【アリッサ】
「ミクモ。ありがとう、助かるよ」
ミクモはあたしたちに、猪の肉や野イチゴのサラダを振る舞ってくれた。
「ベルナルドのお嬢様のお口に合うかわからないけど」
「とても美味しいです」
空腹で死にそうだったので、はしたないと思いながらもペロリと平らげてしまった。
父と母が心配で居ても立っても居られないのに......。
こんなにたくさん食べることが出来るなんて、どうかしてるのかも。
「まだ夕方だが。
休ませてもらってもいいか」
レンは窓際に立ち、外の様子を眺めながら言った。
「もちろんだ。お前はつかれた顔をしている」
ミクモは立ち上がるとレンのそばにゆっくりと歩いていった。
ミクモはレンの頬にそっと触れる。
「2年前......最後に会ったときよりも、レンは背が伸びたような気がするな。
お前......どうして急に成長が早くなった?
成長を早める薬を飲んだな?」
ミクモはそういいながら、レンの肩や腹、腕を調べるようにベタベタと触っている。
ミクモとレンは、一体、どういう関係なんだろう。
もしかして......恋人......?
ミクモはレンの首に両腕を回すとじっと彼を見つめている。
あたしは思わず目をそらした。
なんだろう......この気持ち。
レンが取られてしまうような、いらだち。
胸の中がドロドロしたもので渦巻いている。
あたしは.......ミクモに嫉妬してる。
「そうだ、成長を早めているだけだ。
早く大人の姿になりたいからな」
レンはうるさそうに、自分の首にまわされたミクモの腕を振り払った。
「冷たくするな。お前に会えて嬉しいんだ。
レン......。お前はやっぱり、いい男だな。
美しい顔をしてる」
ミクモがレンの顔に触れる。
レンはぷいっとミクモに背を向けた。
ふとミクモがあたしのほうに視線を向ける。
「おっと。お嬢様には刺激が強いかな。
お嬢様は客間で寝ると良い。
あたしとレンは、二人で一晩過ごすから......」
レンはミクモの方に振り返ると言った。
「お前と寝るつもりはない」
「なん......だと」
ミクモが目を丸くする。
「あたしがどんなに寂しい思いをしていたか分かってるのか?」
「呑気に、女と寝たりする余裕はないんだ。
体力を取り戻したい」
「2年前はあんなに激しくしてくれたじゃないか」
「おい。それ以上言うな」
レンはあたしのほうをチラッと見た。
彼の顔が赤い。
ミクモもあたしのほうに視線を向ける。
「レン。まさかアリッサのことが......?
お前たち、恋人ではないよな?」
「恋人じゃない。
アリッサは俺の大事な子どもだ。
とにかく今は体力回復に努めたいだけだ。
悪いが、寝かせて欲しい」
(......恋人じゃない......)
レンの言葉に傷ついた。
今さらだけど.......やっぱりあたしはレンのことが好きなんだ。
彼の恋人になりたい。
本心ではそう思ってる。
彼が抱きしめてくれたり、頬にキスをしてくれると、あたしはドキドキする。
もっとして欲しいってそう思っていた。
彼のことを愛してる。
あたしは、そのことを認めるしか無かった。
それなのに、彼はあたしのこと......子どもだと思ってる。
分かっていたことだけど。
胸の奥がズキンと痛むのを感じた。




