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【レン(ミナ)】


モリィに「記憶をなくす薬草」を見つけられるか聞いてみた。


「人間たちの間ではドレスタンという名称で呼ばれている薬草だ」

懐から金貨を一枚だすと、モリィに渡した。

「ドレスタンは市場などで売られているかもしれないから、念のため金を持っていけ」


「モリィの育った村に薬草に詳しい老婆がいるんです。

彼女に聞けば一発で見つかると思います!」

モリィは嬉しそうにパタパタと俺の周りを飛び回っている。


「無理はするなよ。

モリィの安全が一番大事だから。

危険だと思ったら手ぶらでいいからすぐに帰って来い」

俺はモリィのふわふわの巻き毛をちょんとつついた。


モリィは目を細めて

「大丈夫でございます。

ただ2~3日留守にするかもしれないので......

塔のお掃除の方は大丈夫でしょうか」

と言った。


「モリィがいない間は俺がやるよ。

なんとかなる」


------------------------


馬小屋の隅っこで、寝支度を始めていると


「ミナ、いるかー?」


ディルの声がした。

夜になると相変わらずやって来る。


「いるよ。

もう大丈夫だから、ディルは自分の部屋で寝ろよ」


そう言う俺の言葉を無視して、やつは俺の隣に座る。


「食べ物持ってきたぞ」

「晩メシならさっき食ってきた」

俺は首を傾げてディルを見る。


「ほら」

ディルは、紙に包まれたサンドイッチを俺の手に押し付けた。

みると、パンの間には立派な肉が挟まれている。


「えっ。すごい肉じゃないか。

副隊長にもなると、こんな良いものが食えるのか」

俺は、目を丸くした。

俺の晩メシは向こうが透けるくらい薄い肉と、これまた小指の先くらいの小さなチーズだった。


「食べろよ」

「いいのか?」

俺はむしゃむしゃとサンドイッチにかぶりついた。

久々に食べる分厚い肉に体が喜んでいる。


「まて。ついてる」

ディルはそう言うと、俺の口の脇についている食べかすを指で取ってくれた。

ヤツはそれをなめる。


「うまかった。ありがとうディル」

「よかった」

ディルは笑うと、俺の頭をなでた。


「それはそうと。

噂に聞いたんだ。

ミナが領主に会うことになったって。

......ほんとなのか?」

ディルが小さな声で俺に聞く。

「ほんとだ」


「......心配だな。

俺は......いままでミナに言わなかったと思うんだけど。

もともとタダールの兵士じゃないんだ。

ベルナルド家で働いてた」


「......」

俺はだまってうなずいた。


「ここだけの話だが......俺はパトリック・ベルナルドさまに忠誠を誓った。

まだその気持は変わっていないんだ」


ディルの言葉を聞いて、俺はびっくりして顔を上げた。

「そうなのか!?」


「そうだよ。

生き延びるためにタダールの兵士になったけど。

パトリック様には恩義を感じてる。

俺を貧困の村から救ってくれたんだ。

北の塔に幽閉されたパトリック様が、今どうなさっているのか、とても気がかりだ」


「......なぜ、それを早く言わないんだ」


俺は呆れた。

早く話してくれれば、自分の正体が「レン・ウォーカー」であることを言ったし、一緒に反乱の計画を立てたのに。


「だって、いきなりそんなこと......打ち明けられたってミナが困るだけだと思ったし。

でもミナが領主のヤツに呼ばれたって聞いて、不安になったんだ」


「......不安?」

キョトンとして、ディルの顔をみつめると、ヤツはサッと俺にキスをした。

「おい!不意打ちはやめろ」

俺はのけぞった。


「不安なんだ。

もしもミナが、領主の愛人にでもなったらどうしようかと。

俺は耐えられない。

たった一人だけど、反乱を起こすかもしれない」


「愛人になんかならない。

ヤツに嫌われるようにするから大丈夫だ」

俺はディルにそう言った。

なるべく汚らしくして、地下牢の悪臭でも体にこすりつけて、城に行くつもりだった。


それにしてもディルの忠誠心がまだベルナルドに残っていたとは。

もっと早く、そのことが分かっていれば......。


いまさら「俺は実はレン・ウォーカーなんだ」とディルに伝えても逆効果だろう。

なぜ黙っていた!?とヤツは怒り出すに違いない。

キスをしてしまったのが大きい。


ディルを怒らせてしまったら、力を貸してくれなくなるかもしれない。

最後まで......俺の正体は隠し通したほうが無難だろう。


だがこれは大きな朗報だった。

ディルという味方が手に入ったのだ。

ディルがこちら側にいることは、反乱に有利に働くはずだ。



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