナイフはどこにも無かった。
「おい!ナイフはどこに行った」
「そんなもの、何に使うのよ」
使用人の一人が呆れた顔で言う。
「いるんだ。俺のお守りなんだ」
「女のくせに、その言葉づかいはやめなさい」
ピシャリと注意される。
(くそ、こんなヒラヒラした服では戦いにくいな。
おまけにナイフも失った)
もう大蛇に自分の正体がバレるのは、確実だった。
俺はもうすぐ、死ぬだろう。
だが、大蛇に少しでもダメージを与えて死を迎えたかった。
歯でヤツの喉もとに噛みつくか。
あるいは、指でヤツの目玉をえぐり出す。
そのどちらか......できれば両方だな。
ミナの体は力が全然無いけど、体重が軽いぶん素早さがあった。
素早く、やつに飛びかかり、まずは目玉をえぐり出すんだ......。
自分の手をじっと見る。
爪を伸ばしておいてよかった。
そんなことを、ものすごい形相で考えていると、視界の隅にモリィの姿が見えた。
「モリィ!!」
俺が思わず叫ぶと、使用人たちがギョッとして俺のことを見る。
「なんなんだ、お前は。
器量はいいのに、言葉づかいは男みたいで、独り言が多い」
と呆れている。
「北の塔で働いているから、狂人になりかけているのかもしれない」
などと話し合っている。
モリィは人間たちに気づかれないように、天井の隅の梁の裏に隠れている。
そして真剣な目でこちらを見ていた。
「トイレに行きたい!!」
俺は立ち上がると叫んだ。
「すぐに済ますんだよ。
もう時間がない」
使用人の一人がしかめっ面で答えた。
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狭いトイレの個室に入る。
さっそくモリィが飛んできて、俺の肩に止まると喋りだした。
「ご主人様、時間がかかり申し訳ございません。
これが、ご所望の薬草です」
モリィから小さな葉っぱがたくさん入った小袋を取り出す。
「モリィ助かったよ。
......どれくらい食べれば効果が出るのかな」
「すみません、わからないです。
薬草に詳しい老婆が旅に出て不在だったんです。
それで薬草探しにも手間取ってしまって」
「最果ての地、ヴァルーカの有名な薬草店アッサマーにも取り扱いがないし。
湿地帯にも砂漠にも生えて無くて。
でも結局、モリィの故郷の隣の森に生えていたんです!」
「.....なんだか大変だったんだな。
すまない」
外からコンコンとドアをノックする音がした。
「おい、いつまで用を足してるんだい?
時間がないんだ、早くしろ」
「クソしてんだ!
黙って待っとけ」
俺は外に向かって怒鳴った。
「モリィとにかくありがとう」
俺はそう言うと、小袋から葉っぱを鷲づかみにしてムシャムシャと食べた。
どれくらい食べれば効果が出るのかわからないので、多めに食べることにしたのだった。




