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【レン】ふたりで決めたこと


アリッサも俺も、同じ考えだった。


俺たちは「貴族」の階級を捨てる。

ベルナルド家をでていく。

身分を捨て、名前を変える。


そうすればリックを狙うものたちから、姿を隠すことができるはず……。


それが最善の道。

ふたりでそう決めた。


俺たちにとっては、なによりもリックが大事。

親なら、子どものために最善の道をえらぶ。

それは明白なことだった。


「レン......ほんとうにいいの。

すべてを失うことになる」


「良いに決まってる」

俺はアリッサの目をみつめかえした。


見晴らしの草原に穏やかな風が吹いた。

ふわふわと花の綿毛が飛び、風になびいた草がゆれる。

遠くに鳥の群れが列をなして飛んでいた。


アリッサは広げた敷物の上で横座りし、俺の肩にもたれかかった。

彼女の髪から、甘い良い香りがした。


「あなたは、あたしと出会ったせいで魔力を失った。

長い寿命も失った......。

そのうえ、また......すべてを失っても良いと言うの?」

アリッサが震える声で俺に聞いた。


「何を言ってる?」

俺はアリッサの髪をゆっくりと撫でた。

彼女の髪をなでると気持ちが落ち着いた。


「俺は宝物を得た。

アリッサとリックだ。

魔力なんていらない。どうでもいい.

ほかのものも要らない。

アリッサとリックという最上のものを手に入れた」


「レン......あたしもだわ。

あなたとリックがいれば幸せだわ」


風のざわめきが一瞬、ピタリと止んだ。

鳥のさえずりさえも聞こえなくなる。


俺たちは、お互いの目をじっと見つめると......ゆっくりと口づけした。

「アリッサ。愛してる」

幸せが胸に広がるのを感じた。


-----------------------------------


「残念だわ」

「だが二人の選んだ道なら仕方がない」


アリッサの両親である、パトリックとメアリに会いに行った。

ふたりは、俺たちにベルナルド家の運営をまかせ、チリンガ湖のほとりの小さな屋敷でひっそりと隠居生活を送っていた。


「ベルナルド家を最後まで継ぐことができず、申し訳ありません」

俺は頭を下げた。

「いや......いいんだ」


俺とアリッサが不在となるベルナルド家は、パトリックの弟夫婦が引き継いでくれる。

弟夫婦とは、婚姻の儀の際、話したことがあった。

生真面目で誠実な印象の夫婦だった。

彼らなら大丈夫だろう。


「アリッサを幸せにしてくれれば......それでいい」

パトリックはそう言うと、俺をそっと抱きしめた。

「お父さま......」

アリッサは涙ぐんでいた。


---------------------------------


それから10年後............


「待ちなさい!サラ!」

アリッサが大声で長い廊下を走る。


6歳のサラが、アハハハ!と笑いながらアリッサから逃げ回っていた。

「だめよ、サラ。今からお勉強の時間でしょ」

「お勉強やだー!お兄ちゃんと遊ぶんだもーん」


「もう、あの子ったら」

アリッサは頬をふくらませると、ふぅとため息を付いた。


「つかまえた!」

廊下の物陰から、突然飛び出したリックが、サラのことを捕まえると抱き上げる。

「ダメだぞ、お母さんを困らせたら」

「だってぇ。お勉強つまんないんだもん」


サラは、リックに抱かれ、脚をバタバタさせている。


「リック、サラに算数を教えてやってくれ」

俺はリックにそう言った。

「いいよ、父さん」

リックはそう言うと、ニッコリ笑う。

「やったー!お兄ちゃんに教わりたい!」

サラは満面の笑み。


「まったく、あの娘はお兄ちゃんのことが大好きなのよね」

アリッサがため息を付きながら笑っている。

「リックが賢い子だから、助かるよなぁ」


------------------------------------


俺とアリッサは、ベルナルドの屋敷から出ていった。

貴族であった身分を捨てた。

髪を染め、名前も変えた。

計画どおり……すべてを捨てて、身を隠したのだ。


ベルナルド家に大蛇の子どもがいる......。

その事実は大陸中に広まっていた。


リックの身の安全と自由を手に入れるために、身を隠すことは必要な措置だった。


俺とアリッサ、そして幼いリックはヴェッセルの街にたどり着いた。

そして手持ちの資金を使い、街で「宿屋」を経営しはじめた。


最初は苦労も多かったけど。

ディルに頼んで、闇の森で取れる産物を優先的に、仕入れさせてもらった。

そのことで、経営は安定した。

徐々に宿は繁盛しはじめて、いまでは連日満室だ。


やがて、俺とアリッサとの間に子どもができた。

リックの妹のサラが生まれたのだった。



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