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【レン(ミナ)】


ディルはモルタナを売りに来る行商人の拉致、監禁に成功した。


ヤツは行商人をうまく誘い出し、気を失わせ、地下牢に運んだのだった。

ディルに頼んで良かった。

俺一人では女体化していることもあって、とても無理だったと思う。


行商人を、拉致し閉じ込めたのは薄暗い地下牢獄。

盗みや脱走など犯罪を起こした人間を入れておく場所だった。


壁際には手枷、足かせ。

隅っこに大きなバケツが置いてあり、そこからひどい異臭がした。

中に汚物がこびりついているのかもしれない。


今はどの牢も空いていて誰も収監されていなかった。

フィリップのことが怖くて、誰も犯罪をおかす勇気などないのだろう。


----------------------------


「えっ?

お前が、モルタナをすべて買い取るだと?」

「そうだ。

金なら払うから、半年分のモルタナを全てよこすんだ」


俺と行商人との交渉が始まった。

俺は石の冷たいテーブル越しに行商人の顔をじろりと睨んだ。


行商人は俺とは目を合わせず、ディルのほうばかりをチラチラと気にしている。

俺のことを、若い女だと思ってバカにしているのが見え見えだ。


デップリと太っていて、狡猾そうな目をした男だった。


----------------------------


「モルタナはここの領主さまの言いつけで納品してるんだ。

特別な契約だ。

それを破ることはできんよ」

行商人はそっぽをむいたまま、低い声でそう言った。


(やっぱり、フィリップが裏で手を引いていたのか。

当然と言えば、当然だが......)


「......倍の金額を出すと言ったら?」

俺がそう言うと、行商人はようやく俺の目をじっと見た。


「......ハッ。お前のような小娘に出せる金額じゃない」

行商人は、吐き捨てるように言った。


「領主と結んだ契約の金額を言ってみろ」

俺は畳み掛けるように問いかける。


「金貨5枚だ」

行商人がそう言うと、それまで、黙って突っ立っていたディルが口を挟んだ。

「嘘をつけ。

ただの食材にそんな金......ありえねーだろ」


「バカが。モルタナはただの草じゃねぇんだよ!!」

ヤツはディルに向かって喚き散らした。


「......領主との契約は、金貨5枚と言ったな?

ならば、こちらは金貨10枚だそう」

「な、なにっ!?

そんなの無理に決まってる」

行商人は目を見開く。


俺は懐から革袋を取り出すと、石のテーブルの上に10枚の金貨を積み上げた。


「さぁ......どうする?」


薄暗い牢獄に燦然と輝く積み上げられた金貨。

行商人は目を見開くと、ガタッと大きな音を出して椅子から立ち上がった。


ディルも驚愕の表情を浮かべている。


「こんな金.......。

お前は、一体何者なんだ」

行商人は信じられないという表情で俺を見た。


アリッサから預かったネックレスを使うつもりはなかった。


あのルタナイトのネックレスは彼女が肌見放さず身につけていたものだった。

母親から譲り受けたものだと言っていた。


アリッサの大事な宝物に手を付けなくても、俺には十分な資金がある。


100年以上生き続ける中で、数々の財宝を手に入れてきたし、貴族やエルフ、ゴブリンなど別の種族との取り引きも数多くこなしてきた。


金なら使い切れないほどある。

まだ闇の森に財産をたくさん残してきていた。


「し、信じられない。

本物だろうな。

こう見えて俺は修羅場を幾度となく抜けてきた商人だ。

偽の金貨はすぐに分かる」


商人は金貨を一枚一枚、慎重に調べた。


「ほ......本物......本物のようだ。

一体どうして、お前のような小娘が」


「さぁ、どうする?

金貨10枚......一生遊んで暮らせる金だぞ?」


行商人の手から金貨をひったくると、俺は10枚の金貨を自分の方にたぐり寄せた。


「......いいだろう。

あと、あんたが欲しい」

ヤツは、俺の胸のあたりと、顔をじっと見つめると、そう言った。

男が俺によく向けてくる視線だった。


「......どういう意味だ」

「あんたのようなべっぴんさんは、見たことねえ。

その金は、高級娼婦として稼いだんだな?

かなりの金持ちを相手にしてきたんだろう?

俺にもそのテクニックを味あわせてくれよ......ヒヒヒ」


いやらしい目で俺をじっと見てくる。


「この野郎!!

殺してやる」

ディルが行商人に殴りかかろうとした。


「やめろ!ディル」

俺は椅子から立ち上がると叫んだ。


「金貨10枚だけだ。お前とは寝ない。

あともうひとつ条件がある」


ディルは行商人の首を絞め上げながら、こちらに視線を向ける。

行商人も俺の方をみた。


「お前は、モルタナの代わりに、無害なモルデンを城に供給するんだ。

モルデンは知ってるな?」


「ゴホッ!!」

行商人はディルに首を絞められて、むせ返っている。


「ディル、そいつを離してやるんだ」

「チッ!!クソ野郎が」

ディルはそう言うと男を突き放して、椅子に座らせた。


「ゴホッ、ゴホン!!

モ、モルデンだな?

あぁ......知ってるよ。

モルタナによく似てる、無害の薬草だ」


「そうだ。

今後は、引き続きモルタナの代わりに、モルデンを城に供給すること。

できるか?」


「あんたのことは?

あんたと寝たい」


「ダメだ。それは出来ない」

俺はきっぱりと断った。


だが行商人がどうしても首を縦に振らないのなら......覚悟はできていた。


アリッサのためだ。

彼女のためなら、俺は何だってできる。


しばらく沈黙した後、行商人は

「フン、分かったよ。

金貨11枚なら、取引してやる」

とため息まじりに言ったので、俺は心底ホッとした。


「モルデンは?用意できるのか?」

行商人はうなずいた。


「モルデンなら、隣町に売るつもりでちょうど荷馬車に積んであるんだ。

モルタナも荷馬車に積んである分、全部今持ってくる。

半年分くらいはあるはずだ」


「取引成立だな」

俺はそう言うと、金貨をもう一枚、懐から出して見せた。


行商人が金貨に手を伸す。


「おっと。ブツを見てからだ

ブツと引き換えにカネを渡す」

俺は素早く、11枚の金貨をすべて革袋にしまった。


「フン......お前、何者だよ。

とても20歳そこそこの小娘と思えねえな」

行商人が、ボヤいた。



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