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離ればなれに


大蛇の生き血と引き換えに......俺は魔力を奪われてしまった。

人間になったことで寿命も縮んでいるだろう。


でも構わない。

孤独に生き続けるよりもずっといい。


----------------------


「う.......」

アリッサが小さくうめいた。


「アリッサ、気がついた?

気分はどう!?」

あわてて彼女の顔を覗き込んだ。


「レン!!」

彼女は目を見開くと俺の顔をじっと見つめた。


「アリッサ。いま食べ物をもってくるよ」


その場を離れようとする俺の腕をアリッサがつかんだ。

「レン!いかないで。

あたし......全部思い出したみたいなの。

記憶を取り戻した」


「えぇっ!?」


アリッサは高熱が引き金となって、記憶を取り戻したのだった。


-------------------------


彼女は、北部一帯を支配する「ベルナルド家」の令嬢だという。


「ベルナルド家の令嬢が、どうしてこんな森に迷い込んだ?」

たずねると、アリッサは遠い目をしながら答えた。


「馬車に乗って、タダール城の親戚のもとへと向かっている途中だったの」


「なるほどな......。

それで?」


「馬車に乗り続けていたから、疲れてしまって。

あたしは馬車から降りて一人で休憩していた。

馬車から離れた場所で、きれいな小川を見つけて、涼んでいた。

そしたら、盗賊が急に現れて......」


森には盗賊も多く出る。

通行料をとるものや、追い剥ぎのように、すべてを奪う連中もいる。


「あたしは、盗賊に追われ逃げまどった。

そして、崖から落ちたの。

ヤツらに襲われるくらいなら、死んだほうがマシだと思えたから」


彼女は逃げ惑い、崖から落ちた。

さいわい致命的な傷は追わなかったが、記憶を失い、森をさまよい歩いていたのだろう。


「レン......」

アリッサにじっと見つめられる。

「あなたは、火の魔法使い、闇の森の支配者であるレン・ウォーカー」

「そうだ。

アリッサ・ベルナルド」

俺はひざまずくと彼女に頭を下げた。


「あたしを助けてくれてありがとう」

俺は黙って首を横に降った。


しばらく沈黙がつづいたが、やがてアリッサが口を開いた。

「あたし......両親のもとに帰らないと。

きっとすごく心配してる......」

「......うん......」


やっぱり。

そう来たか。


アリッサと暮らすことはもうできない。

彼女は両親のもとに戻りたがっている。


深い悲しみが胸にうずまいた。


でも、彼女の命は助かったんだ。

感謝しないと。


「ベルナルドの屋敷まで送る」


アリッサと過ごした宝物のような日々。

それはとつぜん終わってしまった。


彼女は俺の元を去るんだ。

また一人きりの生活の始まりだ。


---------------------


ベルナルドの屋敷へと馬車を走らせる。

馬車のなか、俺の向かい側に座るアリッサが口を開いた。


「レンが飲ませてくれた味の変なお薬。

あれは、街で手に入れたの?

あれを飲んでからすごく元気になった」


「あぁ......。あの薬は......そうだ、街で手に入れた」


契約を結んで大蛇の生き血を手に入れただなんて、アリッサに言えなかった。

俺がもう、魔法使いではないことも......もちろん彼女には言えない。


言えば、彼女は罪悪感にさいなまれるだろう。

彼女にそんな思いはさせたくなかった。


「ねぇ......。レンもあたしの屋敷に来て欲しい」

とつぜん、アリッサがそんなことを言いだした。


「レンがあたしを救ってくれたんだって両親に言うわ。

高熱を出して死の淵をさまよったとき、レンが薬を用意してくれたことも話したい。

きっとすごく感謝されるわ」


「いや。......いい」

「えっ。どうして」

アリッサは目を見開く。


「俺は恐れられている。悪い噂も多いだろう。

ご両親がきっと不安に思うよ」

「そんなことない!」


「そうなんだよ。俺の評判はすこぶる悪い」

「レン......」

彼女はしょんぼりと下を向いた。


やがて馬車はベルナルドの屋敷の前に到着した。


屋敷というよりは、ほぼ城といった構え。

高い城壁があり物見台ももうけられ、敵の来襲にそなえる仕掛けも出来ている。


敷地内の門をくぐる彼女の後ろ姿を見送る。

彼女はなんどもこちらを振り返っている。


(これでいいんだ。

気味の悪い魔法使いの俺と、天使のようなアリッサが釣り合うわけがない。

俺はもはや、魔法使いでさえ無いんだけど)


そのとき、彼女が急に俺の方に走って戻ってきた。


アリッサは、勢いよくぶつかるように俺に抱きついた。

「レン.......。レン」

「アリッサ!?」

驚いて彼女の顔を見る。


「やっぱり離れたくない。

寂しいよ」

彼女は涙を流しながら俺の目をみつめた。


このまま連れ去ってしまいたい。

二人でまた暮らすんだ。

そんな身勝手な考えが頭に浮かんだ。


首を激しく横に振り、よこしまな考えを打ち消す。


「俺も寂しい。離れたくない」

アリッサの頭を優しくなでた。

「でもご両親が心配してる」


アリッサは目に涙をたくさんためて、ゆっくりとうなずいた。


「これ......。」

アリッサは胸元から、白い紙に包まれたものを差し出した。


トカゲのお守りだった。


「ずっと持ってるんだ。

レンがくれたから。

これからもずっと持ってる」


アリッサをギュッと抱きしめた。

「......あぁ、トカゲのお守りか。

宝石や書物も、もたせればよかった。

幸運の石や、危険を察知する羽だって、アリッサにあげたかったのに」


「レン。また会える?

また会えるって言って」


「俺には、やらなければいけないことがあるんだ」

彼女のこぼれ落ちる涙を、指でぬぐった。


大蛇の言葉がずっと気になっていた。

5年後にアリッサを妻にすると言った、やつの言葉が......。


「もう会えないの......?」

アリッサの質問には答えず、俺は彼女に背中を向けた。


口先だけの約束はできない。

大蛇との戦いは命がけになるだろう。

無事でいられる保証はない。

もう二度とアリッサに会えない可能性もある。


あいつを確実に殺さなくては。

けっして失敗はできない。


書物によるとヤツは人間に化けることが出来るらしい。

あいつが人間に化けたときなら、互角に戦えるだろう。

きっとやつを倒せるスキができるはず。


ヤツを仕留める方法を早急に見つけ出し息の根を止めなければならない。


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