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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
大蛇をさがして
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【レン】


「レン、怒ってる?」

フレスコからの帰り道、アリッサが恐る恐る俺にたずねた。


「最初から怒ってなんかない」

ミクモの小屋に向かって、森の中を歩きながらアリッサに言う。

「アリッサは、お嬢様育ちだ。

世間のことを知らないから、起きてしまった事だと思ってる。

でもこれで、人買いに売り飛ばされてしまうってことがどういうことか分かったよね?」


「......うん」

アリッサは真剣な顔でうなずいた。


「ねぇ......。レン。

売り飛ばされたら、あたしはどうなるの?

なにをさせられるの」

アリッサが不安そうな目で俺を見ている。


「なにって......」

思わず口ごもった。

言えるわけない。


男たちの好きにされ、乱暴されてしまうなんてこと。

娼館で働かされるかもしれないし、金持ちの男に買われるかもしれない。


アリッサがキラキラした目で俺を見ていた。

とても......そんなこと、アリッサに言えない。

男の欲望のことも、世間がどんなに残酷なのかも。


でも、きちんと怖がらせておかないと、アリッサはまた同じことを繰り返す可能性もある。


「とても痛い目に合わせられる。

死んでしまいたいくらい辛い目に合うだろう」


「えっ......。そんな......ひどい」

アリッサは目を見開いて震えている。

「怖いわ。

そういう目にあっている女性が実際にいるってことでしょう。

......許せない」


「そうだな。

許せないことだ。

今はベルナルド領が攻め込まれて戦争が起きている。

そういうときは、さっきみたいな悪い奴らが次々と現れるんだ。

フレスコの街は、いつもアリッサが遊びに行くカノンとは違うってことも肝に銘じてほしい」


「もう一人で出歩いたりしない」

アリッサはそういうと、そっと俺の手をつかんだ。


とにかく無事でよかった。

アリッサに何かあったらと思うと怖くて思わず大声で怒鳴ってしまった。


でも彼女も両親のことが心配で、何かせずにはいられなかったんだろう。

それで思わず、ミクモの小屋を飛び出して、俺のあとを追いかけてきたんだ。


「さっきは大声で怒鳴って悪かった」

アリッサの顔に視線を移すと、謝罪した。

「いいの。言うことを聞かなかったあたしが悪いの」

アリッサは俺の手をぎゅっとにぎった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミクモの小屋についた。

「あれ?ミクモがいないな」


部屋の中をみまわす。

彼女の愛馬もいなくなっていた。


「レンが街に出かけてからすぐに、ミクモさんも馬でどこかへ出かけたわ」

「そうなのか」


食糧でも手に入れに出かけたのか。


二人でミクモの家の食堂のテーブルにつく。

「街で買ってきたお土産だ」

革袋から果物を取り出すとアリッサの前に並べる。

「わぁ、美味しそうだわ。

ありがとう」

アリッサはニッコリ笑うと、リンゴを愛おしそうになでる。


「そういえば、レン」

「なんだ」

「カノンの街で......あたしに話があるって言ってたよね。

こんなことになって、すっかり忘れていたんだけど」


「あぁ......」


そうだった。

あのときアリッサに大蛇のことを話そうと思っていたんだった。


「今、話して」

アリッサが大きな瞳で俺をじっとみる。

こんなときに話してもいいものだろうか。

だが、いずれ話さないといけない。

いつまでも、この話をふせておけば、アリッサに危険が及ぶかもしれない。


ーーーーーーーーーーーー


大蛇の生き血を手に入れたこと、それをアリッサに飲ませたことを彼女に話した。


「まって。

あたしが病気になったとき?

あのとき、レンは大蛇のところへ出かけたの?」

アリッサは俺の話を聞くと、ガタっと音を立てて椅子から立ち上がった。


「そうだ。

アリッサを救うには、大蛇の生き血を手に入れるしかないって思った」


「......大蛇の生き血......。

死の淵にいる者の寿命を延ばすことが出来る」


「アリッサ!!大蛇の生き血について知っているのか?」


驚いた。

大蛇の生き血にそういう作用があることは、あまり知れ渡っていないはずなのに。


「レンの屋敷の書庫で読んだのよ。

本があるでしょう」


なるほど。

アリッサはかなりの読書家だった。

俺の家に滞在している間に、大蛇について書かれた書物にも目を通したのだろう。

そのことを考えもしなかったなんて、どうかしてた。


アリッサは遠くを見ながら言った。

「たしか、大蛇の生き血を手に入れるには取引が必要なはずよ?

なにか大切なものをひきかえにしないと、蛇は血を渡さないはず」


「......」

「レン。

大蛇になにを渡したの?

どんな取引をしたの?」


まずいな。

俺が生き血と引き換えに魔力を失ったことは、話すつもりはなかったんだが。


「違うんだ。

大蛇は、アリッサのことを狙ってるんだ。

だから気を付けて欲しい。

大蛇は人間に化けている。

そしてアリッサを狙っているんだ。

俺はそのことを伝えたかっただけで......」


アリッサは苦し紛れに言った俺の言葉に首を傾げた。

「どういうこと。

大蛇があたしを狙っている?

あれから5年も経つのに?

取引の内容はいったいなんなの?」


アリッサは頭が良い。

簡単には納得してくれそうになかった。



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