【レン(ミナ)】斬りつけられてしまう
【レン(ミナ)】
「ぬおりゃあああああ」
アイヒンは剣を抜くとダッシュした。
ヤツは一直線に俺に向かって走ってくる。
(マズイ!俺はリックを抱いてるんだ。
両手がふさがっているし、リックが巻き込まれる!)
アイヒンの動きを冷静に見て、攻撃を避けようと腰を低く構えたそのとき......!!
「なにすんのよ!!」
ヒゲの大男が、俺に飛びかかろうとするアイヒンに体当りした。
見事な体当たりだった!
アイヒンは、ふっとび一回転して受け身を取った。
そして地べたに片手を着くと、俺たちを見上げる。
「やるじゃねえか、大男」
「誰だか知らないけど、あたしたちのことは放っておいてちょうだい!
リックはまだ赤ん坊なのよ!」
大男は口からつばを飛ばして、アイヒンにそう叫ぶ。
(さっきから、変だな......とは思っていたけど。
この大男、まるで言動がアリッサみたいだな)
ふとアリッサの顔が大男の顔と重なる。
(まさか......な......。
俺の美しい妻アリッサと、このヒゲの大男を一緒にするなんて、どうかしてる)
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とにかく、リックを抱いた状態では、まともに戦えない。
俺はすばやくザザザァーッと後退りすると、リックを数メートルうしろの草の上にそっと降ろした。
「リック!!ここにじっとしてろ」
「あぶ、あぶー」
両手が自由になった俺は、戦いの体勢をとった。
武器がほしいところだが、この両手でなんとか凌ぐしか無い。
アイヒンは剣を構えると、俺の方へ向ける。
「女......覚悟しろ。容赦しない」
「やってみな」
俺はアイヒンをまっすぐににらみ付けた。
ミナの体は非力で体力もない。
そのかわり、小回りがきいてすばしこい。
俺はアイヒンがふるう剣を、わずかな動きでよける。
右へ、左へ、避け続ける。
だがこのままでは、自分の体力が尽きる。
それに避けてばかりでは、勝ち目がない。
首をねらった大ぶりの剣を、素早くしゃがんで避ける。
そしてアイヒンの足元にスライディングして入り込んだ。
渾身の力でヤツのキンタマを拳で殴りつける。
「んほっ!!」
アイヒンは痛そうな声をあげると、身体を二つ折りにした。
「このアマ、ゆるさねえ」
そう言って俺をにらみ付けると、くるりと身体を回転させる。
そして、ヒゲ面の大男のほうへ、身体の向きを変えた。
「お前の相手は俺だ!!」
俺はアイヒンをけしかけた。
だが無駄だった。
アイヒンは大男にむかって、剣を振り下ろす。
大男は、剣を振り上げて向かってくるアイヒンに恐怖を感じ、地べたに腰を抜かしてしまう。
しかも大男はアイヒンに背中を向けた。
(あいつ......戦う気ゼロだな)
アイヒンは剣を振り上げ、大男の背中を切りつけようとしている。
俺は足元に転がっていた石を、アイヒンに投げつけた。
石はアイヒンのこめかみに当たった。
「くそっ!」
アイヒンは血が流れ込む目をこすると、さらに大男を狙う。
「やめてったらぁ!!」
大男は野太い声で叫ぶと、地べたに腰を抜かしたまま、あとずさりする。
「リック!!」
アイヒンに攻撃されそうな大男のそばに、ヨチヨチ歩きのリックが歩み寄るのが見えた!!
「リック、来ないで!!」
大男が叫ぶ!
「ダメだリック!!」
俺もリックに向かって叫んだ。
このままではリックが......リックが危険な目に遭う!!
俺は大男に向かって攻撃しようとする、アイヒンの前に身を投げだした。
ザッッ!!!!
肉が切れる嫌な音。
アドレナリンのお陰で痛みは感じない。
ただ.......電気が走ったような衝撃。
(マズイな.......)
と冷静に考えを巡らせる自分。
アイヒンの意地の悪い笑い顔。
大男の悲痛な叫び。
リックの鳴き声。
全てが......コマ送りのようにゆっくりと進んだ。
リックをかばうように、アイヒンの前に身を投げだした俺は、アイヒンに胸を斬りつけられてしまった。
ドクン、ドクン......。
心臓が激しく波打つ。
足元に血溜まりができるのを感じる。
(致命傷をおった。俺は助からない)
今までの経験から、そのことがハッキリと分かった。
「いやああああ」
大男が地の底から響くような大声で叫ぶ。
そして、大男はアイヒンに飛びかかった。




