【レン】リックを守るために
ユーシンが、街で馬車を調達してきてくれた。
俺たちは早速、馬車に乗りこみ帰路につくことにした。
早く帰ってリックを休ませてあげたい!
馬車に乗り込もうとすると、エレナが立ち止まった。
「どうした?エレナは乗らないのか」
「私はここでお別れです。
ディルさまとニナさまのもとへ戻ります」
「それなら、途中まで一緒に行こう」
と声を掛けたが
「街の厩舎に預けてある、自分の愛馬に乗って帰りますので」
とニッコリと笑った。
「エレナ、いろいろとありがとな。
ディルによろしく伝えてほしい」
ベルナルドにもまた遊びに来てくれ」
「そうよ、また会いに来てね。
そのときは、本来のあたしの姿をお見せできるはずよ」
アリッサがエレナにそう言った。
エレナは馬車に乗り込んだ俺たちにむかって、ずっと手を振っていた。
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(はやく、元のアリッサの姿に戻ってほしい......)
俺は、ヒゲの大男の顔をそっと盗み見た。
馬車の中で......アリッサは俺により掛かると、うたた寝し始めた。
リックも俺の腕のなかでスヤスヤと眠っている。
(あぁ、幸せだ......家族が全員、無事にそろった)
ふいに、肩に寄りかかって寝息を立てているアリッサの重みが「フッ」と軽くなった。
視線を向けると、ヒゲの大男は、アリッサの姿に戻っていた。
長いブロンドの髪に透き通るような白い肌。
まつ毛をふせて、スースーと寝息を立てている。
(よかった......。アリッサが大男のまま元に戻らなかったら、どうしようかと思っていた......)
俺はアリッサの髪をそっとなでると、安堵のため息を付いたのだった。
気がつくと、俺も......もとの「レン」の姿に戻っていた。
これでいつもどおりの生活に戻れる......?
幸せな生活が戻ってくる?
腕のなかでぐっすりと眠るリックをみる。
(いや......そうはいかないだろう。
リックが安全に生きられる道を探さないといけない。
そうしないと、安心できない)
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数週間後。
ある晴れた日の午後......。
「リック!こっちにおいで」
「パーパ」
リックはよちよちと歩きながら、俺の方へと向かってくる。
だいぶ、長く歩けるようになってきた。
俺はリックを抱きしめようと両手を広げた。
「さぁ、ランチにしましょう」
アリッサが、バスケットからパンやフルーツを取り出すとそう言った。
無事にベルナルド領に戻ってきた俺たちは、2,3日は身体を休めてゆっくりと過ごした。
それから、徐々に元の生活に戻っていった。
俺は今までどおり……カノンの街の商人たちからの陳情を聞いたり、宗教行事に参加したり。
アリッサは、諸侯の奥さまとの交流に努めていた。
リックにはユーシンを初めとする3人の護衛を付けた。
どの護衛も信頼のできる人物だった。
その日......。
リックを連れて家族3人で、ベルナルド領のはずれ......「見晴らしの草原」にピクニックに来た。
「見晴らしの草原」というのは、俺とアリッサでつけた名前。
ここは俺たちのお気に入りの場所だった。
「パーパ。たべゆ」
リックはパンを齧りながら、俺にもパンを手渡した。
「ありがとう!リックは優しいんだな」
リックから手渡されたパンをモグモグと食べる。
太陽をたくさんあびて、遊び回ったリックはご飯を食べ終わったあと、ウトウトとしだした。
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リックをカゴの中に寝かせると、アリッサは俺のほうをみた。
俺もアリッサに向かってうなずく。
「レン......。あたし、ずっと考えていたのだけど」
アリッサが口を開いた。
「このままでは、リックの安全が保証できない」
「そうだな……分かっている」
アリッサの言う通りだった。
屋敷には入れ替わり立ち替わり、来客が来る。
兵士に「スキ」が生まれれば、リックが再びさらわれることもあるだろう。
さらにいえば.......。
リックが大きくなったらどうする?
ずっと屋敷に閉じ込めておくわけにもいかない。
リックにだって、外に出ていろいろ経験する権利がある。
アリッサは不安そうに俺の顔を見ていた。




