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【ディル】


(いつかきっと、スキを見て反乱を起こしてやる。

ダタール城もあの神官も、ぶっつぶしてやる)


訓練をひととおり終え、休憩時間のこと。

俺は干し草のうえに寝転がって一休みしていた。


ベルナルドの領地から捕虜として、このダタール城に連行された。

あれから、もう半月くらいが経つんだろうか。


ベルナルドに長く仕えているものは、忠誠心が芽生えており、反乱分子となる可能性がある。

だから、古参の兵士......5年以上、ベルナルドに使えていた兵士や使用人、侍従はみな、クビを切り落とされた。


シュウ隊長も、殺されてしまった。


俺は幸い、ベルナルド家に雇われてまだ1年と日が浅かった。


「金さえもらえるんなら、雇い主なんて関係ねぇよ。

ベルナルドでもどこでも良い」

そう言い切ることで、なんとか首がつながった。


......だが......。

それは真っ赤な嘘だった。


貧しい農家の6人兄弟の末っ子。

食べ物が十分に無く、俺は野草や、牛のエサをもらって育ってきた。


そんな俺をすくい上げてくれた恩人。

領主のパトリック・ベルナルドさま。

俺は、彼を裏切るわけがない。


農村の視察に領主様が訪れたとき、やせ細った俺に向かって

「うちの兵士にならないか」

と言ってくれたのは、領主様だった。


ほかの兵士や侍従は

「あんな痩せっぽちのチビ、役に立ちませんよ」

と言い張った。

だが領主様は、

「彼の身のさばき方、歩き方から分かる。

鍛えれば立派な戦士になる」

そう言ったんだ。


俺は、それまで家でも村でも虐げられてバカにされてきた。

それでも喧嘩にだけは負けたくなくて、毎日自分を鍛えていた。

チビで痩せてるけど、誰にも負けたくない。


ナメられれば命を落とす。

そんな環境で育ってきた。


領主様にはそれが分かったんだ。

俺は領主様に救われた。

地べたを這いつくばるような、ヘドロのような生活から、領主様は俺をすくい上げてくれた。


ベルナルド家の兵士になってから、俺は死にものぐるいで訓練した。

1対1の試合では誰にも負けたことがなかった。


あやうく負けそうになった相手が、一人だけいたけど......。

脳裏に、火の魔法使いの姿が浮かぶ。


でもあいつとは、「引き分け」だったんだよな。


レン・ウォーカー。

あいつは、土の魔女の家で大勢の兵士と戦ってた。


俺も、檻から飛び出して、一緒に戦ってやりたかった。


あいつ......生きてるだろうか。

生きてると良いんだけど。

あいつともっと話してみたかったな。


「ガサッ」

そのとき俺は、物音と視線に気づいた。


そっと腰の短剣に手を伸ばした。

この城では、「元ベルナルド家」の兵士は寝首をかかれることも多い。

安心できる場所なんて、この城には無かった。


(......女......?)

俺が寝転がっていた干し草の背後に、女がひとり立っていた。

さっきの物音と視線はこの女のものだろう。


俺は思わず女の容姿にじっと魅入ってしまう。


つややかな長い黒髪に、漆黒の目。

真っ赤な唇に透き通る白い肌。

それに、華奢で柔らかそうな身体。


俺はその女から、目が離せなくなった。


恋に落ちた瞬間だった。


「ディルじゃないか......」

驚いたことに、女は俺の名を呼んだ。


「お前は誰なんだ。

なぜ、俺の名前を知ってる」


「俺はレン......じゃない、ちがう、ちがう、あたしは、ミナ。

今日からここで、下女として働くことになった」


「ミナ?......ふぅん」

俺は干し草から立ち上がると、ミナのほうへと近づいた。


「なんだ?」

ミナは少し後ずさって俺から離れようとした。


近くで見ると、なおさら可愛らしい女だった。

大きな真っ黒の瞳で、不安そうに俺を見ている。


「そ、その、ディルの名前は、他の兵士から聞いた。

金髪頭のディルってやつがいるって」

女は懸命に言い訳してる。


「お前......可愛いな」

俺は、女の髪にさわろうと手を伸ばす。


「触んな!」

女は触ろうとした俺の手を素早くキャッチする。

そして俺の手首をねじり上げた。


「......って!!なにしやがる」

格闘技の心得がある女なのだろうか。


「変な気起こすと、キンタマ蹴り上げてやるよ」

そんなことをいう。


「へぇ.......。

俺は強い女が好きなんだ」

「ディルのような、強引な男は大抵の女は嫌がるぞ」


ミナはそんなことをブツブツ言いながら、俺に背を向けた。


「また会おう、ミナ」

俺はミナの背中に、大きな声で言った。



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