誕生日パーティ
大広間のテーブルには、果物や肉料理、魚料理などが豊富に並べられている。
近隣や遠方からもたくさんの貴族が駆けつけて、にぎわいを見せていた。
あたしは、そんな大広間の様子をドアの影から覗いていた。
(嫌だな。気が重い)
「さぁ、皆さんお待ちかねです。
広間に入って」
ヘレンがあたしの背中をそっと押す。
仕方なく大広間に一歩足を踏み入れた。
それまで談笑していた貴族たちがシンと静まり返って、一斉にこちらを見る。
この注目を浴びる瞬間が、心の底から嫌だった。
(あたしなんかのために、集まらなくていいのに)
「お美しい」
「すっかりレディになられて」
そんな、お世辞があちこちから聞こえてくる。
ベルナルド家は北部一帯を支配する、有力な貴族だ。
その恩恵に預かろうとして媚びへつらうもの、あるいはベルナルド家をつぶそうと虎視眈々と狙うものたち。
そんな思惑が大広間中に渦巻いているようで、息苦しくなる。
「美しい」
「おきれいだ」
どの言葉も、心のからの褒め言葉に聞こえなかった。
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誕生パーティは滞りなく行われていた。
大広間のテーブルにプレゼントが山のように積まれ、みな口々に祝いの言葉を口にする。
あたしは、笑顔でそれに答えていた。
「アリッサさま。
窓際の隅にいらっしゃる金髪のかたが、エヴァン公爵様の次男のユージンさまでございます」
ヘレンがあたしに耳打ちする。
「それから、肖像画を見ておられる男性。
あの方は、南部の大地主シュタイン家の長男、ケントさま。
それから」
「もういいわ。
どうせ聞いても覚えきれない」
「こちらに近づいていらっしゃる。
あの銀髪の方は、タダール城に仕える神官さまだそうですよ。
名前は......たしか」
ヘレンは、あたしの言葉にかまわず話し続けた。
銀髪の男があたしに手を差し伸べた。
「おめでとうございます。
アリッサさま。
タダール城で神官を務めさせていただいておりますフィリップ・フォン・トリノと申します」
神官の手をとり、腰をかがめて挨拶をする。
「.....っ......」
彼の手は驚くほど冷たかった。
「どうなさいました。
......あぁ、私の手が冷たくて驚かれたんですね?
生まれつき体温が低いようなのです」
神官は、笑みを浮かべるとあたしの顔をじっと見つめている。
そのとき、大広間から見える窓の外に、屋敷を守る兵士たちが集まってきているのが見えた。
「不審者だ!!」
「お前は招待されていない。帰れ」
そんな声が聞こえる。
「ん......?なんだ?
なにが起きてる?」
招待客たちは窓の外をのぞき込んだ。
兵士たちを束ねる隊長であるシュウが「窓に近づかないで」と招待客たちを止める。
あたしも、窓の外に視線をむけた。
外の様子を見て、ぎょっとする。
そこには、レンが......レン・ウォーカーがいたのだ。
レンは、うちの屋敷を守る兵士たちに囲まれていた。
「まって!!」
あたしは、窓から顔を出した。
「お嬢さま、窓に近づくと危険です!!」
あわててシュウがあたしの方に駆け寄ってくる。
「やめて、レンは敵じゃない。
レン!!」
大声で彼のことを呼ぶと、レンは二階にいるあたしを見上げた。
「アリッサ」
レンはあたしをみると、懐かしい笑顔を見せてくれた。