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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
大蛇をさがして
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5年後のアリッサ


「お嬢さま。とてもお美しいです!」


ヘレンが鏡に映るあたしをみて微笑む。

気を使ってお世辞を言うこと無いのに。


「ほんとに?派手じゃない?」

クルクルと身体を回転させてみる。


髪にはたくさんの宝石やリボン、ふんだんにあしらわれたレースのドレス。

どれも自分には不釣り合いな気がして仕方がなかった。


「とんでもない。

お誕生日のお披露目パーティだと言うのに地味なくらいです」


今日はあたしの18歳の誕生パーティだった。

屋敷には多くの招待客が集まってきている。


ほんとは誕生日パーティなんて嫌でたまらなかった。

目立つことが嫌い。

それに知らない人と喋るのも苦手。


一人で静かに本を読む。

それが唯一の私の楽しみだった。


「ねぇ。やっぱり行きたくないな。

休んじゃダメ?」

あたしは、暗い声でヘレンに聞いた。


「ダメに決まってるでしょう。

アリッサお嬢さま。

今日は、あなたの花婿候補も何人か来られます」


「は、花婿!?」

あたしは頭の中がパニックになった。

「そんなの聞いてない!!」


「しまった......」

ヘレンは口を抑えて慌てている。

「このことは内緒だったんです。

言うと、お嬢様がパーティへの出席を嫌がるから」


「嫌だわ。結婚なんてしたくない......」

「みなさん、素敵な方ばかりです。

楽しくおしゃべりするだけで良いんですよ」


その「おしゃべり」が苦手で気が重いのに。

あたしはため息を付いた。


子どもの頃に戻りたい。

大人になんてなりたくない。


なんの責任もなくって、野山を駆け回っていたころ。

ためいきをつきながら窓の外を眺めた。


きれいに手入れされた庭園が見える。

噴水から水しぶきが上がっている。


庭園の向こうに目をやる。

遠くには山々が見え、濃い緑が目に入ってきた。


(深い森のなか......あたしはさまよい歩いたことがある......)


5年前。

あたしは、闇の森をさまよい歩いた。

そこで、魔法使いのレンに助けられたんだ。


半年間くらいだったのかな。

二人で楽しく暮らしたんだ。


「冷酷だ」と、世間でおそれられていたレンは、今思えばとても優しかった。

よく笑うし、怒ってるところなんか見たことが無かった。


毎日、彼とパンを焼いたり野山を散歩したりして過ごしたんだっけ。

屋敷にはたくさんの書物もあって、一緒に本を読むことも多かった。


あのときが人生で一番幸せだったのかも。


-------------------------


タダール城へ向かう途中、とつぜん姿を消したあたしを、両親は必死で探してくれた。

だけど、1週間、2週間たっても見つからない。

やがて両親はあきらめはじめた。


半年後くらいに、フラリと戻ってきたあたしに、両親は大喜びしていた。


「闇の森の......魔法使いのレンに助けてもらったんだよ」

あたしがそう言うと、ふたりはビックリしていた。


「まさか......火の魔法使いがそんなこと......ほんとに?人違いじゃないの?」

母はそう言って眉をひそめていたんだっけ。


さっそく両親はレンのもとへ使いをよこし食べ物など御礼の品を送った。

しかし使いの者の話によると、レンは、闇の森から姿を消していたという。


「俺には、やらなければいけないことがあるんだ」


別れ際、レンはそんなことを言っていたけど.....彼はどこに行ってしまったのだろう。


(もう一度、会いたいな)

あたしは、ドレスの内側からそっと小さな巾着を出した。

そのなかには、ひからびたトカゲが入っている。

(レン。どこにいるの......)


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