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【レン(ミナ)】


「あいつは......領主は、城内にいるのか?」


俺は城の内部へと足を踏み入れた。

北の塔と負けず劣らず、城本体の方も、邪悪な気が流れていた。


「領主......?

フィリップのことね?

彼は留守よ。

さ、お風呂はこっち」


大蛇が不在だと聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。

もしも大蛇に遭遇したら、俺の正体が「レン・ウォーカー」だとバレる可能性が高い。


ヤツは心が読めるのだ。


だから、たとえ女の身に変身したとしても、ヤツに接近するのは危険だ。

暗殺の際は、素早く行う必要がある。


.....,,計画を慎重に練らなければ。

失敗は許されない。


------------------


アリッサに手を引かれ城の内部にある風呂場へと連れて行かれた。


タイル張りの広い部屋。

円柱の柱が天井までいくつも伸びている。


中央に湯をたたえた円形の穴がある。

そこから、もうもうとした湯気が出ていた。


「これは温泉よ。

いつでも温かいの」


俺はアリッサの手を強く引いた。

「アリッサ。

一緒に入るのはやめよう?

身体くらい、一人で洗えるから」

必死にアリッサに訴える。


「え?だめよ。

女同士なのだし、いいでしょう」


「よくない」

「ミナを洗ってあげたいの」


「自分で洗うから!」

ちょっと強い口調で言ってしまった。

アリッサは少しショックを受けたような顔をした。

「ごめんなさい。

そうよね......。あたし、図々しかった」


「いいんだ。

と、とにかく身体をキレイにしてくる」


俺はアリッサに背を向けると、服をササッと脱いだ。


-----------------------


女体に変化している自分の身体はどこもかしこも柔らかくて、肌が白かった。

だが、あちこちにアザや擦り傷がある。


(あぁ......風呂にのんびり浸かるなんて、久しぶりだな)

俺は、気持ちよさにため息を付いた。


ザブン!


背後で湯が揺れてびっくりして振り返る。


振り向くと全裸のアリッサが湯に足をつけていた。

「やっぱりあたしも入るわ」


「ア、ア、アリッサ」

俺は慌てて目を逸らした。


「この石鹸はとてもいい香りなのよ」

アリッサはそういうと泡立てた石鹸を俺の背中にこすりつけた。

「まて。自分でできるから」

「背中まで、手は届かないでしょう」


アリッサの胸が俺の背中にあたった。

「アリッサ、もう少し離れろ」

「そんなに恥ずかしがること無いのに。

あたしは幼い頃から、侍女に身体を洗ってもらっていたから、慣れてるのよ」


「こっちは、慣れてない!」


「ふふふ。ほら、両腕をあげて」

脇の下に石鹸をつけられる。


「髪の毛も洗いましょうね」


俺はなるべくアリッサの体を見ないように天井ばかりを見つめていた。

だが、どうしても目に入る。

アリッサの柔らかそうな身体。

細い腰。

ピンク色に上気した頬。


(信じられない。

俺は欲情してる。

俺はアリッサのこと......)


女の身体に変化していてよかった。

この身体なら自分がアリッサに欲情していることが、彼女にバレない。


キレイに身体を洗ってもらい、お湯に浸かった。

アリッサも俺にぴったり寄り添うように、湯船に浸かる。


「ミナ。とても楽しいわ。

あたしは誰かの世話を焼くのが昔から好きなの」

「すっかり世話を焼かれたよ」

俺はため息を付いた。


「......その......」

俺は思い切ってアリッサに聞いてみた。

「領主のやつに......嫌なことされてないか」


アリッサは黙って俺の顔を見つめた。

「いや、噂で聞いたんだ。

アリッサは領主のこと、嫌ってるって......だから」


「ミナは?

フィリップのこと、どう思ってる?」

アリッサは、俺の耳元で小さな声で囁いた。


「正直......滅んでしまえばいいと思っている」

俺がそう言うと、アリッサは目を光らせた。

「本気なの?

使用人たちはみな、怯えてばかり。

反乱しようとするものは、誰もいないのに」


「......ミナは......あたしの味方だと思っていいの?」

俺はアリッサの手を思わずにぎった。


「俺は領主の失墜を望んでいる。

アリッサもそう考えるなら、俺たちは仲間だ」

アリッサはぎゅっと手を握り返してきた。


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