【レン(ミナ)】
ディルにベッドに押し倒され、手足を押さえつけられる。
ジタバタと暴れたが、両手首を握られ、やつの全体重が俺の上にのしかかっていた。
(くそ。身動きできない。
.......あきらめるしかない。
約束したんだし、仕方ないのか)
観念して暴れるのを止めた。
俺がじっと動かなくなると、ディルはフッと笑った。
「ミナが高級娼婦として、あの金を稼いだんだろうって......。
あの行商人はそんなこと言ってたけど、そうは思えないな。
何人もの男を相手にしてきたようには見えない」
ディルをにらみつける。
「あたり前だ!
女が金を持っていると.......売春で稼いだんだろうっていう風に思うのは、失礼極まりないぞ」
「だから俺はそうは思ってないって。
だってミナは、怯えてる。
娼婦はこんなふうにされるの、慣れてるはずなのに」
そういうと俺の首にキスをした。
首に巻かれているアリッサにもらったリボンがほどけかかっている。
「怖がらなくていい。
キスするだけだから」
「怖がってなんかない」
ヤツをにらみつけた。
だが実のところディルの言う通りだった。
思い通りに力が出ない弱々しい身体。
短い手足。
男との圧倒的な力の差を見せつけられて、俺はいつになく恐怖を感じていた。
痛い思いするのが怖くて仕方がなかった。
普段のレン・ウォーカーであれば、喧嘩も殴り合いもむしろ望んですることさえあったのに。
心まで女に変化したのか。
女の心は、けっして弱い訳じゃない。
だが男よりも攻撃性がなくて、穏やかだった。
「ミナのこと、もっと知りたい」
ディルは俺の手を握って口元に持っていくとキスをした。
「知らないほうがお前のためだ」
俺が男で、レン・ウォーカーであることを知らないほうが、ディルは幸せだろう。
「俺はお前が思ってるような女じゃないし、中身はひどいぞ。
俺の本性を知ったら、ディルは幻滅して......あっ」
ディルは突然、俺の唇にキスをした。
ふわっと柔らかいものに自分の唇がつつまれる。
そっと唇を離すと、ディルは俺の表情をじっとみつめた。
そしてまた、顔を近づけてきてキスをする。
今度は舌をいれてきやがった。
「んっ......デ、ディル。
もういいだろう?キスはした......終わりだ」
起き上がろうとしたのに、ディルが逃さないように体重をかけてくる。
自分の腹筋の無さに情けなくなってくる。
「ダメだ。
キスの回数は一回だけとは言わなかったはずだ」
ディルはニヤリと笑うと、今度は頬にキスをした。
「ずるいぞ」
抗議の声に構わず、ヤツは首や耳にキスを浴びせる。
ふたたび唇にもキスをされた。
「もうやめるんだ」
ディルが俺のこと......ミナのことが好きでたまらないというのが伝わってきた。
ひととおりキスに満足したのかディルはゴロンと転がって、今度は俺を後ろから抱きしめた。
ギュッとしめつけられ、うなじにキスされる。
「ずっとこうしてたい」
ディルはそう言うと、俺の髪を撫でた。
(好き勝手されてしまった......。
だが、キス以上のことはしてこないみたいだ。
良かった.......)
俺は小さくため息を付いた。




