【レン】
兵士に頭を押さえつけられる。
俺は首を切り落とされるのだろう。
「やめて!!お願い。
レンを殺さないで」
アリッサの泣き叫ぶ声が聞こえた。
彼女の笑顔。
柔らかな髪の感触。
抱きしめたときの甘い香り。
そんなことがつぎつぎと浮かんでくる。
(アリッサ.......
アリッサを守らないと)
俺は、兵士の足を思い切り裏拳で殴りつけた。
「うっ!!」
兵士が痛がって、しゃがみこむ。
俺の頭を押さえつけていた兵士の手がゆるんだ。
身体をすばやく回転させながら、数人の兵士にキックする。
もう無我夢中だ。
肩や太ももを斬りつけられ、血が飛び散る。
たが、痛みは感じない。
のしかかってくる兵士のみぞおちにパンチを食らわせる。
背後から突進してきた兵士をすんでのところで避けると、そいつの剣は、別の兵士を串刺しにした。
仲間を殺してしまった兵士はビビって腰を抜かす。
俺はそいつの頬を蹴り飛ばすと、剣を奪った。
俺は奪った剣を構えた。
数十人の兵士たちが、円を描くように俺を取り囲む。
そしてジリジリと間合いを詰めてくる。
「レン!!やっちまえ」
檻の中からディルが叫ぶ声が聞こえた。
「お前も手伝えよ!!」
俺も叫び返す。
「......30人の兵士が一人相手に、なにをやってる!!」
神官が怒鳴った。
その声に兵士たちは「ハッ」として剣を握り直す。
(集中しろ......)
タダール兵の連中は怯えているが、なにしろ数が多い。
俺に勝ち目はほぼ無いと考えていいだろう。
だが、むざむざ首を切り落とされたりなんかしない。
戦って、戦い抜いて、それで命が散るなら、その方が良い。
(一人でも多く殺してやる!!)
「うぉおおおお!!」
一番大きい兵士が叫びながら俺に向かってきた。
それにつられて他の兵士たちも飛びかかってくる。
俺は身をかがめ、敵の剣を避け、相手を切りつける。
相手の剣が俺の肩に深く突き刺さった。
くそっ!!
深手を負った。
そのときだった。
ガ、ガ、ガガガ...........
大きな地響きがおきる。
「じ、地震!?」
兵士たちは動きを止め、キョロキョロとしている。
地面が大きく揺れるので、みな、立っているのが精一杯だ。
「約束と違う!!
レンは......レン・ウォーカーには手を出さないと言ったじゃないか」
......ミクモだった。
「人間の争いに関わらないのが信条だけど、レンに手を出すのは許せないね。
お前ら根絶やしにしてくれるわ」
ミクモは杖をジグザグに動かすと呪文を唱える。
地響きがひどくなり、やがて地面に裂け目ができた。
兵士たちが次々と裂け目に落ち、地面に吸い込まれていく。
土の魔女、ミクモの魔術だった。
「ちッ!!撤退だ。
アリッサが傷つくと困る」
神官が叫ぶ。
「アリッサ!!」
「レン!!」
アリッサは懸命に俺のほうへと手を伸ばす。
だが神官にガッシリと抱きすくめられ、連れて行かれてしまう。
「まて!!ア、アリッサを連れて......行くな」
追いかけようとしたが、足に力が入らない。
出血がひどく、気を失う寸前だった。
「ア......リッサ」
目の前がぼんやりする。
俺はその場に倒れ意識を失ったのだった。




