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【レン(ミナ)】


「あたしには......愛している人がいるの......」


アリッサは恥ずかしそうに俺にそう打ち明けた。


「愛してる人」って、一体誰なんだろう。

タダール城で知り合った男だろうか。

それとも、もっと前から好きな男がいたんだろうか。


俺はアリッサのこと、自分の娘のように思って愛してるつもりでいた。

だから彼女に好きな男が出来たって、別に構わない。

そりゃ、心配ではあるけれど、彼女が恋するのは自由だ。

そう思っていたはずなのに。


......すごく嫌だ。

アリッサの心が、だれか見知らぬ男のものになっているなんて。

......そんなの嫌だった。


それにもちろん彼女が大蛇にしょっちゅうキスされたり、触られたりしてるっていうのもすごく嫌なんだけど。


アリッサのことを考えると、胸が苦しくなってツラくなる。


俺はいつからこんなに感情的になったんだ。

大蛇に魔力を奪われて、人間になってから......少しずつ変わってしまった気がする。


魔法使いだった頃から、気が短くてケンカっ早い部分もあったけど。

基本的にもっと視野が広くて、感情が大きく動くこともあまり無かった。


だが人間になってからは、寿命が縮んだせいなのか「不安」を感じることも増えた。

将来に対する不安、闇の森がいつまで守れるのかという不安、愛する人を失うかもしれないという不安。

人間がこんなに不安に付きまとわられる生き物だなんて思わなかった。


「愛」だの「恋」だのも、一時的な感情だと分かっていたので、人を本気で好きになることもなかった。

一夜限りの関係や、その場だけの付き合いしかしたことがなかった。


それなのに、俺はアリッサを愛し始めている。

いや。

最初から、愛していたんだと思う。

娘のように思っている......なんていうのは、自分に対する誤魔化しだった。

人間に恋するワケがないという、逃げだったんだ。


もう誤魔化しようがない。

俺はアリッサを愛している。

それも女として。


それは明らかな事実だった。


-----------------------


北の塔の厨房。

俺は、懐からそっとモルタナを数枚取り出した。


(今日は、モルタナの量をもう少し減らそう。

あとでウィリアム侯爵の様子も、チェックしないと。

モルタナの量を減らし始めて数日は、かなりツラそうな様子だった。

しかしここのところ、だいぶ落ち着いてきた。

反乱を起こす際には、公爵の力がなんとしても必要なんだ......)


そんなことを思いながら、モルタナとモルデンを混在させ、包丁で刻む。


「あぁっ!!大変だ」

そのとき、ザワザワと使用人や兵士たちのざわめきが起きた。

北の塔の入口あたりが、何やら騒がしい。


「おいでになるとは思っておらず......」

マーガレットの慌てた声が聞こえる。


(なんなんだ)

俺は嫌な予感がして、そっと厨房の入口から外をのぞいた。


そこには、大蛇......フィリップがいたのだ。


(まずい!!ヤツだ)


銀髪に真っ青な瞳。

白い肌。

風貌は20代後半だが、もっと年寄りじみたオーラを感じさせる。


あいつが......あの手でアリッサのことを弄んでいるのか。

俺は怒りに震えた。


(あの包丁で......あいつをグサッと)

モルタナを刻んでいた包丁に視線を送る。


しかし大蛇の周囲には、7人の兵士が前後に守りを固めている。

それにヤツは人の心が読める。

自分に殺意を持ったものが近づけば、すぐに感じ取ることが出来るだろう。


「領主さま、このようなむさ苦しいところへ何か、ご用事で......?」

マーガレットが大蛇の足元にひざまずいて、震える声で尋ねている。


次に、大蛇が発した言葉を聞いて、俺は凍りついた。


「ここにミナ......と言う名前の使用人はいるか?

どうやら、アリッサが世話になっているようなのだ」


「ミナでございますか!?

おります!!

今呼んで参ります」

マーガレットが叫ぶように返事をした。

「うむ。頼む」

大蛇が大きくうなずいた。


(やばい。

逃げるしか無い)


いま大蛇と対峙すれば、自分の考えを読まれるのは間違いなかった。


俺が......ミナ・マルケスの正体が、レン・ウォーカーだとバレてしまう。

その場から逃げ出すつもりで、急いで厨房の裏口へと走った。




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