【アリッサ】胸が張り裂ける・【レン】泣き叫ぶリック
【アリッサ(アーリー)】
リックは見知らぬ女に抱かれ、舞台の上に連れ出されていた。
「おぉー、あれが大蛇の子どもか!!」
「なんだ、普通の赤ん坊じゃないか」
客席から不満の声が聞こえる。
リック!!
あたしはリックをみて、胸が張り裂けそうになった。
リックは目に涙をため始めていて、いまにも大泣きしそうだった。
ママはここよ。
すぐに助けてあげる。
お家に帰りましょう。
あたしの大事な子!
あたしの子なのよ。
ミナ......つまり女体化したレンの方に視線を向ける。
レンも、ものすごい形相で舞台を睨んでいた。
(あぁ......。レン、本当にごめんなさい)
あたしは心のなかでレンに謝罪した。
あたしはレンのことを疑っていた。
リックはレンの子どもじゃない。
血がつながっていない。
だからレンは、あの子のことを愛していないに違いない。
あの子のこと、愛してないから女王に差し出すようなことを言ったのね!?
あたしは、そう言ってレンをののしった。
でも違う。
レンは、女体化して自分をオークションにかけている......。
そんな危険を犯してリックを助けようとしている。
なによりもレンの必死な表情を見ていれば、分かる。
レンは、リックのことを愛してるってことが分かる。
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「ほんとに大蛇の子どもなのか!?
その証拠を見せろ!」
客席から野次が飛ぶ。
リックを抱いている女は、衣服をめくるとリックの背中を観客に見せた。
その背中には、ウロコがびっしりと生えている。
客席から、どよめきが起きる。
「ほんものみたいだな......」
「ヘビのウロコのようだ」
だがまだヤジは止まない。
「ウロコだけじゃ、能力の真偽はわからない!」
という声がして、
「そうだ、そうだ」
と言う同意の声がどんどんと大きくなっていく。
「賢明なパラド王国のかたたち、当然、そうおっしゃると思っておりました」
司会者がそう言ったので、あたしは嫌な予感がした。
舞台の上に、やせ細ったフラフラの老人が数人の男たちに無理やり連れてこられた。
「この老人は、病で残り僅かな人生です。
さらに、こうしたらどうでしょう」
司会者は、残酷にも老人の腹をナイフで切り裂いた。
「なんてこと!!」
あたしは思わず叫ぶ。
レンも眉をしかめてみている。
(まさか......)
あたしはドクン、ドクン、と心臓が早鐘を打つのを感じる。
(まさか!?)
あたしはレンのほうへ視線を移した。
あたしがリック救出のために下手な動きをすれば、きっとレンの邪魔をすることになる。
彼の動きを見守ろうと思った。
......思ったのだけど。
あたしは、このあと、リックが傷つけられるのを見て、頭が真っ白になってしまった。
勝手に身体が動いていた。
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【レン(ミナ)】
縛られた手の縄がなかなかほどけない。
早くほどかないと。
痩せた老人がナイフで切り裂かれた。
司会者は、老人に深い傷を追わせたが、わざと即死させなかった。
老人は血の海に横たわり、ピクピクと動いている。
司会者が、リックの腕をつかんだ。
(ダメだ!やめてくれ)
「嫌よ!!やめて」
ヒゲ面の大男がなぜか、泣き叫んでいる。
司会者がリックの腕を、サッと軽く傷つけた。
(クソ野郎!!許さない)
心のなかで叫ぶ。
「あぁあああん、わぁあああん」
リックは腕を傷つけられ、火がついたように泣き始めた。
そりゃそうだろう。
痛いよな。
可哀想に。
パパが変わってやれたらどんなに良いか……。
見ていられない。
つらすぎた。
......まだ、縄がほどけない!
リックは真っ赤な顔をして涙をボロボロ流している。
あの子の腕から流れ落ちる血を、司会者は瀕死の老人の口もとへと持っていった。
リックの血は、ポタン、ポタンと落ちていき、老人の口の中へと入っていくのが見える。
「う、うぅうう~」
老人は白目をむいてのたうち回った。
「なんだ、なんだ!ありゃ、死ぬぞ。」
「苦しんでるじゃないか!ほんとうに大蛇の血なのか?」
客席からヤジが飛んだ。
そのときだった!
ヒゲ面の大男が野太い声で叫びながら、舞台の上に上がっていった。
「あたしの子を傷つけるなんて、許さないんだから!」
男はそういうと、司会者の男の頬をつよく叩いた。
司会者は、大男に叩かれてうしろに吹っ飛んだ。
男はかなりの腕力の持ち主らしい。
「許さないんだからあ」
そう言うと、大男は、女の腕からリックを奪い取ると女を突き飛ばした。




