【レン】
「レン、何やってんの!
動いたら傷が開くよ」
食料......ナイフ、縄、布、皮袋
俺はミクモの声を無視して街で購入した物品を次々とカバンに詰め込む。
「何を言ってもムダなんだな?
タダール城へ向かうのか」
ミクモはため息を付きながら、俺の顔を覗き込む。
俺は彼女のことを無視し続ける。
「気になっていたんだけど。レン......。
なぜ戦いに魔術を使わない?
火の杖はどこに行った?」
「火の杖は失ったんだ」
ぼそっと呟いた。
「なに?
だが、杖がなくとも魔術は仕えるだろう。
威力は弱ると思うが......」
首を静かに振った。
「俺は出発する。
ミクモ......。これ以上、俺を裏切るなよな?」
「あたしは、お前を裏切ったりなんかしてない。
アリッサの居場所をタダール兵に教えたのは、お前のためを思ってのことだ」
「裏切りだ!
お前のせいで、アリッサは連中に捕まってしまった」
「レンのことを裏切ったりなんかしてない!!」
ミクモは、大きな声を上げると俺に抱きついた。
彼女の肩がちいさく震えている。
「ミクモ?
泣いてるのか......?」
「な、泣いてなんかない」
ミクモは派手に、鼻をすすりあげた。
ミクモの両肩に手をおいて、自分からそっと引き離す。
彼女の目をじっと見て伝えた。
「俺は出発する。アリッサのことが心配だ」
「無茶だ。
どうしても行くというなら、せめて体が治ってからにすべきだ」
ミクモは涙の溜まった目で俺を見上げる。
「なんとかなる」
背を向けた俺に、ミクモがなおも追いすがった。
「レン!!アリッサに媚薬でも飲まされたのか。
お前は彼女に夢中だ。
寝ているときも、何度も彼女の名前を呼んでいたぞ」
「彼女は俺の大事な娘だから......」
「違う!!
お前はアリッサに心を奪われている」
「心奪われている......?」
ミクモの言葉を反芻する。
この前もミクモは、俺に向かって「アリッサを女としてみてる」と言った。
彼女の言葉に戸惑う。
ずっと孤独に生きてきた。
闇の森に引きこもって、息を潜めるようにして暮らしてきた。
そんなとき、アリッサに出会った。
彼女は、俺の世界を開いてくれた。
俺は彼女を愛している。
でもそれは、家族としての愛情のはず。
ミクモがさらに言う。
「レンは、あの神官が許せないんだろう?
あいつはアリッサを妻にするつもりだから」
「そうだ。
許せない。あいつは邪悪だ!」
「違う。
お前はアリッサを奪われたくないんだ。
自分のものにしたいから」
ミクモが俺の言葉に被せるように言う。
「......とにかく俺は出発する」
ミクモの方に振り返り、彼女にきっぱりと伝えた。
ミクモはがっくりと肩を落とす。
荷物を肩に下げると、彼女の小屋のドアを静かに閉めた。
一日も早く、タダール城に行かなければいけない。
だが人間の無力さは身にしみて分かっている。
今の俺には何もできない。
タダール城に単身飛び込んだところで、アリッサを救い出せる可能性は低い。
再びアリッサの目の前で醜態をさらして、今度こそクビをはねられるのがオチだろう。
そうならないために......。
俺には「秘策」があった。
タダール城に行く前に、レザナスの街に行かないと。




