【レン】
見世物小屋の隣のバーで、俺はリアムのことを待った。
(遅いな......)
イライラとカウンターを指でたたく。
あいつは今、このバーの二階の自室で、誰かに身体を売っているんだろう。
ショーのあとは、そう言う流れになっていると前に言っていた。
(相変わらず自堕落な生活を送ってやがる)
リアムがいるであろう2階のほうから大きな声が聞こえる。
「この変態。
そういうサービスはしてねえんだよ」
リアムの叫び声だ。
「そのぶんの金は払ったはずだ!ケチくせえこと言うな」
男の声。
(なにやってんだ?)
俺はカウンターのスツールから立ち上がると、二階への階段を駆け上がる。
すると部屋のドアの前で男とリアムが言い合いになっているのが見えた。
リアムが俺の視線に気づく。
「あっ、レン。
こいつ追い払うからもうちょっと待ってろ」
「追い払うだと?
馬鹿にするな!
貧困層のエルフのくせに」
男はそう言うと、リアムに手を挙げる。
俺はその手首を背後からつかんだ。
「なにすんだ!
てめえ、やろうってのか」
男が首を後ろに向けて、俺をにらみつける。
こめかみから首にかけて「ノーザンスカイ」のグループメンバーであることを表す入れ墨。
この男を打ちのめせば、たちまちノーザンスカイの連中がわんさか押し寄せて大騒動になるだろう。
俺には時間がない。
コトを荒立てたくなかった。
「帰れ。女が嫌がってんだ」
凄みを利かせて睨みつけ、手首を強く握る。
男は俺の勢いに少し怯えたような顔をし、
「......なら金返せ」
と言い出した。
「リアム、金を出すんだ」
「いやだよ!一度もらったもんだ」
リアムがそっぽをむく。
ため息を付く。
「......いくらだ」
男は俺の顔をにらみつけ
「銀貨5枚だ」
という。
(仕方ない)
ふところの革袋から金をだして男に渡す。
「このクソアマ。
二度と来ねえ」
「こっちこそ、お前なんかお断りだよ」
そんなやりとりを一通り終えたところで、男はようやく立ち去った。
リアムが俺の方を見る。
「悪いねえ、金を払ってもらっちまった」
口ではそう言うが、ニヤニヤ笑っている。
きっと少しも悪いと思っていないだろう。
「ここで立ち話もなんだから、部屋に入ろうぜ」
リアムはそう言うと、自分の部屋の扉を開けた。
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ベッドと机だけの簡素な部屋。
ストリップショーと売春で稼いでも、この生活から抜け出せない。
リアムには、ギャンブル癖があった。
だから稼いでも稼いでも、貧困層から抜け出せない。
「あの変態男、首を絞めたいっていうからさ。
そういうプレイはしてねえんだっつーの」
「こんな商売もうやめろ。
いずれ命を落とすぞ」
俺はベッドの側の丸太の椅子に腰を掛けた。
「いつ”戻る”んだ?」
リアムに尋ねる。
「そろそろだよ。”戻る”前にさ、
レンも......スッキリするか?
数分あればヤレるよ。
銀貨2枚に負けてやるからさ」
リアムはそう言うと、俺のそばに寄ってきた。
ガウンの前をはだけさせ、大きな胸をみせつけてくる。
乳首を俺の顔に押し付けてきた。
「やめろ。気色悪い。
俺がお前に欲情するわけがない。
お前の本当の姿は男なんだからな」
うっとうしくて、リアムの胸を肘で押した。
「男だからこそ、男の気持ちいい場所がよく分かるんだ。
だから俺は人気者なんだ」
リアムはそんなことを言う。
「......くっ......。時間切れだ」
リアムはそう言うとベッドにゴロンと横になる。
細くて柔らかそうだったヤツの身体が、やがてゴツゴツとした筋肉質のものに変化していく。
大きな胸は引っ込み、代わりに胴回りが太くなり......。
細い首は太く、喉仏が出て......顔もいかつく変化していく。
数分後、リアムの姿は男に変化していた。
それは男のエルフそのものだった。
「ふぅ、”戻った”ぜ?」
「......そのようだな。
その姿のほうが落ち着いて話せる」
俺はうなずいた。
「......それで、俺の助けが必要なんだよな?
俺はなにをすれば良いんだ?
10年前、レンには世話になったからなぁ。
俺は何でもするぜ」
リアムが自分のベッドにあぐらをかいて、俺のほうを見る。
「ワケは聞くなよ。
俺にも秘薬を分けて欲しい。
女に変身できる秘薬をな」
リアムの目を真っ直ぐ見てそう言った。
リアムも真剣な目で俺を見返してくる。
「火の魔法使い......。本気で言ってるのか?
お前が......女になりたい......だと?」
リアムは大声で笑い始めた。
アハハハ、、アハハハ
リアムの笑い声が部屋中にひびいていた。




