【レン】
「レン......。お前のことが好きなんだ」
ミクモは俺のほうへ再び手を伸ばした。
「家に入れてくれたことには感謝してる。
だが、今夜は休みたい」
俺は、一歩後退りして彼女から離れた。
「ちっ!!
お前の体力が回復したら、存分に楽しませてもらうからな」
ミクモは俺を睨みつけてそう言うと、自分の部屋に引っ込んだ。
(楽しませてもらうからな......だと)
思わずため息が出る。
あいつはしつこい。
2年前。
「大蛇の情報がある」とミクモが言うので、俺はこの家に泊まった。
そして関係をもった。
俺とミクモは一夜限りの関係。
結局、あの女は大蛇について大した情報を持ってなかった。
俺は情報が欲しくて、あの女に言われるがまま、関係を持ったのに。
あいつは人を平気でダマす性悪魔女だ。
チラッとアリッサの方に視線を向ける。
アリッサは、じっとこちらを見つめている。
「どうした。アリッサ」
アリッサはプイッと、そっぽを向いた。
「なんでもないわ。
あたしはこのソファで寝る。
レンはミクモさんの部屋で寝ればいいのよ?」
不機嫌そうな口調でそう言った。
「なぜ怒ってる」
「お、怒ってなんかない」
アリッサは俺から目をそらしていた。
怒った彼女の横顔をじっと見る。
........そうか。そうだよな。
両親のことが気になっているんだろう。
ミクモに
「両親は生きてないだろう」
そんなふうに言われて、焦りや苛立ちを感じているのだろう。
「アリッサ。こっちを見て」
「なによ」
アリッサがようやく俺のほうを見る。
「明日、フレスコの街に行ってみる。
カノンやタダール城と取引のある行商人に話を聞いてみる。
なにか情報を持っているかもしれない」
アリッサは大きな目を丸くして俺を見ている。
「情報をさぐってくるから。
はっきりするまでは、あれこれ考えても仕方がない。
心配せずにぐっすりと眠れ」
アリッサのそばに近寄ると、そっと彼女の髪にふれた。
彼女は俺が髪に触れると、ビクッと肩をゆらした。
「こうするのが好きなんだ。
とても......癒やされる。
でも、アリッサは嫌だって言ってたよな」
「......ううん......。嫌じゃない。
嫌じゃないんだよ」
アリッサは何故か悲しそうな目を俺に向ける。
「さぁ、寝るんだ。
俺は眠りが浅いから、何かあればすぐに目が覚める。
安心してぐっすり眠れ」
彼女の両肩を押して、そっとソファに横たえさせる。
毛布を肩までかけてあげると、彼女の前髪にそっと触れた。
「レン......。
レンもぐっすり眠って」
アリッサはまだ何か言いたそうだった。
不安でたまらないんだろう。
「俺は大丈夫だ」
テーブルの足元の床にごろりと横になると目をつぶった。




